遺伝子クローニング試薬
遺伝子クローニングとは組み換えDNAを宿主細胞に入れ、目的遺伝子を増やしてDNA断片を量的に得る操作です。この遺伝子クローニングはDNA解析や遺伝子組み換え技術の発展に大きく貢献してきました。遺伝子クローニングにはDNA断片のクローニングベクターへの組み込みや宿主細胞を用いた増幅など種々の工程が必要です。当社は遺伝子クローニングの一連の工程に必要な試薬を取り揃えています。
学術コンテンツ
遺伝子クローニング方法の選択
遺伝子クローニングを検討する際に、操作の簡便さと効率の面で二種類(もしくは一種類)の制限酵素でそれぞれ切断したベクターとインサートDNA を用いた突出末端クローニングがよく選択されます。
また、Taq DNA Polymerase などのターミナルトランスフェラーゼ活性を有するPCR 酵素で得られた増幅産物は、二本鎖DNA の3′末端に1 塩基だけA が付加された形になるため、Tベクターを用いたTAクローニングが有効な選択肢の一つになります。
一方、平滑末端になる校正活性を有するPCR 酵素で得られた増幅産物を使用する場合は、制限酵素サイトを持つリンカーを連結させて突出末端クローニングにするか、平滑末端ベクターDNAを用いた平滑末端クローニングが考えられます。平滑末端クローニングは、目的の遺伝子とベクターDNA に適当な制限酵素サイトがない場合、DNA末端が平滑であれば配列に依存することなくライゲーションすることができます。
コンピテントセルによる形質転換(トランスフォーメーション)の歴史
1970 年Mandel とHiga は、塩化カルシウムで処理した大腸菌がバクテリオファージλのDNA を取り込むことを発見しました1)。これが大腸菌の形質転換の最初の例です。さらに1973 年にChoen, Chang, Hsu らにより、この方法はプラスミドDNA においても有効であることが示されました2)。
以来大腸菌の形質転換は、遺伝子工学研究の基本的かつ重要な手段となり、さまざまな改良が試みられました。塩化カルシウム処理の他、一価カチオン3)、DMSO3)、DTT3)、PEG4)などを用いてコンピテント大腸菌を調製する方法が報告されています。
これらのプロトコールに従えば、1 μg のプラスミドあたり107 ~ 109の形質転換体(トランスフォーマント)が得られます。
しかしながら実験の度にコンピテント大腸菌を調製すると手間がかかるうえに、常に効率の高いものが調製できるとは限りません。また、仮に高いコンピテント大腸菌が得られても、それを長期にわたり安定に保存することは容易ではありません。ニッポンジーン ECOS™ Competent E.coliなどの凍結融解に強く、長期保存が可能な市販のコンピテントセルを使用すれば、安定的に高い形質転換効率を得ることができます。
参考文献
- Mandel, M. and Higa, A. : J. Mol. Biol ., 53, 159 (1970).
- Cohen, S. N., Chang, A. C. Y. and Hsu, L. : Proc. Natl. Acas. Sci. USA, 69, 2110 (1973).
- Hanahan, D. : J. Mol. Biol ., 166, 557 (1983).
- Chung, C. T., Niemela, S. L. and Miller, R. H. : Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 86, 2172 (1989).