ELISA/アッセイキット (神経科学)
認知症の原因として最も多いとされているアルツハイマー病患者の脳内で蓄積するアミロイドβ(Aβ)やTau、ナルコレプシーの原因といわれているオレキシンなど、神経に関連する疾患の研究に使用するELISAキットを取り扱っています。
また、精神疾患マーカー候補である「脳由来神経栄養因子 (Brain-Derived Neurotrophic Factor / BDNF) 」を測定するELISAキットも販売しています。
学術コンテンツ
神経疾患と精神疾患の違いは死後脳において病理学的な診断がつくものを神経疾患、そうでないものを精神疾患と呼んでいます。生活の質 (Quality of Life/QOL) に大きな影響を与え、罹患率が高いにも関わらず、有効な診断、治療法が確立していない疾患も多いのが現状で、病態メカニズム解明の基礎研究から、診断・治療への応用研究まで研究が盛んに行われています。
神経・精神疾患と分子メカニズム
アルツハイマー病
認知症は記憶障害、失語、失行、実行機能障害など認知機能の低下をもたらす疾患です。認知症にはアルツハイマー病、レビー小体型認知症、血管性認知症等、いくつか種類がありますが、アルツハイマー病が最も多いとされています。アルツハイマー病は死後脳の老人斑 (アミロイドβが凝集・蓄積した不溶性の沈着物) と、神経原線維変化を病理学的特徴とする疾患で、1906年にAlois Alzheimerによって報告されました。
アルツハイマー病発症の分子メカニズムは未だ解明されていませんが、発症の数十年前からアミロイドβ(Aβ)が脳内に徐々に蓄積し、続いて異常りん酸化したTauタンパク質などが神経原線維変化を引き起こし、最終的に神経細胞障害を引き起こすことで発症するという説が有力とされています。
Aβはアルツハイマー病の原因因子として長い間研究されてきました。ヒトのAβには主にAβ40とAβ42が存在しますが、Aβ40は凝集性が低いとされており、Aβ42の方が凝集性が高く、毒性も高いと考えられています。またこれまでの研究で、AβはAβ同士が凝集して2量体以上のAβオリゴマーと呼ばれる凝集体になることでより毒性を発揮するという仮説が報告されています。Aβオリゴマーには2量体、3量体、12量体等、さまざまな分子種が存在しており、どの大きさのAβオリゴマーが重要か議論されています。当社では9量体以上のAβオリゴマーを選択的に測定可能なAβオリゴマーELISAキットを取り扱っております。
Tauタンパク質は、微小管結合タンパク質として微小管の安定性を制御しています。アルツハイマー病患者の脳では、りん酸化Tauが蓄積した神経原線維変化が形成され、認知症の重症度と相関すると報告されています。また脳脊髄液中のTotal Tauとりん酸化Tauの濃度はアルツハイマー病患者で非認知症患者よりも上昇すると報告されています。アルツハイマー病診断のバイオマーカーは未だ確立されていませんが、りん酸化Tauタンパク質の中では181番目のスレオニンがりん酸化されたT181などが多く用いられています。当社ではTotal Tauタンパク質およびりん酸化Tauタンパク質(T181)を測定可能なELISAキットを販売しております。
パーキンソン病
パーキンソン病は静止時振戦、固縮、無動、姿勢反射障害の症状を示す疾患で、自律神経障害や認知機能障害も現れます。レビー小体と呼ばれる構造体の出現と、それに伴う黒質、青斑核の神経細胞脱落が特徴です。レビー小体はリン酸化されたα-シヌクレインタンパク質を含んでおり、α-シヌクレインの蓄積が発症に関与しているとされています。
パーキンソン病は基本的に孤発性ですが、家族性パーキンソン病も報告されており、同家系のゲノム解析によりα-シヌクレイン、parkin、PINK1など20種類以上の原因遺伝子が同定されています。このparkinとPINK1は神経細胞内の損傷ミトコンドリアを分解・除去するマイトファジーを促進するタンパク質であり、これらの遺伝子に異常が生じると障害ミトコンドリアが除去されず、パーキンソン病が発症する可能性が示唆されています。
同仁化学研究所のマイトファジー検出キットでは、蛍光色素の添加によりマイトファジーを簡便に検出することが可能です。
うつ病
うつ病は大うつ病性障害とも呼ばれ、いわゆる憂うつな状態が長期に渡って続くという気分障害の一種です。躁状態とうつ状態と繰り返す双極性障害(躁うつ病)も気分障害ですが、大うつ病とは区別されています。
うつ病の主な症状は抑うつ気分 (憂うつ、気分が重い) や何をしても楽しくない、何にも興味がわかない (喜び・興味の消失) のいずれかであり、同時に疲れやすい (易疲労感) や眠れない・常に眠い (睡眠障害)、自分を責める (罪責感) などの症状も現れます。人口の一割程度が一生に一度発症する病気でありながら、長期休職や自殺に追い込まれるケースもあり、早期診断や治療法の確立に向けて様々な研究がなされています。
うつ病の発症メカニズムには様々な説が提唱されており、脳内のモノアミン (セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミン) 濃度の低下を原因とするモノアミン仮説や、ストレス反応経路である視床下部-下垂体-副腎皮質系 (Hypothalamo-Putuitary-Adrenal axis/HPA系) の機能異常を原因とするHPA系障害説などがあります。
またこれまでの研究で、脳由来神経栄養因子 (Brain-Derived Neurotrophic Factor/BDNF) がうつ病患者では血清中のBDNFが健常者に比べて優位に低値であること、またうつ病の重症度と血清BDNF濃度に相関があること、抗うつ薬により血清BDNF濃度が増加することが報告されており、BDNFはうつ病の疾患マーカーとしても期待されています。BDNFには前駆体BDNF (ProBDNF) と成熟体BDNF (Mature BDNF/mBDNF) が存在し、それぞれ異なる生理機能を有することが明らかになってきました。うつ病のメカニズム解明においてもそれぞれの分子がどのように関係しているのかを調べる必要があります。当社ではMature BDNFを特異的に測定できるMature BDNF ELISAキットを開発しました。
覚醒・睡眠障害
私たちは覚醒と睡眠という2つの状態を繰り返しながら活動しています。このバランスは脳によって調整されており、この調整に異常が生じると覚醒と睡眠が上手く切り替えることができなくなります。
上記による代表的な疾患がナルコレプシーです。ナルコレプシーは過眠症とも呼ばれており、日中の強い眠気を催し、眠ってしまう疾患です。本来であれば緊張状態である状況においても眠ってしまう場合があり、日常生活にも支障をきたします。
ナルコレプシーの原因の1つとして、オレキシンニューロンの神経活動の異常があります。またナルコレプシー患者にて脳脊髄液中のオレキシンAの顕著な低下が見られたことから、オレキシンは覚醒の維持に必要であると考えられています。これまでオレキシンAの測定は主に放射性同位体(RI)を必要とする手法が用いられていましたが、当社ではRIを使用せずにオレキシンAを簡便に測定できるオレキシンA ELISAキットを販売しております。
参考文献
- 真鍋俊也, 森寿, 渡辺雅彦, 岡野栄之, 宮川剛 編:「改訂第3版脳神経科学イラストレイテッド」(羊土社) (2013).
- 森啓 編:「認知症 発症前治療のために解明すべき分子病態は何か?」(羊土社) (2015).
- Jeon, Sang Won, and Yong-Ku Kim.:International journal of molecular sciences, 17(3), 381(2016).