タンパク質定量試薬

トータルタンパク質の定量はサンプルによって適切な手法が変わります。

BCA法は、サンプル中の界面活性剤や尿素の影響を受けにくい一方で、EDTAなどキレート剤に定量を阻害されます。
ブラッドフォード法は、サンプル中の還元剤やキレートには定量を阻害されにくいですが、界面活性剤に阻害される性質があります。

プロテインアッセイラピッドキットワコーⅡは、ピロガロールレッド(PR)を用いた比色定量で、尿と脳脊髄液中のタンパク質定量に使用されます。

学術コンテンツ

タンパク質の各種定量方法

細胞や組織から抽出したサンプルの総タンパク質量を定量する代表的な方法として、BCA法 (Bicinchoninic acid assay)、Bradford法 (Bradford assay)、Lowry法 (Lowry protein assay) があります。
ここでは、尿中および脳脊髄液中のタンパク質定量方法であるピロガロールレッド・モリブデン錯体法 (Pyrogallol red-molybdenum assay) を加えた4種類の定量手法を紹介します。

BCA法:Bicinchoninic acid assay

BCA法は、後述するLowry法を改良した方法です。SDS (ドデシル硫酸ナトリウム)、Triton-Xなどのタンパク質の可溶化によく用いられる界面活性剤がサンプル中に存在していても、タンパク質の定量分析を行うことができる方法です1)
BCA法の定量範囲は1~2,000 μg/mLです。

BCA法の原理

まず、アルカリ性条件下でタンパク質がCu(II)と錯体を形成し、タンパク質のシステイン、チロシン、トリプトファンによってCu(II)はCu(I)に還元されます。このときに還元されて生じるCu(I)の量は、タンパク質の量に比例します。
次に、Cu(I)へビシンコニン酸 (Bicinchoninic Acid) を添加すると、ビシンコニン酸2分子がCu(I)に配位することにより、562 nmに強い吸収を示す青紫色の錯体を形成します。このときの吸光度を測定し、標準タンパク質で作成した検量線を用いて、タンパク質の比色定量します。
Biuret法およびLowry法も同じ原理です。

BCA法のメリット

BCAの定量範囲は1~2,000 μg/mLであり、広い濃度範囲で直線性を示し、かつ検出感度が高いとされています。また、ビシンコニン酸による呈色反応は、界面活性剤や、尿素やグアニジン塩酸塩などのタンパク質の変性剤による影響を比較的受けにくいです。

BCA法のデメリット

BCA法は、Cu(II)からCu(I)への還元とビシンコニン酸とCu(I)の錯体形成を利用しているため、EDTAなどのキレート試薬、ジチオスレイトール (DTT) や2-メルカプトエタノール (2-ME) など還元剤により、タンパク質の定量分析が阻害されます。

Bradford (ブラッドフォード) 法:Bradford assay

トリフェニルメタン系色素であるCoomassie Brilliant Blue G-250 (CBB G-250) を用いたタンパク質の定量方法です。Bradford法の定量範囲は10~2000 μg/mLです。

Bradford法の原理

酸性条件下でCBB G-250をタンパク質溶液に添加すると、タンパク質中の塩基性アミノ酸残基 (アルギニン、リジン、ヒスチジン) およびN末端アミノ酸とCBB G-250との間の静電的相互作用、および芳香族アミノ酸との間の疎水性相互作用によって、CBB G-250とタンパク質が非共有的に結合します。
このとき、CBB G-250の極大吸収波長が465 nmから595 nmにシフトし、色調が赤紫色から青色に変化します。595 nmにおける吸光度の変化を測定することにより、タンパク質を定量することができます。

Bradford法のメリット

測定対象のタンパク質溶液とCBB G-250を混合し、室温で静置するだけで測定可能になるため、操作はとても簡便です。
さらに、サンプル中に還元剤やキレート剤が含まれている場合でも、CBB G-250の発色反応に大きな影響を与えません。サンプルに含まれる還元剤やキレート剤が原因でBCA法による定量ができない場合に有用です。

Bradford法のデメリット

サンプル中の界面活性剤によってタンパク質の定量が阻害されます。その場合は、サンプルを希釈して界面活性剤の濃度を下げるか、別の原理の定量方法に変更します。

Lowry法:Lowry protein assay

Biuret試薬とFolin-Ciocalteu試薬 (リンモリブデン酸とリンタングステン酸を酸性溶液に溶解したもの) を組み合わせたタンパク質の定量方法です。
Lowry法によるタンパク質の定量範囲はおよそ1~1500 μg/mLです。

Lowry法の原理

まず、アルカリ性条件において、Biuret試薬をタンパク質溶液に添加すると、Biuret試薬中のCu(II)とタンパク質を構成するペプチドが錯体を形成します。
次に、そこへFolin-Ciocalteu試薬を添加すると、タンパク質中のトリプトファン、チロシン、システインによって、リンタングステン酸とリンモリブデン酸が還元され、タンパク質溶液が青色へ変化します。
750 nmにおける吸光度を測定し、標準タンパク質で作成した検量線と比較することによってタンパク質を定量します。

Lowry法のメリット

Biuret法と比較して検出感度が高く汎用性が高いとされています。

Lowry法のデメリット

タンパク質とBiuret試薬、Folin-Ciocalteu試薬との反応に30-60分間程度要するため、他の分析方法と比較して時間がかかります。
また、Lowry法は還元反応を利用したタンパク質検出方法であるため、還元物質 (チオール類、フェノール類など) により呈色反応が阻害されます。
タンパク質サンプルを調製する際に用いる緩衝液中の成分 (界面活性剤、グリセロール、トリシン、キレート剤、トリス) と相性が悪く、沈殿物が発生する場合があります。
Lowry法をベースに改良された定量方法がBCA法です。

ピロガロールレッド・モリブデン錯体法:Pyrogallol red-molybdenum assay

尿および脳脊髄液中の総タンパク質を定量する手法です。

ピロガロールレッド (PR) と金属イオンのモリブデン(VI)との結合により、470 nmに極大吸収波長を持つ赤色の錯体が形成されます。酸性条件において、錯体がタンパク質と結合することでその極大吸収波長が約600 nmにシフトします2)。600 nmの吸光度を測定し、サンプル中のタンパク質量を定量します。

参考文献

  1. 鈴木祥夫: ぶんせき, 1-9, 1 (2018).
  2. 渡辺 信子, 亀井 幸子, 大久保 昭行, 山中 學:臨床検査, 778-781, 30, 7(1986).