脂質

脂質は糖質やタンパク質と同様、生物のエネルギー源として利用されています。また細胞膜の主要な構成成分やシグナル伝達分子としても重要な役割を担っています。生体内に医薬品を送達する薬物送達システム (ドラッグデリバリーシステム; DDS)にも応用されています。

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脂質の性質と役割

脂質とは、分子中に長鎖脂肪酸または類似の炭化水素鎖をもち、生体内に存在するもしくは生物に由来する物質1)とされており、一般的に水には溶けず、有機溶媒(ベンゼンなど)に溶けるという性質を有しています。

脂質を構成する脂肪酸は疎水性の炭化水素鎖と親水性のカルボキシル基で構成される両親媒性の分子です。炭化水素鎖に二重結合を含まず、最大数の水素結合をもつ脂肪酸を飽和脂肪酸と呼び、二重結合を1個以上もつ脂肪酸を不飽和脂肪酸と呼びます。この炭化水素鎖の構造は脂肪酸の密集度に影響を与えており、脂質の物理化学的性質を決定する大きな要因です。

脂質は糖質やタンパク質と同様、生物のエネルギー源として利用されています。脂肪酸が分解するとグルコースの約6倍のエネルギーを発生するとされており、細胞にとって効率の良い保存食となっています2)。細胞は主にグリセロール1分子に脂肪酸3分子が結合したトリアシルグリセロールの形で脂肪酸を貯蔵しています。トリアシルグリセロールは全体が疎水性の性質を持ち、細胞質中では球状の液滴を形成します。

また脂質は細胞膜の主要成分でもあります。細胞膜はりん脂質と呼ばれるりん酸基を含む親水性の頭部と、2本の脂肪酸からなる疎水性の尾部からなる両親媒性の分子でつくられています。細胞膜のりん脂質は親水性の頭部が外に露出し、疎水性が内部で合わさった脂質二重膜を形成しています。また膜を構成する脂質にはりん酸基ではなく、糖を含む糖脂質も存在しており、細胞内のシグナル伝達などに関与していることが分かっています。

その他、脂質にはコレステロールやテストステロンのように環状骨格をもつステロイドも含まれます。コレステロールは細胞膜やミエリン鞘の構成成分やホルモンの前駆体であり、テストステロンは男性ホルモンとして核内受容体と共同で下流の標的遺伝子の発現を誘導します。

参考文献

  1. 今堀和友、山川民夫 監修:「生化学辞典(第4版)」 (東京化学同人) (2007).
  2. ブルース・アルバーツ 著、中村桂子 松原謙一 監訳:「Essential細胞生物学 原書第2版」 (南江堂) (2005).