タンパク質抽出試薬

タンパク質の抽出は、タンパク質研究の初期における重要なステップです。抽出方法はサンプルやタンパク質に合わせて適切に選択する必要があります。
特にタンパク質抽出キットの「リソピュア™ 核・細胞質タンパク質エキストラクターキット」は性能面とコスト面で好評いただいています。細胞と組織のどちらからでもタンパク質を抽出可能です。

学術コンテンツ

タンパク質の各種抽出方法の違い

タンパク質の抽出は、タンパク質抽出・精製工程における最初の重要なステップです。研究で用いられるサンプルは、動物や植物、微生物などがあり、サンプルに合わせた抽出方法を選択します。

タンパク質の抽出・精製とは?

一般的なタンパク質の抽出・精製の方法は、大きく分けて3ステップあります。

タンパク質抽出・精製の3ステップ

  1. サンプルから総タンパク質の溶解・抽出
  2. ターゲットタンパク質の分離・濃縮
  3. 干渉物質や夾雑物の除去 (抽出タンパク質のクリーンアップ)

細胞を破壊・溶解してタンパク質を抽出する最初のステップは、最終的に得られるタンパク質の収量や品質に影響するため、とても重要です1)

タンパク質抽出に関する3つの重要事項

ターゲットタンパク質を効率的に回収するためには、下記3点に注意しなければなりません。

  1. サンプルの種類
  2. ターゲットタンパク質の局在性
  3. サンプルに内在するプロテアーゼ

①サンプルの種類

哺乳類組織

組織からタンパク質を抽出する場合、組織を超音波やホモジナイザーで破砕する工程が必要です。

動物細胞、培養細胞

界面活性剤などを含む試薬で、脂質二重層からなる細胞膜を破壊し、タンパク質を抽出します。

大腸菌、酵母、植物

大腸菌、酵母、植物細胞の共通点は、細胞壁があることです。物理的破砕方法や酵素で細胞壁を壊します。

②目的タンパク質の局在

小胞体やミトコンドリア、核や細胞膜などに局在するタンパク質もあります。タンパク質の抽出過程において、ノンターゲットのタンパク質を除外し、ターゲットタンパク質が多く含まれるフラクション (画分) を選択的に抽出することで、ターゲットタンパク質が高濃度に含まれた状態で回収できます。フラクション別にタンパク質を抽出・回収する試薬は市販されています。

③抽出中のタンパク質の安定化 (プロテアーゼ阻害)

タンパク質抽出の過程で細胞の構造を破壊するため、細胞内の内在性プロテアーゼが細胞外へ放出されます。そのまま抽出すると、プロテアーゼ活性によりターゲットタンパク質が分解されます。

その対策として、抽出試薬にプロテアーゼ阻害剤をあらかじめ添加する、もしくは抽出後のタンパク質に添加します。また、37℃付近で最大活性を持つプロテアーゼが多いため、抽出過程はサンプルを低温 (0~4℃) 状態に維持しながら操作します。具体的には、サンプルや試薬を氷上で冷却しながら操作します。

りん酸化修飾を受けたタンパク質をターゲットにする場合は、プロテアーゼ阻害剤に加え、タンパク質の脱りん酸化を防ぐホスファターゼ阻害剤を使用します。

タンパク質の各種抽出方法

ここからはタンパク質抽出手法を概説します。

超音波破砕

高周波のパルス状超音波により、組織や細胞の構造を壊します。ソニケーションとも呼ばれます。

抽出試薬を混ぜたサンプル懸濁液に超音波を発するプローブを浸し、超音波によるエネルギーから生じる気泡を発生・破裂させることでサンプルに衝撃を連続で与えます。処理中は熱が発生するため、サンプルを冷却しながら断続的に超音波を当て、サンプル懸濁液の温度上昇を防ぎます。

ホモジナイザーによる破砕

組織や培養細胞の破砕によく用いられます。ペストルと呼ばれる棒をサンプルに押し当てて細胞を破砕します。ストロークの回数とスピードが破砕効率に影響を与えます。

  • ダウンス (Dounce) 型ホモジナイザー:丸ガラスのペストル+ガラス管
  • ポッター (Potter) 型ホモジナイザー:丸型や円錐形のテフロンコーティングペストル+外筒

抽出効率の高いディスポーザルホモジナイザー「バイオマッシャー®」はこちらです。

フレンチプレスによる破砕

50~200 mL程度の細胞懸濁液に高圧をかけ、小さな穴から押し出すことで細胞を破砕します。

ビーズ式破砕

研磨作用のあるビーズを用いて細胞壁や細胞膜を破砕します。細胞壁を持つ酵母からのタンパク質抽出によく用いられます。破砕効率は主にビーズの質量と径に依存し、試料に応じたビーズを選択します。

乳鉢・乳棒

乳鉢と乳棒を用いてサンプルをすり潰しながら破砕します。液体窒素でサンプルを凍結させてから破砕する場合もあります。セルロースや多糖から成る強固な細胞壁をもつ植物細胞の破壊に使用されやすいです。

凍結融解法

液体窒素、ドライアイスや冷エタノールでサンプルを急速冷凍し、室温あるいは37°Cで解凍します。凍結過程で細胞が膨張し氷晶が形成され、細胞を破壊することでタンパク質が抽出されます。十分に溶解するまで最低2回以上くり返して行うことが多いです。凍結融解法は細菌や哺乳類細胞のタンパク質抽出で用いられます。

酵素消化法

細胞壁などを分解する酵素を用いて、タンパク質を抽出する方法です。例えば大腸菌ならリゾチーム、植物ならセルラーゼペクチナーゼを使用します。

また、広い溶菌スペクトルを持つアクロモペプチダーゼ®も使用されます。リゾチームより溶菌力が強く、かつ多様な細菌を溶解します。

浸透圧ショック法

細胞を浸透圧の低い溶液につけ、浸透圧を利用してタンパク質を抽出方法です。細胞内小器官の破壊が抑えられるため、プロテアーゼ活性が低く抑えられる利点があります。

界面活性剤をベースとした方法

界面活性剤は、両親媒性の分子で脂肪族または芳香族の特性を有する非極性の「尾部」と極性の「頭部」を含む分子です。界面活性剤を使用することで、水と親和性が低い (疎水性が高い) タンパク質の溶解性を高めます。細胞溶解液に直接添加することも多いですが、膜タンパク質を精製する場合には、はじめに膜画分を調製してから界面活性剤を添加します。

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界面活性剤にはイオン性 (陰イオンまたは陽イオンに荷電)、非イオン性 (非荷電)、両イオン性 (正荷電基と負荷電基の両方を有するが正味荷電はゼロ) のものがあります。サンプル調整によって使用するものは異なります。一般的に、非イオン性や両イオン性界面活性剤が用いられることが多いです。

参考文献

  1. 岡田 雅人, 宮崎 香.:タンパク質実験ノート〈上〉タンパク質をとり出そう (抽出・精製・発現編) (無敵のバイオテクニカルシリーズ) 2011.