【連載】Talking of LAL「第58話 リムルス試験のバリデーション」
本記事は、和光純薬時報 Vol.73 No.1(2005年1月号)において、和光純薬工業 土谷 正和が執筆したものです。
第58話 リムルス試験のバリデーション
リムルス試験のバリデーションについては、これまでも何度か考えてきました。今回は、バリデーションの本音と建前について考えてみたいと思います。
リムルス試験のバリデーションでは、(1)測定手法が正しく実施されていること、(2)各試料の測定条件が正しく設定されていること、(3)日常試験で想定した条件で測定が実施されていることを証明することが行われています。各項目について確認してみましょう。
(1)測定手法が正しく実施されているか
試験を行う施設及び操作者が期待される試薬の性能を出せることを確認します。ゲル化法では、表示ラベル感度(λ)通りのゲル化感度がでるかどうか、比濁法及び比色法では、検量線の相関係数で判断します。
(2)各試料の測定条件が正しく設定されているか
試料が測定に影響を与えないことを確認します。基本的にエンドトキシンの添加回収率で判断します。測定に影響がある場合は、通常希釈倍率を上げて影響を回避します。希釈倍率は、試料のエンドトキシン規格値と使用するリムルス試薬の感度によって制限を受けます。試料の特性を考慮して、希釈以外の方法で試料の影響を回避することもあります。
(3)日常試験における測定条件の確認
日常試験では、水を陰性コントロールとして測定することで使用する水の品質を、エンドトキシン溶液を陽性コントロールとして測定することで使用するエンドトキシン溶液の活性を、試料にエンドトキシンを添加した陽性製品コントロールを測定することで試料の測定への影響がないことを確認します。
もちろん、これらの測定でリムルス試薬の劣化がないかどうかも確認しているわけです。これらが規格内であることを確認し、試料の測定値が信頼するにたることを証明するわけです。
上記の項目は各国局方に記載されている内容で、いわば建前に相当します。今回は本音の部分についても考えてみたいと思います。ここで言う本音とは、自信をもって試験できる条件を定めるまでに確認したり、設定したりしなければならない検討のことを指しています。
測定条件を決めるまでの準備として何が必要でしょうか。まず、溶解性、pH、成分など、試料に関する基礎的情報をもとに、必要な対策を予想します。特殊な操作が必要なさそうであれば、10 倍程度の希釈系列を作成してエンドトキシン添加回収試験を行い、おおよその希釈倍率を決めます。
おおよその希釈倍率を含む 2 倍希釈系列を作成し、エンドトキシンの添加回収試験を行い、試験に用いる希釈倍率を決定します。試料のエンドトキシン規格値をもとに、最大有効希釈倍数(MVD)を求め、決定した希釈倍率が MVD より小さいことを確かめます。
試料の測定濃度設定は、エンドトキシン回収率に対する余裕と、MVD に対する余裕をもって設定する必要があります。試料の濃度は、エンドトキシン回収率が規格ぎりぎりのところを選ぶのではなく、ある程度回収率に余裕がある結果が得られる濃度を選びたいところです。
例えば、阻害の認められる試料の濃度を決めるとき、ゲル化法で 2λ のエンドトキシンを添加した試料が始めてゲル化する濃度を選択するのではなく、それより 2 倍ないし 4 倍高い希釈倍率を選ぶべきでしょう。ゲル化法で測定を行うにしても、他の定量法、例えばトキシノメーター法などで、よい回収率(75%-125% 程度)が得られる試料濃度を選べば、試料のロット間差や測定操作から来る誤差などによる変化に対応することができます。
MVD に対する余裕は、選択する LAL の感度に依存しますから、試料の測定濃度と MVD を考慮して、余裕のある感度の試薬(測定法)を選ぶべきでしょう。
ここで注意が必要なのは、試料のロット間差です。試料の主成分以外の混入物が測定に影響を与える場合があります。例として、アンプルなどから溶出する鉄やアルミイオンがエンドトキシンの活性を低下させる場合が挙げられます。
このように、通常の品質試験で管理されていない微量成分が測定に影響を与えることがあることも考慮する必要があります。通常 3 ロット程度の試料について条件設定を行いますが、試料の性質によっては、条件設定後注意深く陽性製品コントロールの結果などを見ていく必要があるでしょう。
試薬のロット間差も微妙に結果に影響する場合があります。最近の LAL 試薬はロット間差が少なくなったとはいえ、やはり天然物ですからロットごとに違った顔を見せることがあります。しかし、測定条件に余裕を持たせて設定してあれば、LAL のロット間差が原因で規格から外れることはまずないと考えてよいと思います。もし、ロット間差が見られるとすると、日常検査の陽性製品コントロールの値に違いが出てくると思われます。
エンドトキシン試験を行う場合、建前である予備試験と日常試験を問題なく行うために、本音の部分である試料の情報や条件設定のための予備実験、試薬の選択などが行われます。すなわち、建前でいつも良い結果を得るために本音の部分で努力が必要と言えるのではないでしょうか。