コロイド滴定

コロイド滴定はコロイド粒子間の反応(高分子陽イオンと高分子陰イオンが会合する現象)を利用する滴定法で、高分子電解質の簡便な定量法として、様々な分野で使われています。

指示薬による滴定終点では、ポリビニル硫酸(PVS)がトルイジンブルー(TB)と反応した際の青から赤紫への変色で判定します。

学術コンテンツ

コロイド滴定の原理

コロイド滴定の原理はポリカチオン(高分子の陽イオン)とポリアニオン(高分子の陰イオン)がその強いクーロン引力で、瞬時にポリイオンコンプレックスを形成することに基づいています。

カチオンポリマーとアニオンポリマーの反応模式図

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N/400のグリコールキトサン(Gch)溶液を、N/400のポリビニル硫酸カリウム(PVSK)標準液で滴定すると徐々に白濁します。滴定の終点では指示薬として加えたトルイジンブルー(TB)が青色から赤紫色に変色します。
TBはカチオン色素であり、液性がカチオンコロイドである限り、元の青色を保っています。滴定終点でPVSKが過剰になると、アニオンコロイドに吸着され赤紫色に鋭敏に変色します。滴定の終点検出には吸着指示薬のメタクロマジー現象*(青色→赤紫色)が利用されています。
*メタクロマジー現象:細胞や組織を染色したとき、染色された組織や細胞が、色素の本来の色とは異なる色に染まる現象

コロイド滴定液の使い分け

標準ポリアニオン

・ポリビニル硫酸カリウム(PVSK)

PVSKはアニオンコロイドとして働く代表的なポリマーです。
当社では、産総研を通じてSIトレーサブルを実現したヘキサデシルピリジニウムクロリド(CPC)を用い、PVSK溶液のファクターをつけています。コロイド滴定の基準としてお使い頂ける標準液です。

標準ポリカチオン

・グリコールキトサン(Gch)

Gchは酸性側(pH5以下)でのみカチオンコロイドとして働きます。

・メチルグリコールキトサン(MeGch)

酸、アルカリ全領域でカチオンとして働きます。

・ポリ(塩化ジアリルジメチルアンモニウム)(DADMAC)

線状ポリマー、均一荷電の理想的なポリカチオンです。Gch、MeGchと比べ、pHによる影響を受けません。

コロイド滴定の注意点

・pH

コロイド滴定はコロイドイオン間の反応を利用します。正・負コロイドは互いが完全に解離している状態で反応させる必要があります。Gchは酢酸酸性(pH5以下)、MeGchは酸・アルカリの全域にわたって使用できますが、塩誤差があるため、強酸、強アルカリで使用する場合には必ずブランク試験を行い、ファクターを決定する必要があります。

・温度

高温ではトルイジンブルーのメタクロマジーが不鮮明になるため、なるべく室温に冷やしてから実施してください。

・塩類濃度

高分子電解質の解離は塩類濃度の影響を受けるため、塩類濃度に注意が必要です。特に多価イオンはファクターを低下させる原因になり、グリコールキトサン(Gch)は特に大きく影響を受けます。
塩類濃度が0.5%を超えるサンプルを滴定する場合はブランク試験を実施してください。可能であればサンプルを希釈するか、透析して塩類を除去してください。

応用例

・食品分析:ペクチンの定量、タンニンの定量、アルギン酸の定量、寒天の定量
・土木工学:水処理への応用(汚泥水の浄化)
・パルプ工学:木材中のリグニンの定量

引用文献
千手諒一 編:「コロイド滴定法」(南江堂)(1969)