ウエスタンブロッティング試薬

ウエスタンブロッティング(Western blotting;WB)はSDS-APGE後のタンパク質を検出する手法です。
当社では、ペルオキシダーゼ発光基質「イムノスター」、S/N比を改善する「イムノエンハンサー」、ブロッティング用メンブレン「クリアトランス」などウエスタンブロッティングに欠かせない製品を提供しています。

学術コンテンツ

ウエスタンブロット法とは?

ウエスタンブロットとは、サンプル中に含まれる特定のタンパク質の発現を確かめるために使われる一般的な実験手法です。ウエスタンブロッティングとも呼ばれます。
本記事を読むことでウエスタンブロット (Western Blotting:WB) の概要がわかります。

ウエスタンブロットの原理

ウエスタンブロットは、タンパク質サンプルを電気泳動によりポリアクリルアミドゲル内で分離した後、メンブレンに転写し、抗原抗体反応を用いて特定のタンパク質を検出する方法です。

まず、SDS-PAGEでサンプルを分子量に応じて分離した後、ゲル内のタンパク質を、ゲルに密着させたメンブレン (ニトロセルロースやポリフッ化ビニリデン (PVDF) など) に電圧をかけることによって転写します。

次に、タンパク質を転写したメンブレンに対して、検出したいターゲットタンパク質に対する一次抗体を反応させます。メンブレンを洗浄後、西洋ワサビペルオキシダーゼ (HorseRadish Peroxidase, HRP) などで標識した二次抗体を一次抗体に反応さ、酵素活性による発色や化学発光により検出します。

このようにウエスタンブロッティングでは 分子量情報と抗体の特異性を利用して、特異的にタンパク質を検出することができます。ウエスタンブロッティングはライフサイエンス研究ではもっともよく行われている実験のひとつです。

ウエスタンブロットの流れ・方法

ウエスタンブロットの流れの概要

ウエスタンブロットは下記の4ステップから構成されます。

  1. サンプル調製
  2. 電気泳動
  3. メンブレンへ転写
  4. 抗体による検出

それぞれのステップを説明します。

サンプル調製

ウエスタンブロットでまず最初に行うことは、細胞や組織から目的タンパク質を含むライセートを調製することです。

まず、細胞や組織をPhosphate Buffered Saline (PBS;りん酸緩衝食塩水) などで洗浄します。
細胞の場合は、可溶化バッファーにより細胞を溶解し、超音波処理であるソニケーションを行った後でタンパク質を溶出させます。
組織サンプルの場合は、ハサミで細切したあと、組織の種類に応じてテフロンホモジナイザーやブレードホモジナイザーによるホモジナイゼーションを行います。

ライセ―トが完成した後、 SDS-PAGEサンプルバッファーを加えて熱変性などを行ってから電気泳動に使用します 。

電気泳動:SDS-PAGE

SDS-PAGEの目的は、サンプル中のタンパク質を分子量に応じて分離することです。分離にはポリアクリルアミドゲルを使用します。

タンパク質にはそれぞれ固有の立体構造や電荷があります。そのまま電気泳動を試みた場合、立体構造によってゲル内での移動度が変わってしまうため、分子量に応じて分離することができません。

そこで、調製したライセ―トをドデシル硫酸ナトリウム (SDS; sodium dodecyl sulfate)と還元剤を含むSDS-PAGEサンプルバッファー中で熱処理します。還元剤の作用でタンパク質のジスルフィド結合が切断され、立体構造が壊れます。さらに、SDSの作用によってタンパク質全体にのマイナス電荷を持たせます。

熱処理したサンプルをSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動 (PAGE; polyacrylamide gel electrophoresis) にかけると、マイナスの電荷を持ったタンパク質が陰極から陽極に向かって進みます。このとき、分子量が小さいタンパク質ほどゲルの中を通りやすいため、移動度が大きくなります (より遠くへ移動する)。

すなわち、これらの処理により、正確にタンパク質の大きさ順に分離をすることが可能になります。還元剤・SDSで熱処理したライセ―トは新鮮なうちに利用することが重要です。

