逆転写酵素/キット

逆転写酵素は、種々の生物・ウイルスが有する成分であり、RNA研究において重要な役割を果たしています。逆転写酵素の利用により、RNA発現解析やDNAライブラリーの構築が著しく進歩しました。当社は効率的な逆転写が可能な逆転写酵素、およびcDNA合成キットを取り扱っています。

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逆転写酵素とは?

逆転写酵素(Reverse Transcriptase)はRNAを鋳型として、相補的DNA(complementary DNA/cDNA)を合成する酵素です。

逆転写酵素はRNAウイルスであるレトロウイルスから発見されました。レトロウイルスは宿主細胞に感染すると、ウイルス内にある逆転写酵素を用いて、自身のゲノムRNAをcDNAに変換します。現在では、このレトロウイルスの逆転写酵素を使ってin vitroでもcDNA合成を行うことができるようになり、RT-PCR(Reverse Transcription-PCR)による遺伝子発現解析などに欠かせないツールとなっています(図1)。

図1 逆転写反応
(オリゴ(dT)20 primerを用いてmRNAを鋳型にした場合)

逆転写酵素の種類と選択

RT-PCRなどの実験に使用される逆転写酵素とその特長を下記にまとめました。

AMV Reverse Transcriptase

AMV Reverse Transcriptaseはトリ骨髄芽球症ウイルス (Avian Myeloblastosis Virus)由来の逆転写酵素です。AMVは下記のM-MLV Reverse Transcriptaseよりも高い温度(~65℃)で逆転写反応を行うことができるので、二次構造をとるRNAやGC-richなRNAを鋳型にした場合でも逆転写反応を行うことができます。一方で、AMVはDNA-RNAの二本鎖を分解するRNase Hの活性が高く、cDNAの収量は低くなる傾向にあり、長鎖の合成も難しいとされています。

M-MLV Reverse Transcriptase

M-MLV Reverse Transcriptaseはモロニ―マウス白血病ウイルス(Moloney Murine Leukemia Virus)由来の逆転写酵素です。M-MLVはAMVに比べてRNase H活性が低いため、長鎖のcDNAを比較的高い収量で得ることができます。またRNase H活性を欠損させた逆転写酵素も市販されています。逆にAMVよりも反応温度(~42℃)は低いため、二次構造をとるようなRNAの逆転写は苦手としています。

Tth DNA polymerase

Tth DNA polymeraseは高度好熱菌 Thermus thermophilus由来のDNA polymeraseで、Mn2+ 存在下で逆転写活性を示します。高い反応温度(60~70℃)で逆転写反応が可能なので、AMVと同様、二次構造をとるRNAやGC-richなRNAの逆転写にも適用できます。また逆転写とDNA複製を1つの酵素で行うことができるため、1つのチューブ内で逆転写からDNA増幅までを行う、1-step RT-PCRにも使用されています。

RNase Hは不要なのか?

逆転写酵素にRNase H活性があるとDNA-RNAの二本鎖を切断してしまう為、完全長cDNAを得る場合、RNase H活性を欠損させた逆転写酵素がよく使用されます。

しかしRNase H活性がないことで生じる問題もあります。RT-PCRではcDNA-RNA鎖が残っていると、その後のPCRでcDNAの増幅が阻害される場合があります。この問題を解決するにはRNase H活性を欠損させた逆転写酵素でcDNA合成を行い、反応後にRNase Hで処理することが有効です(図2)。ニッポンジーン GeneAce cDNA Synthesis KitのようにRNase H(-)の逆転写酵素とRNase Hを組み合わせたキットはRT-PCRの増幅効率が悪い場合に有効な解決策となります。

 

図2 RNase H処理によるPCR効率の検証
HeLa細胞 total RNA(2 μg)を鋳型に、GeneAce cDNA Synthesis Kitを用いてcDNAを合成した。
得られたcDNAを鋳型にして、RNase H処理の有無によるPCR効率の比較を行った。
マーカー(M):Gene Ladder Wide 1 (製品コード:313-06961)
RNase H処理あり(+): RNase H処理(37℃, 15分間)したcDNAを鋳型にしたPCR産物
RNase H処理なし(-):得られたcDNA(DNA-RNAヘテロ二本鎖)をそのまま鋳型にしたPCR産物
検出対象:EPAS1遺伝子一部領域(約2.6 kb)

逆転写反応に使用するプライマー

逆転写反応では下記3種類のプライマーが主に使用されます。

オリゴ (dT) プライマー

オリゴ (dT) プライマーは真核生物のmRNAの末端に存在するpoly A配列に相補的に結合するプライマーです。poly Aが付加されているmRNAにおいて普遍的に使用できるプライマーで、完全長cDNAの合成や3'-RACEに使用します。

ランダムプライマー

ランダムプライマーはその名の通り鋳型RNAにランダムに結合するプライマーです。良く用いられる6塩基のランダムプライマーはランダムヘキサマーと呼ばれることもあります。poly A配列をもたないRNAや分解したRNA、二次構造をとりやすいRNAの逆転写反応等に使用できます。

遺伝子特異的プライマー

目的のRNAへ特異的に結合するように設計されたプライマーです。1-step RT-PCRで使用されます。特異性は非常に高いですが、目的のRNA以外を増幅することはできません。

参考文献

Michel R. Green and Joseph Sambrook, "Molecular Cloning", A Laboratory Manual, 4th ed. (2012).