アルツハイマー病研究試薬
アルツハイマー病は死後脳の老人斑と神経原線維変化を病理学的特徴とする疾患で、認知症の要因として最も大きな割合を占めます。アルツハイマー病発症の分子メカニズムは未だ解明されていませんが、発症の数十年前からアミロイドβ(Aβ)が脳内に徐々に蓄積し、異常りん酸化したTauタンパク質などが神経原線維変化を引き起こし、最終的に神経細胞障害が生じることで症状が現れるというアミロイドカスケード仮説が提唱されています。当社では高性能な抗アミロイドβ抗体やそれを利用したELISAキットをはじめ、Aβオリゴマー、Tauタンパク質、りん酸化Tauタンパク質などアルツハイマー病における重要な因子を検出・測定可能な試薬をラインアップしております。
学術コンテンツ
アルツハイマー病とは?
アルツハイマー病(AD: Alzheimer's Disease)は、Alois Alzheimerによって1906 年に初めて報告された、記憶障害などの認知機能障害を主な症状とする神経疾患です。認知症の60-70% はアルツハイマー病が原因であると⾔われています1)。患者の多くは65歳以上の⾼齢者ですが、リスク遺伝⼦を有するケースなどでは65歳未満でも発症する場合があります。
アルツハイマー病の病理学的特徴は⽼⼈斑と神経原線維変化(NFT: Neurofibrillary Tangle)です。その後の研究で、⽼⼈斑は主にアミロイドβ(Aβ)と呼ばれるタンパク質が細胞外に沈着したものであり、神経原線維変化は過剰にりん酸化されたTauタンパク質が細胞内に蓄積したものであることが明らかになりました2)。AβやTauの蓄積に伴って神経細胞が次第に脱落していき、記憶障害をはじめとする認知機能障害が進⾏していくと考えられています。
老人斑
神経原線維変化
アルツハイマー病の発症メカニズム ーアミロイドカスケード仮説ー
アルツハイマー病ではAβの沈着とTauの蓄積が主な特徴であり、これらの分⼦がアルツハイマー病の発症や進⾏にどのように関与しているのかが⻑らく議論の中⼼となっていました。これまでに様々な仮説が提唱されていますが、その中でも⽀持されているのがアミロイドカスケード仮説です。アミロイドカスケード仮説は、Aβをアルツハイマー病の起点と考え、Aβ(特に毒性の⾼いAβ42)が神経細胞に作⽤して神経原線維変化を⽣じ、神経の機能障害や神経細胞死が引き起こされた結果、認知症を発症するという仮説です(図1)3)。家族性アルツハイマー病の原因遺伝⼦として、Aβの前駆体であるアミロイド前駆体タンパク質(APP: Amyloid Precursor Protein)4-5)やAβの切断・産⽣に関わるプレセニリン(PSEN1/PSEN2)6)が報告され、現在でも有⼒な仮説と考えられています。しかしながら、この仮説に基づいて開発された治療薬の多くは、臨床試験において安全性の問題が⽣じたり、有効性を⽰せなかったりして、ほとんどが開発中⽌となりました。そのため、アミロイドカスケード仮説は主流ではあるものの、その詳細については再検証されています。近年では細胞内に存在するAβのオリゴマーが神経細胞に対して毒性を発揮するという「Aβオリゴマー仮説」が注⽬されています7)。しかしながらどのオリゴマーがアルツハイマー病の発症に影響を及ぼすのかは未だ明らかでなく、今後の研究が待たれます。
図は⽂献3)を元に作成。Aβオリゴマー仮説も考慮した流れとなっている。
参考文献
- World Health Organization:
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/dementia (2024年4⽉25⽇閲覧) - Ihara, Y. et al.: J. Biochem., 99(6), 1807(1986).
Phosphorylated tau protein is integrated into paired helical filaments in Alzheimer's disease - Selkoe, D. J. and Hardy, J.: EMBO Mol. Med., 8(6), 595(2016).
The amyloid hypothesis of Alzheimer's disease at 25 years - Goate, A. et al.: Nature, 349(6311), 704(1991).
Segregation of a missense mutation in the amyloid precursor protein gene with familial Alzheimer's disease - Chartier-Harlin et al.: Nature, 353(6347), 844(1991).
Early-onset Alzheimer's disease caused by mutations at codon 717 of the beta-amyloid precursor protein gene - Rogaev, E. I. et al.: Nature, 376(6543), 775(1995).
Familial Alzheimer's disease in kindreds with missense mutations in a gene on chromosome 1 related to the Alzheimer’s disease type 3 gene - Selkoe, D. J.: Science, 298(5594), 789(2002).
Alzheimer's disease is a synaptic failure
アルツハイマー病研究試薬カタログ
アルツハイマー病研究試薬カタログでは、上記の「アルツハイマー病とは?」や「アルツハイマー病の発症メカニズム」に加えて、アルツハイマー病の発症・進行に関わる要因やアルツハイマー病の治療薬・バイオマーカー開発についても概説しています。
アミロイドβのELISAキットや抗体をはじめ、アルツハイマー病研究に関連する試薬・受託サービス・機器も掲載していますので、これから実験を始められる方にもおススメです。
カタログは無料でダウンロードできます。