【テクニカルレポート】アルデヒド類捕集および誘導体化用カートリッジのブランク値測定方法について(1)HPLC用試料容器の影響
本記事は、和光純薬時報 Vol.73 No.1(2005年1月号)において、和光純薬工業 試薬研究所 久保田 守が執筆したものです。
ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドなどのアルデヒド類は、悪臭防止法(環境省)、大気汚染防止法(環境省)、シックハウスに係るガイドライン(厚生労働省)として大気および室内空気中の許容濃度、標準的な測定法が定められている。
その手法の一つとして、2,4-ジニトロフェニルヒドラジン(DNPH)含浸シリカゲルが充填されたカートリッジで大気や室内空気をサンプリング後、HPLC法により目的成分を定量する方法が採用されている。
アルデヒドの測定値は、試料を捕集したカートリッジの実測値から成分毎にブランク値を差し引いて求める。このためブランク値はその値が十分低く、かつ安定した値であることが要求される。Presep®-C DNPH、Presep®-C DNPH (Short)はこの目的に適合されるように設計、開発されたカートリッジであるが、抽出からHPLC測定に至る過程で使用する器具類および試薬からの汚染を受ける場合がある。
今回、筆者らはHPLC用試料容器がブランク値の測定結果に与える影響について検討したので報告する。
実験概略
1.使用器具と試薬
HPLC用試料容器:HPLCオートサンプラー用
- ガラス製バイアル (3種類:容量400 µL、1.3 mL、2.0 mL)
- セプタム (3種類:シリコン/テフロン一体型、テフロンシート、アルミシート)
- セプタムサポート (シリコン製O-リング:テフロンシートまたはアルミシートと併用)ポリプロピレン製スクリューキャップ
その他の器具
- ガラス製シリンジ (容量30 mL)
- ガラス製パスツールピペット (容量2 mL)
- ガラス製メスフラスコ (容量5 mL)
試薬
- Presep®-C DNPH
- アセトニトリル (アルデヒド分析用、HPLC用)
2.使用器具の洗浄および保管方法
メタノール洗浄→アセトニトリルに一晩以上含浸→メタノール洗浄→室内乾燥/保管
3.ブランク値の測定方法
実験室内にて、以下の手順でPresep®-C DNPHからの抽出液を各種HPLC用試料容器に分注して測定した。
- シリンジにアルデヒド分析用アセトニトリルを計り取る。
- Presep®-C DNPH 1本に接続後、抽出液を直接メスフラスコに滴下して全量を5 mLとする。
- 2)の抽出液を5本のHPLC用試料容器にパスツールピペットで分注する。(試料容器は1.に記載したバイアルとセプタムを組み合わせた。)
- 5 本のHPLC用試料容器を順次HPLCにより測定する。
HPLC Conditions
Column: Wakosil-Ⅱ5C18RS, 4.6 x 250mm
Eluent: CH3CN/H2O=60/40 (v/v)
Flow rate: 1.0 mL/min at 40℃
Detection: UV 360nm, 0.005AUFS
Injection vol.: 10 µL
(オートサンプラーは、ニードル洗浄液としてHPLC用アセトニトリル100%を使用した。)
結果
1.ブランク値が上昇、変動したときの事例
- 容量1.3 mLのバイアルとシリコン/テフロンセプタムを組み合わせた試料容器について、新品で未洗浄および洗浄済み容器を各5本準備した。抽出液を各容器に1.0 mL分注した後、HPLCで3回測定した結果、ホルムアルデヒドのブランク値は未洗浄品、洗浄品ともに変動し、上昇傾向を示した。試料容器の洗浄有無について有意差は得られなかった (図1、2)。
- 容量400 µLの洗浄済みバイアル、新品/未洗浄のテフロンシートおよびシリコン製O-リングを組み合わせたHPLC用試料容器5本に抽出液を各300 µL分注し、HPLCで各3回測定した結果、ホルムアルデヒドのブランク値は試料容器No.1およびNo.3で初回を除く2、3回目の値が上昇した。測定終了後、試料容器No.1、No.3のO-リングに抽出液が付着していた (図3)。
- 2)と同じ抽出液を容量400 µLの洗浄済みバイアルと新品/未洗浄テフロンシートを組み合わせた容器に200 µL分注後、ブランク値を再測定した (試料容器No.1)。No.1と同様に調製した試料容器No.2およびNo.3について、No.2にテフロンシート1枚、No.3にシリコン製O-リング1枚を浸漬させ、30分静置後にHPLC測定を各2回行った。その結果、ホルムアルデヒドのブランク値について、No.2は試料容器No.1と同程度であったが、No.3はホルムアルデヒドが2回とも高値を示し、O-リングからの汚染が判明した (図4)。
2.ブランク値のバラツキが小さかったときの事例
- 容量2.0 mLの洗浄済みガラス製バイアルに抽出液を1.0mr入れ、新品で洗浄済みシリコン/テフロン一体型セプタムと試料液面の空間を十分とるよう配慮した。測定全般において、ホルムアルデヒドのブランク値のバラツキが比較的小さく良好な結果を得た。しかし、試料容器No.2では、測定1回目にホルムアルデヒドが0.040 µg/Cart.を示し、2、3回目は0.027 µg/Cart.に低下、他の試料容器と同程度となる現象が現れた。もし注入量が変動したならばアセトアルデヒド、アセトンも同様に上昇するが、その傾向は示さず原因不明である (図5)。
- 容量1.3 mLの洗浄済みバイアルと新品アルミシートを組み合わせた容器5本に抽出液を各1.0 mL分注後、HPLCで各3回測定した。各成分いずれもがブランク値のバラツキが小さく良好な結果を得た (図6)。
まとめ
実験結果から、アルデヒドやケトン類のDNPH誘導体を分析する際に使用する試料容器の材質がブランク値の測定結果に影響を与えることが判った。
HPLC用試料容器の場合、シリコン製セプタム、シリコン製O-リングは試料溶液と接触すると正誤差を示す場合がある。HPLC用試料容器を取り扱うときの注意点を以下の3点にまとめた。
- セプタムと試料液面の空間を十分とり、接触をさける。
- 試料は長時間放置せず、すみやかに測定する。
- 試料溶液と接触する他の器具類についても汚染源になりうるかの検証が必要。
今回の事例が、アルデヒド類の測定に用いる器具の選定時の参考になれば幸いである。
次回、試料調製時に用いる器具全般の洗浄法および保管条件がブランク値に与える影響について検討した結果を報告する。