ダイオキシン・PCB分析

ダイオキシン類対策特別措置法におけるダイオキシン類とは、ポリ塩化ジベンゾ-p-ジオキシン(PCD)とポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)、コプラナーポリ塩化ビフェニル(コプラナー PCB)のことを指します。ダイオキシン類は、ごみ焼却、製鋼用電気炉、たばこの煙などの、炭素・酸素・水素・塩素を含む物質が熱せられるような過程で非意図的に副生成物として発生しますが、その毒性の強さから、ダイオキシン類対策特別措置法によって耐容一日摂取量(TDI)や基準値が定められています。ダイオキシンの試験法はJISやEPAメソッドによって定められており、当社では各種試験法に対応した溶媒、前処理カラムや標準品、標準液、混合標準液を多数取り揃えております。

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学術コンテンツ

ダイオキシン類の公定法ー中国の動向を中心に

ダイオキシン類の分析方法は国際標準化が進み、各国で公定法として規定されています。しかしダイオキシン類のモニタリングに関して需要が高いため、迅速かつ低コストで行える簡易法も開発され、欧米、日本などで簡易測定法として規定される国もあります。21世紀に入りダイオキシン類分析の需要が高まる中国の現状を中心に、ダイオキシン類分析の方法について説明していきます。

ダイオキシン類の定義

ダイオキシン類とは有機塩素化合物の一種であり、次の3物質群から構成されます。

  • ポリ塩化ジベンゾ-パラ-ジオキシン(PCDD)
  • ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)
  • ダイオキシン様ポリ塩化ビフェニル(Dl-PCB)

このうち、Dl-PCBはダイオキシン類と同様の毒性を示す物質です。これらの物質は単一の物質ではなく、結合している塩素の数や位置により同族体や異性体が存在します。 ※Dl-PCBはコプラナー-ポリ塩化ビフェニル(Co-PCB)と呼ばれることもあります。

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図1: ダイオキシン類

ダイオキシン類に属する物質は、国連環境計画(UNEP)が準備した「UNEPツールキット」にリスト化されています。「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」(POPs条約)第7条で、締約国は条件に基づく義務を履行するための国内実施計画を作成し、締約国会議に提出、新たな物質が追加された場合に改定することが義務付けられています。また第5条では、PCDDやPCDFなど意図せずに生成されたPOPsを削減・廃絶するための措置について行動計画を作成し、国内実施計画の一部として実施することが取り決められています。

ダイオキシン類は工業製品として製造される物質ではなく、廃棄物の焼却過程や森林火災といった自然現象等で発生する物質です。焼却施設から排出される排ガスや排水、農場で使用される除草剤や殺虫剤、電気機器の絶縁油として使用されたポリ塩化ビフェニル(PCBs)などが、ダイオキシン類の発生源になっています。

燃焼によるダイオキシン類の生成メカニズムは複雑であるため、生成過程は完全には解明されていません。有機物を低温で燃焼することで生成した前駆体が複雑に化学反応を起こすと、ダイオキシン類が生成するといわれています。

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図2: ダイオキシン類の生成過程

中国におけるダイオキシン類対策と公定法

2020年3月現在、181カ国及びEU、パレスチナ自治区がPOPs条約にサインし、POPs対策は世界的に進展しています。その一方で東アジアでは化学物質管理の進んでいる国が多くなく、地域間協力を推し進められています。

中国は2001年に世界貿易機関(WTO)に加盟し、環境関連法規の整備を加速させています。WTO加盟国には基本的な法制度の整備と透明性のある運用が求められるのが、その背景にあります。貿易の技術的障害に関する協定(TBT協定)が1995年に発効され、各国は強制・任意規格等(中国の場合、GB規格)の作成や改正を行う際に、ISOやIECなど国際規格を基礎とすることを原則的に義務付けています。

ダイオキシン類が国の定めた基準値を超えていないかを判断するための環境測定分析の方法が法令などによって「公定法」として規定されています。法的に十分な科学的根拠をもつ必要があるため、ISOの規格に匹敵する方法であることが求められています。

中国におけるダイオキシン類研究は1980年代後半から1990年代前半にかけて開始され、サンプル中のPCDDsやPCDFs分析として米国環境保護庁(EPA)が定めた「EPA Method 8280A」に沿って高分解能ガスクロマトグラフ質量分析法(GC/HRMS)がしばしば採用されています。中国国内におけるダイオキシン類による環境汚染への関心の高まりやISOなど国際標準に適合した法整備の必要性から、公定法が2009年4月1日に施行されました。ただし現状では、すべてのダイオキシン類を対象としておらず、たとえばHJ 77.2-2008はDl-PCB類の分析を規定していません。

表1: ダイオキシン類に関する中国の公定法
規格 サンプル対象 説明
HJ 77.1-2008 水質 HRGC/HRMSにより水質中の2,3,7,8位が塩素で置換したPCDD類及びPCDF類の異性体分析
HJ 77.2-2008 環境大気・排ガス HRGC/HRMSにより環境大気・排ガス中の2,3,7,8位が塩素で置換したPCDD類及びPCDF類の異性体分析
HJ 77.3-2008 固体廃棄物 HRGC/HRMSにより固体廃棄物中の2,3,7,8位が塩素で置換したPCDD類及びPCDF類の異性体分析
HJ 77.4-2008 土壌・底質 HRGC/HRMSにより土壌・底質中の2,3,7,8位が塩素で置換したPCDD類及びPCDF類の異性体分析
GB/T 5009.205-2007 食物 HRGC/HRMSにより食物中の2,3,7,8位が塩素で置換したPCDD類、PCDF類及びDl-PCB類の異性体分析

