ミクログリア研究試薬

ミクログリアはグリア細胞の一種です。主に中枢神経系の免疫を担っており、中枢神経系の中を移動しながらサイトカインの放出や異物・死細胞の貪食、シナプスの剪定などを行っています。ミクログリアは神経系の機能維持に欠かせない存在ですが、その活動が過剰になると様々な神経疾患を引き起こしたり、悪化させたりします。これまでにアルツハイマー病や筋委縮側索硬化症(ALS)などの神経疾患とミクログリアの関連性が明らかになっており、神経疾患のメカニズム解明や創薬のターゲットとして注目されています。当社では世界的に使用されている抗Iba1抗体をはじめとするミクログリア マーカーに対する抗体をラインアップしております。

ミクログリア研究試薬カタログ

学術コンテンツ

ミクログリアとは?

ミクログリア(Microglia)は、中枢神経系の免疫機能を担っているグリア細胞です。1919 年にスペインの神経科学者であるPío del Río Hortega によって初めて記述・命名されました1)

外胚葉を起源とする神経細胞やアストロサイト、オリゴデンドロサイトとは異なり、ミクログリアの起源は中胚葉で、卵黄嚢のEMPs(Erythro-myeloid progenitors)と呼ばれる前駆細胞です2)。発生初期に生じたEMPs は全身に移動し、中枢神経系に移動したものがミクログリアへと分化します。その後、発生が進むにしたがってほとんどの組織では造血幹細胞由来の単球が分化したマクロファージに置き換えられていきますが、これらのマクロファージは発生途中に形成された血液脳関門をほとんど透過することができず、中枢神経系では造血幹細胞由来マクロファージへの置き換えは起こりません3)

ミクログリアはマクロファージと同様に、異物・死細胞の貪食やケモカイン・サイトカインの放出などを行います。これらの活動によって異物や死細胞などの不要物が速やかに取り除かれ、免疫反応をきっかけに傷害部位は修復へと向かいます。このことからミクログリアは中枢神経系の恒常性を維持する役割を担っていると言えますが、神経変性疾患が進行したり、神経傷害の程度が大きかったり、炎症反応が慢性化したりするとミクログリアは疾患や損傷を増悪させる方向へはたらきます。ミクログリアを標的とした創薬ではミクログリア本来の機能を利用するだけでなく、症状の増悪に関わるミクログリアを抑制するアプローチも取られています。

ミクログリアは外部環境によってその形態を大きく変えることが知られています。通常、ミクログリアは静止型(ラミファイド型)として小さな細胞体から細長い突起が伸びた形態を示しますが、神経傷害などを感知すると活性化し、細胞体の増大や突起の収縮が生じ、マクロファージに似たアメボイド型に変化します。

図1 ミクログリアの活性化と関連因子

またこれまでの研究で活性化ミクログリアにも、神経傷害性ミクログリア(M1 ミクログリア)と神経保護性ミクログリア(M2 ミクログリア)の2つのタイプが存在することが分かっています4)。前者はIFN-γやTNF-α、ダメージ関連分子パターン(DAMPs: Damage-associated molecular patterns)を認識して、炎症性サイトカイン(IL-1β、IL-6、TNF- α)や活性酸素種を放出し、後者はIL-4 やTGF-βを認識してIL-10 やTGF-βなどの抗炎症性サイトカインやBDNFなどの栄養因子を放出します5)(図1)。
近年ではミクログリアをより詳細なサブタイプに分ける試みがなされており、2019 年にはマウスのミクログリアをsingle cell RNA-Seq で解析し、少なくとも9種類のクラスターに分けられることが報告されています6)

その他にもミクログリアは神経細胞のシナプスに突起を伸ばし、直接接触することで神経の状態をモニターしていたり7)、シナプスの剪定に関与したりするなど、中枢神経系の発生や機能発現にも重要な役割を果たしています8)

参考文献

  1. Río-Hortega, P.d. : Biol. Soc. Esp. de Biol., 9, 68 (1919).
    El ‘tercer element’de los centros nerviosos. Poder fagacitario y movilidad de la microglia
  2. Ginhoux, F., et al. : Science, 330 (6005), 841 (2010).
    Fate mapping analysis reveals that adult microglia derive from primitive macrophages
  3. Prinz, M., Jung, S., & Priller, J. : Cell, 179 (2), 292 (2019).
    Microglia Biology: One Century of Evolving Concepts
  4. Boche, D., Perry, V. H., & Nicoll, J. A. R. : Neuropath. Appl. Neurobiol., 39 (1), 3 (2013).
    Review: activation patterns of microglia and their identification in the human brain
  5. Bolós, M., Perea, J. R., & Avila, J. : Biomol. Concepts, 8 (1), 37 (2017).
    Alzheimer's disease as an inflammatory disease
  6. Hammond, T. R., et al. : Immunity, 50 (1), 253 (2019).
    Single-Cell RNA Sequencing of Microglia throughout the Mouse Lifespan and in the Injured Brain Reveals Complex Cell-State Changes
  7. Wake, H., et al. : J. Neurosci., 29 (13), 3974 (2009).
    Resting microglia directly monitor the functional state of synapses in vivo and determine the fate of ischemic terminals
  8. Schafer, D., et al. : Neuron, 74 (4), 691 (2012).
    Microglia sculpt postnatal neural circuits in an activity and complement-dependent manner

ミクログリア研究試薬カタログ

ミクログリア研究試薬カタログでは、上記の「ミクログリアとは?」に加えて、ミクログリアのマーカー分子一覧やミクログリアと神経・精神疾患との関わり、ミクログリアの免疫組織染色をはじめてみようなど、様々なコンテンツを掲載しております。カタログは無償でダウンロードが可能です。