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【連載】Talking of LAL「第61話 SLP試薬の応用(その3)」

本記事は、和光純薬時報 Vol.73 No.4(2005年10月号)において、和光純薬工業 土谷 正和が執筆したものです。

第61話 SLP試薬の応用(その3)

このところ SLP の話題が多くなってきています。今回は第59話の続報です。

第59話は医療関係者がアイコデキストリンによる無菌性腹膜炎について報告したものでしたが、今回ご紹介する報告1)は、アイコデキストリンのメーカーによるもので、The Lancet という医学雑誌に掲載されたものです。

腹膜透析用透析液の浸透圧を調整するために用いられるアイコデキストリンに関しては、第59話でお話しました。このアイコデキストリンを用いた透析液を使用したことによると思われる無菌性腹膜炎が、2002 年に多発しました。

症状としては、腹痛、吐き気、嘔吐、発熱などで、透析廃液が濁るという現象が観察されています。透析廃液の分析で感染の証拠が得られず無菌性腹膜炎と診断されています。無菌性腹膜炎は、透析液のエンドトキシン汚染が原因で発生したことが 1977 年に報告されており、1998 年にも同様の流行が報告されているそうです1)

しかし、今回発生した無菌性腹膜炎では、原因と思われる透析液はすべて、局方に定められたエンドトキシン試験や無菌試験、GMP による規制に適合しており、エンドトキシンの汚染によるものとは考えられませんでした。

この製品による無菌性腹膜炎の報告は、2000 年に 0.095% であったものが、2001 年に徐々に上昇し、2002 年の 3 月には最高の 1.04% となっています。

彼らは 2001 年 9 月から 2003 年 1 月の間に報告された 186 例の無菌性腹膜炎の記録について分析を行っており、好中球、リンパ球、マクロファージの増加が認められ、1 立方ミリあたり 300 から 3,500 個の細胞数となっていたこと、通常の血液培養や透析液培養の結果が陰性であったこと、アイコデキストリンの使用をやめると症状が回復したことなどを確認しています。

透析液の分析には、9 人の患者(ブドウ糖透析液使用:6 人、アイコデキストリン透析液使用で腹膜炎なし:2 人、アイコデキストリン使用で腹膜炎あり:1 人)から決められた条件で採取されたサンプルを使用しています。

家庭で採取されたサンプルの分析を試みたようですが、サンプルの取扱いや保存方法に問題があり、検討には使用できなかったそうです。LAL 試験に用いるサンプルもそうですが、微生物に関する試料採取の難しさを、ここでもかいま見ることができます。

分析の結果、アイコデキストリンによる腹膜炎ではインターロイキン-6(IL-6)の濃度が 5,000ng/L 以上(他の群では 59ng/L)と大きく上昇していたにもかかわらず、IL-1β や TNFα には違いが認められなかったこと、タンパク質濃度が腹膜炎で高くなっていたことが判りました。この傾向は通常の感染症やエンドトキシン汚染による症状とは異なっています。

彼らはこれらの観察を元に、末梢血単核球(PBMC)を用いたサイトカイン産生系による製品及び原料の分析を行っています。その結果、クレームのあった製品及びその原料で高い IL-6 産生が確認されました。

この結果がエンドトキシン活性を抑制するポリミキシン B の添加で影響を受けなかったこと、これらの試料がリムルス試験で合格していることから、サイトカイン産生の原因物質がエンドトキシンではないと考察しています。

さらに彼らは、SLP 試薬を用いて測定を行い PBMC による測定と整合性のある結果を得ています。原料の供給は 2 社から受けており、その内の 1 社の原料から高い IL-6 産生活性及び SLP 活性が検出されました。

この会社の原料から Alicyclobacillus acidocaldarius という好熱好酸グラム陽性菌が検出されており、この菌のペプチドグリカンが汚染源ではないかと、彼らは考察しています

SLP 試薬によるペプチドグリカン測定値が 60µg/L の製品のクレーム発生率は、検出限界以下(7.4µg/L 以下)の製品のものに比べて 10 倍以上と有意な差が認められたこともあり、ペプチドグリカン濃度が 10µg/L のロットは 2002 年 5 月にリコールされています。

原料メーカーでもろ過工程の見直しや活性炭処理などの改善を行い、SLP 試薬による日常検査を導入することにより、品質は改善されたとのことです。

今回の報告では、ペプチドグリカンの汚染が医薬品の副作用を引き起こす場合があること、局方で規定されているエンドトキシン試験やウサギ発熱試験ではこのような汚染を見逃してしまうことが明らかになったと思います。エンドトキシン試験の重要性は揺るぎないものですが、SLP 試薬も医薬品や医療用具の安全性を確保するために有用な場合があると考えられます。

参考文献

  1. Martis, L. et al.: Lancet, 365, 588(2005).

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