核酸染色試薬

核酸染色試薬は、ゲル中の核酸の可視化に使用される試薬であり、電気泳動により分離した核酸の解析に使用されています。核酸染色においてエチジウムブロマイドは広く使用されている染色試薬であり、核酸染色のスタンダード試薬として位置付けられています。一方、エチジウムブロマイドは変異原性が指摘されており、取り扱いには注意が必要です。近年では安全性が高い新たな核酸染色試薬も開発されています。当社はエチジウムブロマイドをはじめ、安全性が高いSAFELOOK™を取り扱っています。

学術コンテンツ

核酸染色試薬の原理

図1 EtBrの構造

核酸染色試薬として使用される化合物は、核酸と結合することで、蛍光強度が増大する性質をもっています。一般的に使用されるエチジウムブロマイド(Ethidium Bromide/EtBr)ではDNAの二本鎖に挿入されることで、蛍光強度が約20倍になります (一本鎖の核酸にも結合します)。これにより核酸を特異的に検出することが可能です。
核酸染色試薬として汎用される化合物としてはエチジウムブロマイドの他、4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール (4',6-diamidino-2-phenylindole/DAPI)やヨウ化プロピジウム (Propidium Iodide/PI)、アクリジンオレンジ(Acridine Orange/AO)などが挙げられます。

変異原性

核酸染色試薬は核酸と結合する性質から、突然変異を誘発する可能性があります。実際にエチジウムブロマイドではAmes試験により変異原性があることが分かっており1)、取り扱いには十分な注意が必要です。
当社ではAmes試験で変異原性が低いことが確かめられているSAFELOOK™およびBiotium社 GelGreen™/GelRed™を取り扱っております。またエチジウムブロマイドの変異原性を除去する試薬(エチブロデストロヤー)はエチジウムブロマイドの構造を変化させることで変異原性を失わせるため、安全に処理することができます。

  1. Huang, Qing, and Wei-Ling Fu. "Comparative analysis of the DNA staining efficiencies of different fluorescent dyes in preparative agarose gel electrophoresis." Clinical Chemistry and Laboratory Medicine (CCLM) 43.8 (2005): 841-842.

染色方法の選択

アガロース電気泳動おける核酸染色には先染め、後染め、サンプル添加の方法があります。それぞれの長所・短所を下記にまとめました。

染色方法 長 所 短 所
先染め
あらかじめアガロースゲルに染色試薬を添加する。
→早く・簡便に結果を知りたい方向け
✔ 電気泳動後の染色時間が不要
✔ 泳動の途中でバンドを観察可能
✔ 染色試薬の結合によりDNA濃度に差があると
  同じ分子量でもレーン間でバンドがずれる
✔ 長時間電気泳動すると染色試薬がゲルから流出する(EtBrの場合)
後染め
電気泳動後のアガロースゲルを染色試薬を添加した
バッファーに浸す。
→正確な結果を知りたい方向け
✔ DNA濃度に差があっても
 泳動パターンが乱れにくい
✔ 長時間の電気泳動が可能
✔ 変性剤を含むゲルでも染色可能
 (バッファー置換が必要)
✔ 泳動後に染色する時間が必要
✔ 泳動の途中でバンドの観察ができない
サンプル添加
泳動するサンプルに染色試薬を添加する。
→早く・簡便に結果を知りたい方向け
✔ 電気泳動後の染色時間が不要
✔ 泳動の途中でバンドを観察可能
✔ 染色試薬を均一に添加する必要がある。

参考文献

大藤道衛 編, 電気泳動なるほどQ&A, 羊土社, 2007
田村隆明 編, ライフサイエンス 試薬活用ハンドブック, 羊土社, 2009