法医学
法医学研究における個人識別には遺伝子検査が用いられていますが、前工程として人体由来の体液(血液,唾液など)や毛髪などからDNA抽出・精製を行う必要があります。当社では体液、毛髪に対応したDNA抽出・精製試薬をラインアップしています。血痕の検出は鑑識において重要な作業になりますが、血痕と単なるシミを区別することが困難な場合があります。血痕かどうかの予備試験にはロイコマラカイトグリーン反応、ルミノール反応などが利用されており、当社では試薬調製の手間を抑えたロイコマラカイトグリーン反応用試薬、ルミノール反応用試薬セットをそれぞれ販売しています。また前立腺由来の酸性フォスファターゼは精液の証明となります。当社ではこの酸性フォスファターゼが検出可能なSM試薬も販売しております。
学術コンテンツ
法医学とは?
法医学とは医学的解明助言を必要とする法律上の案件、事項について、科学的で公正な医学的判断を下すことによって、個人の基本的人権の擁護、社会の安全、福祉の維持に寄与することを目的とする医学と定義されています1) 。
司法上では、医学的見地から検査、鑑定を実施し、捜査や裁判に必要な資料を提供します。具体的には生体の個人識別、親子鑑別、創傷の鑑別などの検査や、死体の死因特定を目的とした検死や解剖、物体や現場に存在する血痕、精液、毛髪、指紋などの痕跡検査などがあります。行政では行旅死亡者の検死や身元不明者の個人識別が行われ、立法上では法律の制定や改正に医学的見地から関与します。
法医学における検査
法医学における検査は様々なものが存在します。代表的な検査には以下のようなものが存在します。
DNA検査
DNAの塩基配列情報を元に個人識別や親子鑑別を行います。サンプルは毛髪、唾液、血液、骨、歯など様々であり、サンプルに合ったDNA抽出・精製試薬を選択する必要があります。DNAを抽出・精製した後は、PCRで特定のDNA領域を増幅し、増幅したDNA断片を電気泳動やシークエンサーで解析します。解析するDNA領域は、個人によって配列が異なる、すなわち多様性が存在する領域であり、主に以下の多型領域が用いられています2)。
① VNTR (Variable Number of Tandem Repeat)
十数~数十塩基を単位とした配列が繰り返されている領域で、その繰り返し回数が個人差が存在します。核DNAには数千か所ほど存在すると考えられています。
② STR (Short Tandem Repeat)
VNTRよりも短い2~5塩基を単位とした配列が繰り返されている領域で、同じく繰り返し回数に個人差が見られる領域です。マイクロサテライトとも呼ばれます。増幅するDNAの鎖長がVNTRよりも短いため、比較的増幅が容易で、DNAが劣化しているサンプルに対しても適用できるため、DNA検査の主流となっています。
③ SNP (Single Nucleotide Polymorphism)
特定の塩基が別の塩基に置換されているもので、VNTRやSTRと同様、個人識別に利用されています。VNTRやSTRと比較して個人識別能力は高くないものの、多数のSNPを同時解析することでこの課題を解決することができます。
④ ミトコンドリアDNA 多型
ミトコンドリアは細胞におけるエネルギー生産の場であり、母親から遺伝します。このミトコンドリアのDNA多型(主にSNP)を解析することで個人識別が可能です。
精液判定
精液は性犯罪などにおいて重要な証拠となります。付着しているものが精液かどうかは、外観や顕微鏡検査、血清学的検査、生化学検査などの結果から判定されます。
精液判定に用いられる生化学検査として、ヒト精液中に多量存在する前立腺に由来の酸性フォスファターゼを検出する方法があります。この手法で使用されるSM試薬は酸性フォスファターゼにより鮮紫色を呈します。
血痕試験
血痕は事件・事故の状況やそれに関与した人を推定するために重要です。血痕かどうかを調べるためにはまず血痕予備試験と呼ばれる生化学検査が行われます。血痕予備試験ではルミノールやロイコマラカイトグリーンなどの試薬が用いられます。血痕予備試験で、血液の可能性が高いとされたものには人血/獣血判別検査や血痕本試験が行われます。
ルミノールはアルカリ性水溶液中で、ペルオキシダーゼ様活性を有する物質(ヘモグロビンなど)による触媒作用によって溶液中の過酸化水素と反応して青白い発光を生じるため血液の存在を確認できます。感度に優れており視認できないシミに対しても適用できますが、血液以外のペルオキシダーゼにも反応するため特異性が低いのが問題です。
一方、ロイコマラカイトグリーンは無色のロイコマラカイトグリーンが、血液中のヘムにより触媒される酸化還元反応により酸化され、青緑色のマラカイトグリーンに変わることで判定ができます。ルミノールに感度は劣りますが、特異性が高いのが特長です。
参考文献
1) http://www.jslm.jp/about/definition.html日本法医学会HP (2021年3月22日閲覧)
2) 永井淳:医用画像情報学会雑誌 28(3), 66 (2011).