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【テクニカルレポート】遺伝子組換えタンパク質を用いたエンドトキシン測定試薬

本記事は、和光純薬時報 Vol.93 No.1(2025年1月号)において、富士フイルム和光純薬株式会社 バイオ技術センター 福地 大樹が執筆したものです。

1.はじめに

エンドトキシンはグラム陰性細菌の細胞壁外膜に存在するリポ多糖(Lipopolysaccharide)であり、血中に入ると極微量で発熱性を示し、大量ではエンドトキシンショックから死に至るような強い毒性を示すことがある1)。グラム陰性細菌は環境中に広く存在しているため製造工程に混入するリスクがあり、また混入したエンドトキシンは耐熱性のため容易に失活しないことから、注射剤や医療機器はエンドトキシン汚染を厳密に管理することが求められている。近年、再生医療、ワクチン、抗体や核酸医薬に関連する製品の開発が盛んに行われているが、そのような製品においてもエンドトキシン管理は重要である。
エンドトキシンは、カブトガニの血球抽出物の血液凝固系を利用したLAL試薬を用いて測定しているのが現在の主流であるが、カブトガニ保護、試薬の安定供給、製品ロット間差の解消及び試験安定性の向上を目的として、人工原料である遺伝子組換えタンパク質を用いたリコンビナントLAL(rLAL)試薬の開発が各LALメーカーで進められるようになった。

2.エンドトキシン試験法の測定原理

エンドトキシン試験法は、カブトガニの血球成分より調製されたLAL試薬を用いてエンドトキシンを検出又は定量する方法である。カブトガニの血球抽出成分にはエンドトキシンに対して凝固を引き起こす反応系が存在し、この凝固反応は複数のセリンプロテアーゼ前駆体が順次関連因子を活性化するカスケード反応に基づいている(図1)。エンドトキシンがカブトガニ血球抽出成分に含まれるC因子を活性化し、続いて活性型C因子がB因子を活性化する。次に活性型B因子が凝固酵素前駆体を活性化し、活性化した凝固酵素が基質であるコアギュローゲンを加水分解することにより凝固性タンパク質であるコアギュリンに変換し、生じた不溶性ゲルにより凝固が起こる。カブトガニの血球抽出成分にはβ-グルカンに反応するG因子から始まるカスケード反応も存在しておりβ-グルカンによっても凝固反応が起こるが、エンドトキシンのみを対象とする試験法の場合にはG因子の除去、またはG因子から始まるカスケード反応を抑制することにより特異性を構築している。

図1.エンドトキシン、β-グルカンによる凝固反応カスケード

図1.エンドトキシン、β-グルカンによる凝固反応カスケード

3.遺伝子組換えタンパク質を用いたrLAL試薬

現在、二つのrLAL試薬が製品化されており、一つはエンドトキシンカスケード反応を担う3因子のうちの一つ(C因子)のみを使用したrFC、もう一つはLAL試薬と同じ3因子(C因子、B因子、凝固酵素前駆体)によるrecombinant cascade reagent(rCR)である。前者のrFCはrCRに比べ1テストあたりのコストは安く抑えられるが、感度が劣るため蛍光基質を使用した蛍光検出および測定機器が必要である。rCRはrFCに比べ感度が高く、発色で検出可能なため、LAL試薬と同じ一般的なプレートリーダーで測定可能である。また近年、エンドトキシンに対する特異性に関してB因子が重要な役割を果たしているという報告があり2,3)、C因子、B因子、凝固酵素前駆体を含むrCRでエンドトキシンを測定する意義は大きい。富士フイルム和光純薬ではrCRのPYROSTAR™ Neoを2022年に上市した。

4.PYROSTAR™ Neoの特長・課題点

PYROSTAR™ Neoは0.001 EU/mLまで定量可能な高感度、また凍結乾燥品を試験用水で溶解するだけの簡便な操作性、溶解後安定性に優れたrCRである。一方、上市後に実施された各研究機関、LALメーカーによるrLAL共同研究班による評価結果では、一部の水サンプルに含まれる天然エンドトキシンに対する反応性がLAL試薬と比較して低い結果となった4)。製造用水はエンドトキシン試験の大部分を占めており、安全性の観点から天然エンドトキシンに対して反応性が低いことは大きな課題点であると考え、改良版であるPYROSTAR™ Neo+を2024年6月に上市した。

5.PYROSTAR™ Neo+

今回当社が開発したPYROSTAR™ Neo+は、これまでのPYROSTAR™ Neoの高感度、簡便な操作性、優れた溶解後安定性に加え、PYROSTAR™ Neoの課題点であった天然エンドトキシンに対する反応性を向上したrCRである。日本全国各地から収集した水道水サンプルに含まれる天然エンドトキシンに対する反応性の検証結果では、PYROSTAR™ Neoと比較し反応性が向上し、LAL試薬(ES-F)と同等の反応性であることを確認している(図2)。エンドトキシン試験の多くは製造用水に対する試験であるため、安全性の観点から水に含まれる天然エンドトキシンに対する反応性が良いことは重要である。また医薬品測定における検量線の信頼性、様々な医薬品が測定可能であることも大きな特徴である。

図2.水に含まれる天然エンドトキシンに対する反応性比較結果

図2.水に含まれる天然エンドトキシンに対する反応性比較結果

6.おわりに

現在使用されているエンドトキシン測定試薬は生物原料を使用したLAL試薬が主流であり、人工原料である遺伝子組換えタンパク質を使用したrLAL試薬はまだ歴史が浅く普及していないのが現状である。こうした中、2021年に欧州薬局方では蛍光法を用いた遺伝子組換えC因子試薬(rFC)が正式に収載された。最新版である第十八改正日本薬局方では参考情報として、「エンドトキシン試験法と測定試薬に遺伝子組換えタンパク質を用いる代替法」が記載された。米国薬局方では2025年5月にエンドトキシン検査にrLAL試薬(rCR、rFC)の使用を認める新章を収載予定であり、rLAL試薬への関心が高まっている。こうした動きが加速し、欧州薬局方ではrCRの追加収載、日本薬局方ではrLAL試薬(rCR、rFC)の公定法収載が進む可能性がある。LAL試薬とrLAL試薬の比較検討の取組みが進んでおり4,5)、今後、rLAL試薬の使用検討が進むと思われるが、検討を予定している製薬企業等のユーザーに受け入れられるよう要求事項に答える必要がある。ユーザーの利益と、環境およびカブトガニ保護を両立できるよう取り組んでいきたい。

参考文献

  1. 棚元憲一:国立医薬品食品衛生研究所報告, 126, 19 (2008).
  2. Kobayashi,Y. et al. : J. Biol. Chem., 290, 19379 (2015).
  3. Tsuchiya. M. : Int. J. Dev. Res. 10, 36751 (2020).
  4. 菊池裕 他:医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス, 54 (4), 341 (2023).
  5. 菊池裕 他:医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス, 48 (4), 252 (2017).

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