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【連載】Talking of LAL「第56話 再認識されるペプチドグリカン」

本記事は、和光純薬時報 Vol.72 No.3(2004年7月号)において、和光純薬工業 土谷 正和が執筆したものです。

第56話 再認識されるペプチドグリカン

細菌細胞壁成分であるペプチドグリカンに関しては、これまでにも本シリーズで取り上げてきました。第18話1)ではペプチドグリカン測定試薬として SLP 試薬を、第25話2)ではペプチドグリカンの概要をご紹介しました。

最近、またペプチドグリカンが取り上げられることが多くなってきたので、今回はペプチドグリカンについてもう一度見直してみましょう。

ペプチドグリカンは、発熱性やサイトカイン産生など、エンドトキシンとよく似た生物活性を示すことが知られています。しかしその活性はエンドトキシンに比較して弱く、ウサギに 0.6℃以上の発熱を起こさせる最小投与量は、Staphylococcus aureus 由来のペプチドグリカンで 7.3µg/kg、E. coli O55:B5 由来のエンドトキシンで 2.7ng/kg と報告されています3)。すなわち、ペプチドグリカンの発熱活性は、エンドトキシンの約 2700 分の 1 ということになります。

ヒト全血が産生するサイトカイン量の比較でも、インターロイキン-6、腫瘍壊死因子(TNF)-α、インターロイキン-1 を有意に産生させる最小量として、ペプチドグリカンがそれぞれ 50ng/mL、140ng/mL、1350ng/mL であったのに対し、エンドトキシンではそれぞれ 14.0pg/mL、14.3pg/mL、14.2pg/mL とのことですから3)、おおよそ 3600 分の 1、9900 分の 1、9500 分の 1 の活性ということになります。

これらの結果から、ペプチドグリカンの生物活性はエンドトキシンより 3 から 4 オーダー低いと言えます。

第40話4)で、ペプチドグリカンの受容体として Toll-like receptor 2(TLR2)が提唱されたこと5)をご紹介しました。最近この分野の研究の進歩がめざましく、エンドトキシンの受容体が TLR-4 であること、その反応には MD-2 という補助因子が必要なこと、ペプチドグリカンの受容体は TLR-2 であり、TLR-2 は TLR-1 や TLR-6 と 2 量体を形成することでペプチドグリカンやリポペプチドを認識することなどが報告されています6)

その他、エンドトキシンやペプチドグリカンの他、鞭毛蛋白や細菌由来 DNA 2 重鎖 RNA などを認識する TLR ファミリーが見つかっており、強さは異るにせよ種々の微生物由来成分による刺激が細胞内に伝達され、サイトカイン産生を促すという機構が明らかにされてきています。ペプチドグリカンとエンドトキシンの生物活性の類似性、相乗効果、活性の強さの違いなどについては、TLR に関連した情報伝達の仕組みが明らかにされることによって、説明されてくることでしょう。

さて、第49話7)では透析療法におけるエンドトキシンの影響に関する研究でエンドトキシンやペプチドグリカンの影響が注目されていることをご紹介しました。土田らは、エンドトキシン・ペプチドグリカン・β-グルカンによる汚染の認められた透析液で透析治療を受けた患者群の単核球のエンドトキシンに対する反応性が、汚染の認められない透析液で透析治療を受けた患者群のそれに比べて大きく変化していることを報告しています8)

これは、急性毒性を発現しない量の微生物成分による慢性的な刺激が人体に影響を及ぼすことを示しています。ペプチドグリカンの汚染に慢性的にさらされた場合、人体はどのように反応するでしょう。おそらく、ペプチドグリカンの多少の汚染では急性反応は出ないと思われますから、軽い炎症反応がおこり、エンドトキシンその他の刺激に対して、生体反応の挙動が変わってしまうのではないでしょうか。

現在、エンドトキシンのように管理を受けていないペプチドグリカンをはじめとする種々の微生物由来成分では、そのようなことが起こる可能性がないとは言えませんし、それらがエンドトキシンという主役の効果を修飾しているのは間違いないように思われます。

最近の研究は、これらの機構を明らかにしてきているように感じられます。今後、その活性の強さから考えてエンドトキシンがその中心の座を譲るとは考えられませんが、ペプチドグリカンなどのわき役の働きの制御が注目されてくるのではないでしょうか。

参考文献

  1. 土谷正和 : 和光純薬時報,63(1), 18(1995).
  2. 土谷正和 : 和光純薬時報,64(4), 16(1996).
  3. Nakagawa, Y. et al.: Clin. Diagn. Lab. Immunol., 9, 588-597(2002).
  4. 土谷正和 : 和光純薬時報,68(3), 25(2000).
  5. 竹内 理、審良静男:実験医学,18,343(2000).
  6. 三宅健介 :「エンドトキシン研究6」,p. 23ー30,(医学図書出版)(2003).
  7. 土谷正和 : 和光純薬時報,70(4), 25(2002).
  8. 土田健司 他 : 防菌防黴,25, 405(1997).

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