エクソソーム吸着防止/凍結保護試薬

エクソソームはプラスチックチューブの壁面に吸着することが知られており、エクソソームの収量などに大きな影響を与えます。また凍結融解によってダメージを受けるため、エクソソームの保存に適した保護剤が求められていました。このような背景から、当社ではエクソソームの吸着防止/凍結保護試薬EV-Save™シリーズを開発しました。EV-Save™はチューブ壁面へのエクソソーム吸着を大幅に抑制し、かつエクソソームを凍結融解によるダメージから保護することができます。

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エクソソームが減っている!? その原因と対策

エクソソームをはじめとする細胞外小胞(EV: Extracellular Vesicles)は実験中に様々な理由で減少します。考えられる原因としては、(1) 細胞外小胞そのものが分解している、(2) 検出対象のマーカータンパク質が分解・変性している、(3) 細胞外小胞同士が凝集・融合している、(4) チューブなどに細胞外小胞が吸着していることなどが挙げられます。その中でも(4)チューブなどへの吸着は、細胞外小胞をロスする大きな要因であり、細胞外小胞研究のガイドラインであるMISEV2018でも、精製された細胞外小胞は保存容器に吸着しやすいことが述べられています1)

実際にEvtushenkoらの実験では、超遠心分離法で単離したHT-29細胞由来の細胞外小胞をPBSバッファー、4℃で保存したところ、時間経過につれて細胞外小胞の濃度は低下し、48時間後にはおよそ50%もの細胞外小胞をロスしたと報告しており2)、その影響の大きさは考慮するに値します。

当社でもチューブの移し替えを繰り返すことで、細胞外小胞のマーカータンパク質であるCD63のシグナルが減少することを確認しており、1回の移し替えでもCD63のシグナルはおよそ50%程度まで低下しました(図1)。

図1 チューブの移し替えによる細胞外小胞マーカータンパク質の減少

図1 チューブの移し替えによる細胞外小胞マーカータンパク質の減少

PSアフィニティー法で精製したCOLO201細胞由来の細胞外小胞をチューブに添加し、静置後、別のチューブに移し替える作業を4回繰り返した。その後、PS Capture™ エクソソームELISAキット(抗マウスIgG POD) (コードNo. 297-79201)を用いて、CD63シグナルを測定した。

チューブへ細胞外小胞が吸着するのを防ぐためには、タンパク質低吸着チューブを使用することが効果的と言われています2-3)。しかしながら実験に使用するプラスチック製品はチューブに限らず、ピペットチップ、遠心濃縮チューブなどがあり、これらすべてにおいて低吸着処理したものを使用することは困難です。実際に当社では遠心濃縮チューブを用いた限外ろ過においても細胞外小胞が失われることを確認しています。先述のEvtushenkoらの論文ではウシ血清アルブミン(BSA)や細胞外小胞そのものでチューブをブロッキングすることも有効であると報告していますが2)、同時に調製の手間や下流の解析への影響を考慮した場合、あまり推奨できないともコメントしています。

そのような中で、サンプルや精製した細胞外小胞溶液に添加するブロッキング剤は操作性や汎用性の点において優れた解決策です。当社のEV-Save™ 細胞外小胞ブロッキング試薬(コードNo. 058-09261、以下 EV-Save™)はポリマーを含む溶液で、サンプルや精製した細胞外小胞溶液に添加することでチューブやピペットチップ、遠心濃縮チューブへの吸着を抑制することができます(図2)。Nanoparticle Tracking Analysis(NTA)やELISA、ウエスタンブロッティング、マイクロアレイ、細胞への添加試験において影響がほとんどないことを確認しています※1。また当社では生体へ細胞外小胞を投与することを想定して、医薬品添加剤として実績のある成分を使用したin vivo用EV-Save™ 細胞外小胞ブロッキング試薬(コードNo. 050-09461)も開発しており、用途によって使い分けることが可能です※2

※1 質量分析によるプロテオーム解析ではポリマー由来のピークが見られる場合があり、解析の前に除去する必要があります。
※2 in vivo用EV-Save™ 細胞外小胞ブロッキング試薬は遠心濃縮チューブを用いた限外ろ過には適用できません。
図2 EV-Save™による細胞外小胞の吸着防止効果

図2 EV-Save™による細胞外小胞の吸着防止効果

PSアフィニティー法で精製したCOLO201細胞由来の細胞外小胞をチューブに添加し、静置後、別のチューブに移し替える作業を4回繰り返した。「EV-Save™添加あり」の条件では細胞外小胞溶液の液量に対し、1/100量となるようにEV-Save™を添加した。その後、PS Capture™ エクソソームELISAキット(抗マウスIgG POD) (コードNo. 297-79201)を用いて、CD63シグナルを測定した。

さらにEV-Save™には凍結保護効果もあり、凍結融解による細胞外小胞の損傷を抑制します(図3)。凍結融解の繰り返しは細胞外小胞を損傷させるだけでなく、細胞外小胞の減少や性質の変化を引き起こします。一般的には-80℃で保管する際には小分けして、できるだけ凍結融解を避けることが望ましいとされていますが、これに加えてEV-Save™を使用することで凍結融解による細胞外小胞の減少を抑制できます。

図3 EV-Save™による細胞外小胞の凍結保護効果
図3 EV-Save™による細胞外小胞の凍結保護効果

図3 EV-Save™による細胞外小胞の凍結保護効果

PSアフィニティー法で精製したCOLO201細胞由来エクソソームを凍結融解した。その後、PS Capture™ エクソソームELISAキット(抗マウスIgG POD) (コードNo. 297-79201) によるCD63シグナルの測定(A)、および透過型電子顕微鏡(TEM)による解析を実施した(B)。

細胞外小胞の減少は実験の効率を低下させるだけでなく、解析結果にも大きな影響を与えます。細胞外小胞の特性を理解した上で、適切な対策を講じることでより正確なデータを得ることが可能です。

参考文献

  1. Théry, C. et al.: J. Extracell. Vesicles, 7(1), 1535750(2018).
    Minimal information for studies of extracellular vesicles 2018 (MISEV2018): a position statement of the International Society for Extracellular Vesicles and update of the MISEV2014 guidelines
  2. Evtushenko, E. G. et al.: PloS One, 15(12), e0243738(2020).
    Adsorption of extracellular vesicles onto the tube walls during storage in solution
  3. 吉岡祐亮、落谷孝広編: 「決定版エクソソーム実験ガイド」, p.51 (羊土社) (2020).