蛍光プローブ (細胞内小器官)

蛍光色素には細胞内の特定の場所に集積しやすいものがあります。例えば脂溶性蛍光色素のローダミンは細胞膜を透過し、ミトコンドリアに集積することが知られています。これはローダミン系蛍光色素がカチオン性の骨格をもつため、負の膜電位をもつミトコンドリアに静電気的に集まるためと考えられています。このように蛍光色素の特性を生かした細胞小器官の特異的な検出が可能です。当社では各細胞小器官に対する蛍光プローブや、膜電位の変化を可視化できる蛍光プローブを取り扱っております。

学術コンテンツ

細胞小器官を標識する蛍光プローブ

細胞小器官(オルガネラ)の物理・化学的な特性を利用することで、特定の細胞小器官を選択的に染色することが可能です。
各細胞小器官の標識に用いられる蛍光プローブとその特性を以下にまとめました。

核は遺伝子の本体であるDNAが存在する細胞小器官であり、DNAへ特異的に結合する蛍光色素を用いることで核を染色することが可能です。

代表的な染色試薬としてDAPIやHoechst 33258、 Hoechst 33342などが挙げられます。これらの蛍光色素は、二本鎖DNAの副溝に結合すると蛍光強度が増大する特性を持っており、二本鎖DNA特異的に染色することができます。また上記の試薬は生細胞、死細胞いずれの核染色にも使用できますが、生細胞には細胞透過性に優れたHoechst 33342、死細胞には蛍光強度が大きいDAPIが良く使用されます。

核小体は核内に存在する膜を持たない構造体であり、リボソーム生合成を担っています。核小体にはリボソームを構成するリボソームRNAが多く存在するため、RNAに結合する蛍光色素を使用すると強い蛍光を示します。

ミトコンドリア

ミトコンドリアはエネルギーを産生する細胞小器官です。酸化還元反応により生じたプロトン勾配によって膜電位が形成されており、染色には膜電位依存的にミトコンドリアを染色できる蛍光色素が利用されています。

ミトコンドリア染色試薬ではローダミン123やテトラメチルローダミンメチルエステル(Tetramethylrhodamine Methyl Ester / TMRE)、JC-1などが使用されています。ローダミンはカチオン性の骨格をもつため、負の膜電位をもつミトコンドリアに静電気的に集まるとされています。またJC-1は正常なミトコンドリアでは赤色蛍光を発しますが、ミトコンドリアの膜電位が低下すると色素の凝集性が弱まり、蛍光波長が緑色に変化します。これを利用して、ミトコンドリアの膜電位を測定することが可能です。

小胞体・ゴルジ体

小胞体は細胞質に網目状に存在する膜系で、膜タンパク質や分泌タンパク質産生の場となっています。また産生されたタンパク質のフォールディングなども小胞体で行われます。このようにして産生されたタンパク質はゴルジ体での糖鎖修飾などを経て、細胞外をはじめとした様々な場所へ送り出されます。

小胞体やゴルジ体の染色試薬には、蛍光標識された脂質が用いられています。当社ではシリル化ピレン標識コレステロールを小胞体に特異的な蛍光色素として販売しています。またセラミドは選択的にゴルジ体へ集積することが知られており、セラミドやスフィンゴミエリンを蛍光標識した分子が蛍光プローブとして使用されます。

参考文献

三輪佳宏 編:「実験がうまくいく蛍光・発光試薬の選び方と使い方」 (羊土社) (2007)