RNA抽出・精製試薬 (エクソソーム)

エクソソームをはじめとする細胞外小胞(EV: Extracellular Vesicle)には、様々な核酸やタンパク質が内包されています。特にメッセンジャーRNA(mRNA)やマイクロRNA(miRNA)は、エクソソームの細胞間コミュニケーションにおける機能分子の1つとして注目を集めています。エクソソーム研究においても、RNAの抽出・精製工程は下流の解析(リアルタイムPCRやマイクロアレイ、次世代シークエンスなど)に影響を与える重要な工程であり、適切なキットを選択する必要があります。当社では精製EVに最適化されたRNA抽出・精製キット「精製EV用 マイクロRNAエキストラクター® キット」を販売しております。

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エクソソームに内包されるRNA

エクソソームをはじめとする細胞外小胞(EV: Extracellular Vesicle)は発見当初、細胞内の不要な分子を排出する仕組みであると考えられていましたが、細胞間コミュニケーションのツールとして機能することが明らかになり、注目を集めています。細胞外小胞には核酸、タンパク質、代謝物、脂質などが含まれています。その中でもRNAはタンパク質と並んで、細胞間コミュニケーションにおける重要な機能分子と考えられており、診断や治療などの応用分野でも盛んに研究されています。

細胞外小胞に内包されるRNAには主に以下のようなものがあります。

mRNA

細胞外小胞にはタンパク質をコードするメッセンジャーRNA(mRNA: messenger RNA)が存在しています。Valadiらが行ったマイクロアレイの解析によると、マスト細胞由来の細胞外小胞には約1,300種類のmRNAが含まれていました1)。これらmRNAの一部は受容側の細胞で翻訳されることが分かり、細胞外小胞を介して細胞から細胞へRNAが水平伝播するという報告は研究者に大きな驚きを与えました。その後、グリオブラストーマでも同様の報告がなされ、約27,000種類ものmRNAが検出されました2)

miRNA

マイクロRNA(miRNA: microRNA)は、22塩基前後の短いRNAで、タンパク質には翻訳されないノンコーディングRNA(ncRNA: non-coding RNA)の1種です。主な機能としてmRNAに結合してその発現を制御することが知られています。2007年、細胞外小胞内にmiRNAが存在することが報告され1)、放出されたmiRNAが受容側の細胞に取り込まれて機能することが明らかとなってから3-5)、細胞間コミュニケーションの機能分子として認識されるようになりました。

これまでの研究で細胞外小胞に内包されるmiRNAには特徴的な配列が存在することが報告され、EXOmotif と呼ばれています。EXOmotifに相互作用し、miRNAを細胞外小胞に積み込む手助けをするタンパク質としてRNA結合タンパクhnRNPA2B1が同定されており、細胞外小胞へmiRNAを選択的に搭載する手掛かりとして期待されています6)

細胞外小胞内のmiRNAは疾患に関与することが示唆されており、特にがん研究の分野では細胞外小胞に含まれるmiRNAの役割について様々な報告がなされています。例えば、白血病細胞株 K562由来の細胞外小胞に含まれるmiRNAは血管内皮細胞に作用して細胞の移動や血管の形成を促進したり7)、乳がん細胞が放出する細胞外小胞のmiRNAは転移先のグルコースの代謝変化を通じて、転移を促進することが報告されています8)

lncRNA

長鎖ノンコーディングRNA(lncRNA: long non-coding RNA)は約200塩基超のncRNAで、遺伝子発現やクロマチン状態の制御など様々な機能が報告されています。これまでの研究で、細胞外小胞にlncRNAが存在することやがん細胞に特徴的なlncRNAが同定されているものの9)、その意義については未解明な部分が多く残されています。

circRNA

環状RNA(circRNA: circular RNA)はその名の通り、環状のRNAであり、ncRNAの1種です。末端部分がないため直鎖状のRNAと比べて安定であり、miRNAの発現制御などの機能があるとされています。細胞外小胞においてもcircRNAの存在が報告されており10)、他のRNAと同様に細胞間コミュニケーションに用いられていることが推測されますが、その詳細な機能はlncRNAと同様に明らかではなく、今後の研究が待たれます。

本稿で紹介したRNA以外にもtRNAやrRNA、snRNA、snoRNA、piRNAなども細胞外小胞に含まれていることが分かっており、タンパク質発現の制御に関わっている可能性が示唆されています11)。なお細胞外小胞に含まれているmRNAやmiRNAなどは「ExoCarta」(http://www.exocarta.org)と呼ばれるデータベースにまとめられています。

細胞外小胞には様々なRNAが含まれており、ドナー細胞によってRNAの種類や構成は異なります。また細胞外小胞に内包されるRNAは核酸分解酵素による分解を受けづらいため比較的安定です。これらの特徴から、細胞外小胞内のRNAを診断のバイオマーカーに利用しようとする研究が盛んに行われています。研究の進展によって、今後も新たなRNAの同定やその機能の解明が期待されます。

参考文献

  1. Valadi, H. et al.: Nat. Cell Biol., 9(6), 654(2007).
    Exosome-mediated transfer of mRNAs and microRNAs is a novel mechanism of genetic exchange between cells
  2. Skog, J. et al.: Nat. Cell Biol., 10(12), 1470(2008).
    Glioblastoma microvesicles transport RNA and proteins that promote tumour growth and provide diagnostic biomarkers
  3. Kosaka, N. et al.: J. Biol. Chem., 285(23), 17442(2010).
    Secretory mechanisms and intercellular transfer of microRNAs in living cells
  4. Pegtel, D. M. et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 107(14), 6328(2010).
    Functional delivery of viral miRNAs via exosomes
  5. Zhang, Y. et al.: Mol. Cell, 39(1), 133(2010).
    Secreted monocytic miR-150 enhances targeted endothelial cell migration
  6. Villarroya-Beltri, C. et al.: Nat. Commun., 4(1), 2980(2013).
    Sumoylated hnRNPA2B1 controls the sorting of miRNAs into exosomes through binding to specific motifs
  7. Umezu, T. et al: Oncogene, 32(22), 2747(2013).
    Leukemia cell to endothelial cell communication via exosomal miRNAs
  8. Fong, M. Y. et al.: Nat. Cell Biol., 17(2), 183(2015).
    Breast-cancer-secreted miR-122 reprograms glucose metabolism in premetastatic niche to promote metastasis
  9. Ahadi, A. et al.: Sci. Rep., 6(1), 24922(2016).
    Long non-coding RNAs harboring miRNA seed regions are enriched in prostate cancer exosomes
  10. Bao, C. et al.: Mol. Cell. Oncol., 3(2), e1084443(2016).
    Circular RNA expands its territory
  11. Nolte-’t Hoen, E. N. et al.: Nucleic Acids Res., 40(18), 9272(2012).
    Deep sequencing of RNA from immune cell-derived vesicles uncovers the selective incorporation of small non-coding RNA biotypes with potential regulatory functions