抗原抗体反応

抗体は目的の分子に特異的に結合するタンパク質であり、生命科学分野の研究において広く活用されています。抗体を用いた実験においては、抗原抗体反応を介して目的分子の検出を行います。抗原抗体反応においては、その検出感度や特異性を向上させるために種々の試薬が利用されます。当社は抗原抗体反応に関連した試薬を取り扱っています。

学術コンテンツ

抗原抗体反応における条件検討のポイント

免疫染色やウエスタンブロッティングにおける抗原抗体反応の成否は、抗体が標的タンパク質へ特異的に、かつ強く結合するかが最も重要ですが、抗原抗体反応の条件を検討することで改善される場合もあります。逆に適切な反応条件で実施しないと優れた抗体であっても良い結果を得ることはできません。抗原抗体反応を成功させるために、検討するべきポイントをご紹介します。

ブロッキング

ブロッキングは抗体が標的タンパク質以外に結合することを抑えるため、一次抗体反応前にブロッキング試薬(タンパク質)で覆う工程です。

ブロッキング試薬としてはスキムミルクやウシ血清アルブミン(BSA)が使用されます。ブロッキング能はスキムミルクが優れているとされており、非特異的なバックグラウンドが高い場合には5%スキムミルク溶液を使用します。一方でスキムミルクにはりん酸化されたタンパク質(カゼインなど)が入っているためりん酸化タンパク質の検出には使用できない場合があります。またビオチンが入っている場合もあり、アビジン-ビオチン系を使用する場合には避けたほうが賢明です。またブロッキングに血清を使用する場合もあります。二次抗体の非特異的結合を抑制するためには、二次抗体の動物種由来の血清を使用します。

抗体濃度

抗体濃度は抗原抗体反応を成功させる重要な要因です。抗体が濃すぎれば非特異的なシグナルの原因となり、薄すぎれば抗原を検出できません。

通常、抗体を購入して使用する場合にはアプリケーションごとに推奨濃度が記載されているため、これを基準に5倍~10倍程度の範囲で複数の濃度を設定し、最適な濃度を調べます。まったく情報がない場合、免疫染色の場合、精製ポリクローナル抗体であれば1~50 μg/mL、精製モノクローナル抗体であれば1~20 μg/mLという濃度が参考になります(あくまでも目安であり、抗体によって異なります)。

最初に抗体非特異的なシグナルが出る場合には抗体濃度を下げ、検出されない場合は抗体濃度を上げると改善される場合があります。どうしてもシグナルが検出されない場合は抗体の性能を疑う必要がありますが、抗体希釈液にImmuno-enhancerのような抗原抗体反応促進試薬を使うことで、シグナルが得られる場合もあります。

洗浄

洗浄は標的タンパク質と抗体の抗原抗体反応を維持しつつも、非特異的な結合をしている抗体や未反応の抗体などを除去するための工程です。洗浄には通常PBSやTBS、もしくは界面活性剤を加えたPBS-TやTBS-Tが使用されます。

不十分な洗浄はバックグラウンドの上昇につながります。洗浄には十分量のバッファーを使用することが推奨されますが、それでもバックグラウンドが高い場合は洗浄回数を増やすことも検討してください。

またELISAにおいて洗浄に使用したバッファーが残っているとバラつきの原因となります。一度バッファーを除去した後、さらに厚く重ねたペーパータオルの上にELISAプレートを何度か叩くようにすると十分に洗浄バッファーを取り除くことができます。

内在性因子の影響

非特異的なシグナルの原因として試料の組織・細胞に存在する内在性因子が原因となっている場合があります。例えば、検出系にペルオキシダーゼを使用する場合、内在性のペルオキシダーゼによってシグナルが増強される可能性があるため、過酸化水素/メタノール溶液であらかじめ不活化させる必要があります。

また蛍光顕微鏡で観察する場合、細胞中の自家蛍光を抑制する必要があります。 例えば老化細胞のリソソームに蓄積する不溶性色素のリポフスチンは蛍光観察のバックグランド上昇の原因となります。Biotium社の TrueBlack®シリーズはリポフスチン由来の自家蛍光を抑制できます。

参考文献

森山達哉 編:「バイオ実験で失敗しない! 検出と定量のコツ」 (羊土社) (2005)
高田邦昭, 斎藤尚亮, 川上速人 編:「実験医学別冊 染色・バイオイメージング実験ハンドブック (第5版)」, (羊土社) (2012)
若林克己:「ELISA-A to Z (増補改訂第5版)」 (富士フイルムワコーシバヤギ) (2017)
大久保和央 著:「細胞・組織染色の達人」 (羊土社) (2018)