サンプルの準備が完了した後は、ポリアクリルアミドゲルを電気泳動装置にセットし、SDS-PAGE用ランニングバッファー電気泳動槽を満たします。電流・電圧の条件によりますが、電気泳動には約1時間かかります。

転写:Transfer

転写装置の比較

タンク式 (ウエット式) とセミドライ式があります。
転写 (トランスファー) の目的は、ポリアクリルアミドゲル内にあるタンパク質をメンブレンに吸着させることです。これにより、抗体がタンパク質に結合できるようになります。

ゲル中のタンパク質は、SDSによってマイナスの電荷を持つため、電圧をかけることでタンパク質は陽極方向へ移動します。
電気泳動 (SDS-APGE) においては、タンパク質に電圧をかけることでゲル内を移動させ、その移動速度の差でタンパク質を分子量ごとに分離させました。一方、転写においては、ゲルからタンパク質をメンブレンへ移す (トランスファーする) ために電圧をかけます。
どちらもマイナスの電荷を持つタンパク質を陽極方向に移動させるという点では同じです。

転写の方法は大きく分けてセミドライ式とタンク式 (ウェット式) の2種類があります。

方式 バッファー使用量 転写時間 特徴
セミドライ式 30~100 mL 0.1~1h 低分子量~中分子量のタンパク質向き
タンク式 300~500 mL 1.5-3h 高分子量タンパク質も可能
分子量にかかわらず良好な結果が出やすく、転写ムラも少ない

セミドライ式は、転写バッファーを染み込ませた転写用ろ紙 (ブロッティングペーパー) でゲルを挟み、さらにそれをセミドライ用転写装置の電極で挟み、通電します。転写時間が短く、少量の転写バッファーで行えます。注意点として、転写時間が長すぎると転写バッファーが乾いてしまい、ろ紙やゲルが焼ける恐れがあります。

タンク式は、転写バッファー中でゲル内のタンパク質をメンブレンへ移動させる方法です。完全に浸水しますので多くの転写バッファーを必要とします。転写時間も1.5時間以上かかりますが、セミドライ式よりも転写効率が高く、高分子量タンパク質をターゲットする場合に推奨されます。

Tips:なぜ高分子量タンパク質は転写効率が低いのか?

電気泳動の項目で述べたように、ポリアクリルアミド内において、タンパク質はその分子量が小さいほど移動が速く、大きいほど移動が遅くなります。転写も同様に、ポリアクリルアミド内のタンパク質を移動させるため、分子量の大きいタンパク質はゲルの外に出るまでより時間がかかります。

ウエスタンブロットで目的のバンドが見えなかった場合、転写後のゲルをCBB染色か銀染色で染色してみましょう。ゲルの中に多くのタンパク質が残っているかもしれません。その場合は、転写時間を少し長くする、セミドライ式ならタンク式に変更することで解決することが多いです。

ブロッティング用メンブレンの種類:Membrane

ウエスタンブロットでは、PVDFメンブレンとニトロセルロースメンブレンが使用されます。

長所 短所
PVDF (ポリフッ化ビニリデン)
  • 物理的強度が高く、破れにくい
  • 薬剤耐性が高い
  • タンパク質への吸着力が強い
  • 使用前にメタノールによる親水化処理が必要
ニトロセルロース
  • 安価
  • 物理的強度は低く破れやすい
Tips:

1枚のメンブレンに対して抗原抗体反応を複数回行う (リプロービング) 場合、抗体を抗原タンパク質から剥がすストリッピング試薬で処理をします。ストリッピングを行う場合、メンブレンはPVDFを使用します。抗体を剥離するストリッピング試薬は、メンブレンにダメージを与えるため、物理的強度および薬剤耐性の高いPVDFの方が適しています。

転写バッファー:Transfer Buffer

最も一般的な転写バッファーは、トリス、グリシン、メタノールで構成されます。
ターゲットタンパク質が高分子量の場合は (例:100k以上)、SDS (ドデシル硫酸ナトリウム) を添加することもあります。高分子タンパク質は、ゲル内での移動速度が遅く、低分子タンパク質よりもゲル内に残りやすいため、転写効率は下がります。メタノール濃度10%以下にする、およびSDSを0.1%加えることで転写効率が改善することがあります。

