mRNA合成用試薬

mRNA医薬・mRNAワクチンとは、目的とするタンパク質を生体内でつくらせ、疾患の治療や予防に用いられるmRNAのことです。mRNA医薬・mRNAワクチンは感染症に対するワクチン分野での応用が最も進められていますが、遺伝子疾患やがんなど、様々な疾患に対する治療法としても期待されています。

当社ではmRNA合成研究用試薬として、mRNA合成用原料であるシュードウリジンおよび1-メチルシュードウリジンをはじめ、TriLink社の各種修飾ヌクレオシド三りん酸や対象mRNAへキャップ構造を付加するClean Cap® Reagentを提供しています。

  • mRNA合成研究用試薬カタログ申し込みはこちら

学術コンテンツ

mRNA医薬・mRNAワクチンの課題とRNA修飾

mRNA医薬・mRNAワクチンとは、生体内で目的とするタンパク質や抗原を発現させ、疾患の治療や予防に用いられるmRNAのことをいいます。発現したタンパク質が疾患の治療・予防効果を示すという点においては、DNAを用いた遺伝子治療やDNAワクチンと同じです。異なる点としては、mRNAは細胞核への輸送が不要であることからゲノムへの挿入変異リスクが少ない点、また、翻訳のみが行われることからmRNAの投与からタンパク質発現までの時間が短いといった点があり、これらはmRNA医薬・mRNAワクチンの大きな利点といえます。一方mRNA医薬・mRNAワクチンの課題として、mRNAが不安定で分解を受けやすいこと、そして、mRNA自体が免疫原性を持つことが挙げられます。そのために、mRNA医薬の実用化には高いハードルがあるとされてきました。

生体内に投与されたmRNAは、細菌やウイルス由来の外来由来の核酸分子を認識するToll様受容体 (TLR)を刺激し、それによって炎症反応を惹起します。mRNAの免疫原性を低減させるための手段のひとつに修飾ヌクレオシドの利用があります。真核生物においては、RNAの一部のリボースや塩基が修飾を受けていることはすでに知られており、これまでに100種類以上ものRNA修飾が報告されています。RNA修飾の役割については、RNAの立体構造の安定化や細胞内局在などに寄与しているとされていますが、未解明な部分もあります。

こうしたなか、2005年にKarikóらのグループはmRNAを構成する塩基を5-メチルシチジンやN6-メチルアデノシン、シュードウリジンなどの修飾ヌクレオシドに置換することで、TLRを介した免疫反応が低減することを見出しました 2)。さらに2008年には、シュードウリジンに置換したmRNAにおいて、タンパク質への翻訳効率が大幅に向上することを報告しました 3)。その後も様々な修飾ヌクレオシドの探索が行われており、COVID-19に対する一部のmRNAワクチンでは、シュードウリジンに置換したmRNAよりもさらに翻訳効率が向上した1-メチルシュードウリジンが使用されています 4)

当社では化学合成したシュードウリジンおよび1-メチルシュードウリジンを取り扱っております。

mRNAの合成法

mRNA医薬・mRNAワクチンのような長鎖RNAを合成するためには、酵素反応を利用したin vitro転写合成という手法が一般的に用いられます。直鎖の二本鎖DNAを鋳型として、mRNAの構成要素であるヌクレオシド三りん酸とRNAポリメラーゼという酵素を用いてmRNAに転写していきます。RNAポリメラーゼはDNA上のプロモーター領域と呼ばれる部分に結合し、5’側から3’側へ向かいながら、DNAの片側の鎖を鋳型として相補的なヌクレオシド三りん酸を次々につなげていき、mRNAを合成します(図1)。

mRNA転写合成反応
図1. 転写反応

in vitro転写反応で合成したmRNAにはキャップ構造がないため、合成過程でキャップ構造を付加する必要があります。キャップ構造を付加する方法としては、転写後にキャッピング酵素を用いて付加する方法と、転写反応段階でARCA (anti-reverse cap analog)などのキャッピングアナログを加える方法があります。ARCAを用いる方法では転写とキャッピングの両方を一段階で行うことが可能であり、簡便にキャップ構造を付加することができますが、キャッピング効率が低いことが課題として挙げられています。こうした課題に対して、キャッピング効率が向上した新たなキャッピングアナログが開発されています。当社で取り扱っているTriLink社のClean Cap® Reagentは、対象のmRNAにキャッピング(Cap 1構造)を付加する試薬で、高いキャッピング効率でより高活性のmRNAを合成することが可能です。

参考文献

  1. 横田隆徳 編: 「実験医学 核酸医薬 本領を発揮する創薬モダリティ」,(羊土社)(2021)
  2. Karikó. K et al. : Immunity , 23, 165(2005).
  3. Karikó. K et al. : Mol Ther ., 16(11): 1833(2008).
  4. Corbett, KS. et al. : Nature, 586(7830), 567(2020).