ダイオキシン類の分析法

ダイオキシン類の代表的な分析法として、従来法で規定される機器分析法、高分解能ガスクロマトグラフ質量分析法、生物検定法などの簡易測定法が挙げられます。

表2: ダイオキシン類の分析法が適用可能なサンプルの対応
水質 環境大気・排ガス 固体廃棄物 土壌・底質
GC/HRMS
GC/QMSによる簡易測定法
抗ダイオキシン類抗体を用いたイムノアッセイ法 ※1

※1 ばいじん、燃え殻のダイオキシン分析に対して使用される

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図3: 代表的なダイオキシン類分析法の手順

ダイオキシン類を測定するフローは、対象媒体ごとに試料を採取し、PCDD類及びPCDF類を抽出後、シリカゲルカラムや試薬等でクリーンアップして、各測定法で同定、定量する手順です。以下ではダイオキシン類の代表的な分析法を挙げます。

高分解能ガスクロマトグラフ質量分析(GC/HRMS)法

高分解能ガスクロマトグラフ質量分析(GC/HRMS)法は、混ざりあった複数の成分を個々の成分に分類する「ガスクロマトグラフ(GC)」と質量分析計(MS)から構成されています。GCでは、気化した試料がカラムを通過した移動速度の差によって成分が分離されます。溶出物はMSに導入されてイオン化したのち質量分離します。従来の公定法では、異性体のひとつひとつをGC/HRMS法で測定します。

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図4: GC/MSによるダイオキシンの測定

測定に用いる試薬は次のものが挙げられます。

表3: GC/HRMSの前処理で使用される試薬
試薬 備考
メタノール
アセトン
トルエン
ノルマルヘキサン
ジクロロメタン
ノナンまたはデカン
ジメチルスルホキシド
上記のノルマルヘキサンで完全に洗浄された蒸留水
25%ジクロロメタン-ノルマルヘキサン溶液 ジクロロメタンとノルマルヘキサンは、1:3の体積比で混合
塩酸 特級
濃硫酸 特級
無水硫酸ナトリウム
水酸化カリウム 特級
硝酸銀 特級
シリカゲル メタノールで洗浄した粒径0.063~0.212 mmのクロマトグラフィー充填カラム用シリカゲルを使用
2%水酸化カリウムシリカゲル シリカゲル98 gと調製した50 g/L水酸化カリウム溶液を使用
22%硫酸シリカゲル シリカゲル78 g、濃硫酸22 gを使用
44%硫酸シリカゲル シリカゲル56 g、濃硫酸44 gを使用
10%硝酸銀シリカゲル シリカゲル90 gと400 g/L硝酸銀28 mLを使用
アルミナ クロマトグラフィー充填カラム用のアルミナを使用
活性炭および活性炭シリカゲル カーボパックC/セライト545(18%)あるいはAX-21/セライト545(8%)を使用
銅粒子 希塩酸で洗浄し表面の酸化物を除去したのち、純粋で洗浄
石英ウール
  • 特別な記載がない限り、試薬には残留農薬用分析の品質が求められます。
  • 溶媒類の場合は、濃縮後の試験によってダイオキシン類が規格値以下であることを保証した品質が求められます。当社のダイオキシン類分析用溶媒では、100,000倍濃縮を行った溶媒に「高分解能GC/MS法」によるダイオキシン類分析適合性試験を実施し、製品中のPCDD、PCDF、コプラナーPCBが低濃度であることを保証しています。

ガスクロマトグラフ四重極形質量分析計(GC/QMS)法

簡易測定法でも、GC/HRMS法と同様にガスクロマトグラフが活用されます。ただし四重極型やイオントラップ型など低分解能の質量分析計が用いられます。ガスクロマトグラフ四重極形質量分析計(GC/QMS)法では、4本の電極ロッドのそれぞれに直流・交流を印加し、ある特定の質量電荷比のイオンだけが通過するよう電場をかけます。測定に用いる試薬は、GC/HRMSと同様です。

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図5: QMSの概略

生物検定法(バイオアッセイ)

物質を与えたときの生物の反応から物質量や成分、効力を推定するのが生物検定法(バイオアッセイ)です。物質の量や構成成分とその効力を、その物質を与えられた生物の反応から推定する方法です。

生物検定法の前処理方法は、公定法と同様に抽出し、多層シリカゲルカラム処理でのクリーンアップする方法です。生物検定法の主な測定方法としては、レポータージーンアッセイ法のように生きた細胞を用いる方法と、イムノアッセイ法のように抗体等の試薬からなるキットを用いる方法の2種類があります。

抗ダイオキシン類抗体を用いたイムノアッセイ法

抗原と抗体とが結合し抗原-抗体結合体を生成する反応を利用した測定法が免疫学的測定(イムノアッセイ)法です。この方法はダイオキシン類に特異的に反応する抗体を利用します。

参考文献

  1. Liu, G., Zheng, M., Cai, Z., Wu, Y., Jiang, G.: Trends. Analyt. Chem., 46, 178 (2013). doi.org/10.1016/j.trac.2012.05.012
  2. Liu, X., Fiedler, H., Gong, W., Wang, B., Yu, G.: Front. Environ. Sci. Eng., 12, 1 (2018). doi.org/10.1016/j.trac.2012.05.012
  3. Samara, F., Gullett, B.K., Harrison, R. O., Chu, A,. Clark, G.C.:Environ. Int., 35, 588 (2009). doi.org/10.1016/j.envint.2008.11.003
  4. Batey, J.H. : Vacuum., 101, 410 (2014). doi.org/10.1016/j.vacuum.2013.05.005
  5. Fujimori, T., Kawamoto K.:J. Mater. Cycles Waste Manag., 30, 201 (2019). doi.org/10.3985/mcwmr.30.201

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