転写バッファーの例
メタノール濃度 SDS
分子量が大きい 10%以下 入れる
分子量が小さい 20%以上 入れない
Tips:

転写バッファー中のメタノールは、タンパク質とSDSの結合力を低下させることでメンブレンへの吸着を促進しますが、ゲルからの溶出力が低下するため高分子のタンパク質は転写効率が低下する場合があります。

免疫検出 (抗原抗体反応):Antigen-antibody Reaction

ブロッキング

ターゲットタンパクに対する一次抗体をメンブレンへ転写したタンパク質と反応させる前に、ブロッキングを行います。ブロッキングは、非特異的な一次抗体の結合を阻害することで、バックグラウンドシグナルを低減させるために行います。

使用するブロッキング液によって結果は大きく変わります。一般的なブロッキング溶液としては1~5% BSA (Bovine Serum Albumin;ウシ血清アルブミン) や 1~5%スキムミルクがよく使用されます2)
ブロッキング液は、使用する抗体によって濃度、ブロッキング時間、ブロッキング成分の種類を変更します。
非特異反応が少ない抗体なら薄い濃度ブロッキング液で十分です。濃度が高すぎると、バックグラウンドシグナルは低下しますが、ターゲットタンパク質のシグナルも弱くなります。また、ブロッキング時間も短すぎるとブロッキング効果が弱く、長すぎるとターゲットシグナルも減弱します。

ブロッキング成分の種類に関して、抗体の中にはBSAやスキムミルク中のタンパク質そのものに反応するものもあり、そのような場合はポリマーを主成分とする非タンパク質ブロッキング液を使用します。

メンブレンをブロッキング液に浸し、室温で30分間から1時間程度、振とうさせることが一般的です。
ブロッキング後は、メンブレンをTBS-T (0.1% tween 20) やPBS-T (0.1% tween 20) 中に浸しながら振とうし、洗浄します。

抗体反応

ブロッキングの次は、ターゲットタンパク質に対する抗体 (一次抗体) および酵素で標識された抗体 (二次抗体) とメンブレンを反応させます。

抗体は高濃度で販売されているため、まずは抗体を希釈します。希釈液には、PBS-Tやブロッキング液を使用します。

一次抗体の濃度は重要で、文献やメーカー推奨の濃度などを参考に実験をしながら最適化しましょう。濃度が低すぎると目的タンパク質が検出できず、濃度が高すぎると非特異反応が起こり関係のないタンパク質まで検出されます。

オーバーナイトで抗体を反応させる場合は、希釈した一次抗体溶液でメンブレンを浸し4℃で振とうさせます。数時間で反応させる場合は室温で行います。

一次抗体反応が終わったメンブレンはPBS-Tなどの洗浄液で5分間3回などの洗浄を行います。

検出:Detection

二次抗体に標識された酵素を発色基質あるいは発光基質と反応させ、 ターゲットタンパク質のバンドを検出します。標識付きの一次抗体を使用する場合は二次抗体は不要です。
最も良く使用される標識酵素は、西洋ワサビ由来のペルオキシダーゼ (HorseRadish Peroxidase, HRP) です。単にPOD (Peroxidase) とも呼ばれます。

一次抗体を反応させたメンブレンを、希釈した二次抗体液中で振とうします。一次抗体の免疫動物 (宿主;ホスト) によって適切な二次抗体を選びます

例) 一次抗体の免疫動物がマウスの場合、Goat anti-mouse IgG-HRPなどマウス由来の抗体に反応する二次抗体を選択します。

二次抗体に標識されているHRPへ基質を反応させ、得られる化学発光をCCDカメラなどのデジタルイメージャーやエックス線で検出します。

時間経過とともに発光が弱くなるため、発光基質と標識二次抗体を反応させた後は速やかに撮影します。バンドが現れない場合は露光時間 (Exposure Time) を長くしてみましょう。感度不足が原因の場合はバンドを検出できるようになることがあります。

参考文献

  1. 西方敬人.タンパクなんてこわくない/バイオ実験イラストレイテッド5(秀潤社)1997
  2. 岡田雅人,宮崎 香.[改訂]タンパク質実験ノート(上・下)/無敵のバイオテクニカルシリーズ(羊土社)1999