ELISA/アッセイキット (肝機能)
肝臓は栄養の貯蔵、有害物質の解毒、消化液の合成など代謝において重要な役割を果たしています。肝臓病はウイルスや生活習慣病 (肥満、糖尿病) などが原因で引き起こされますが、症状が現れにくく発見が遅れることがあります。肝臓の機能低下はALTやAST、ALP、アンモニア窒素などの血液中のバイオマーカーが指標となります。
製品ラインアップ
学術コンテンツ
Ⅰ.肝臓の代謝機能全貌 (糖質、脂質、タンパク質)
肝臓は人体最大の代謝臓器であり、糖質、脂質、タンパク質の代謝において中心的な役割を果たしています。これらの代謝機能は、エネルギーの恒常性維持や解毒、栄養素の貯蔵・供給に不可欠であり、健康維持に欠かせません。これらの代謝過程に関与する酵素の活性や血中濃度は、肝機能の指標として臨床的に広く利用されています。特にALT (アラニンアミノトランスフェラーゼ)、AST (アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)、およびGLDH (グルタミン酸デヒドロゲナーゼ) は、肝細胞の代謝状態や損傷の評価において重要な役割を果たします。
ALTは主に肝細胞の細胞質に存在する酵素で、アラニンとα-ケトグルタル酸の間でアミノ基転移反応を触媒します。この反応はアミノ酸代謝とエネルギー産生に密接に関与しており、肝臓の糖新生やタンパク質代謝の重要な一環です。肝細胞が損傷を受けるとALTが血中に漏出し、その濃度上昇は肝障害の敏感なマーカーとなります。ASTは細胞質およびミトコンドリアに存在し、アスパラギン酸とα-ケトグルタル酸の間のアミノ基転移を触媒します。ALTと同様にアミノ酸代謝に関与しますが、肝臓以外にも心筋や骨格筋など多くの組織に存在するため、血中ASTの上昇は肝障害以外の疾患でも見られます。ASTのミトコンドリア型は特に重篤な肝細胞障害を示唆します。
GLDHは、グルタミン酸とα-ケトグルタル酸の相互変換を触媒する酵素です。GLDHは正常では血清中にわずかにしか存在しませんが、細胞が障害を受けると細胞外に漏出する逸脱酵素です。特に肝細胞中に多く認められることから、毒性試験などにおいて、肝障害のマーカーとして利用されています。
非臨床の毒性試験においては、肝障害マーカーとして血中のアラニンアミノトランスフェラーゼ (ALT/GPT) が古くから測定されています。しかし、血中ALTは軽微な肝障害では変化が見られないことや、肝障害以外の要因でALTが上昇することがあるとの報告があるため、肝臓に多く存在し、特異性が高い肝障害マーカーであるGLDHをALTなどと併用して測定することで肝障害の検出感度を向上させることが注目されています。特に2025年11月にはFDAより、薬物誘発性肝障害 (DILI) が疑われる場合において筋損傷または変性によって血清トランスアミナーゼ (ALT、ASTなど) が上昇する被験者を対象とした臨床試験にて、肝障害バイオマーカーとしての有用性を認める声明が発表されました1)。
解糖系と糖新生
解糖系は肝細胞内でグルコースを分解し、エネルギー産生に寄与します。インスリンやグルカゴンなどホルモンにより厳密に調節されています。酸素の有無に関わらず進行し、細胞のエネルギー供給の基本的な経路です。肝臓において乳酸、アミノ酸、グリセロールなど非糖質前駆体からグルコースを合成し、血糖値を維持しています。糖新生は絶食時や運動時に重要な役割を果たします。糖新生はホルモンによる調節としてグルカゴンやコルチゾールによって促進され、反対にインスリンによって抑制されます。また代謝物によっても調節を受け、アセチルCoAやATPの増加は糖新生を促進させ、反対にAMPの増加によって糖新生は抑制されます。両者は相補的に働き、体内のエネルギー恒常性を保っています。
脂肪酸の合成と分解
脂肪酸合成は主に肝臓や脂肪組織の細胞質で行われ、過剰な糖質を脂肪酸に変換し、トリグリセライドとして貯蔵または輸送されます。インスリンによって脂肪酸合成が促進されます。脂肪酸はβ酸化により分解され、主にミトコンドリアで行われます。脂肪酸をアセチルCoAに分解し、エネルギー源として利用されます。脂肪酸分解はグルカゴンやアドレナリンによって促進されます。
リポタンパク質の合成と調節
リポタンパク質は脂質 (トリグリセライド、コレステロール、りん脂質) を血液中で運搬する複合体で、これらの合成と分泌の中心的な臓器が肝臓です。主なリポタンパク質として、以下の3つがあります。
- 超低密度リポタンパク質 (VLDL)
- :肝臓で合成され、トリグリセライドを主に運搬。
- 低密度リポタンパク質 (LDL)
- :VLDLの代謝産物で、コレステロールを組織に供給。
- 高密度リポタンパク質 (HDL)
- :余剰コレステロールを肝臓に回収。
肝細胞にてアポB100が合成され、リポタンパク質の骨格となり、脂質との結合を経てリポタンパク質粒子の形成が開始され、VLDL粒子へと形成され細胞外へ分泌されます。分泌後にリポタンパク質リパーゼ (LPL) によってトリグリセライドが分解されてLDLへと変換されます。また脂肪酸合成はインスリンによる促進やグルカゴンによる抑制を受け、他にも甲状腺ホルモンやコルチゾールによっても調節を受けます。
Ⅱ.肝臓の解毒作用と代謝調節、MASH/MASLDの知見
肝臓の解毒作用と代謝調節
肝臓は多様な解毒作用と代謝調節機能を担う重要な臓器です。特に胆汁の生成・分泌を介した解毒機能や、窒素代謝を通じた有害物質の除去は生命維持に不可欠です。肝臓の解毒作用に関連する酵素であるALP (アルカリフォスファターゼ) は肝臓、骨、腎臓、腸管などに存在する酵素群の総称で、肝臓由来のALPは主に胆管上皮細胞に局在しています。ALPはリン酸エステル結合を加水分解することで、胆汁の流れを促進し、胆汁うっ滞の解消に寄与します。肝疾患や胆道閉塞によりALP活性が上昇することが多く、臨床検査で胆汁うっ滞や肝胆道系障害の指標として用いられています。窒素代謝の中心的物質であるアンモニアはタンパク質代謝の過程で生じる有害な窒素化合物であり、高濃度では神経毒性を示します。肝臓は尿素回路を介してアンモニアを無毒な尿素に変換し、血中アンモニア濃度を低く保つことで中枢神経系の保護を行っています。
MASH/MASLDの知見
代謝機能障害関連脂肪肝疾患 (MASLD;Metabolic Dysfunction-Associated Steatotic Liver Disease) および代謝機能障害関連脂肪性肝炎 (MASH;Metabolic Dysfunction Associated Steatohepatitis) は、従来のNAFLD (Non-Alcoholic Fatty Liver Disease) とNASH (Non-Alcoholic steatohepatitis) に代わる名称で、2024年9月に日本語病名と分類法が変更されました。MASLDは肝内トリグリセライドの過剰蓄積 (肝重量の5%超) によって定義され、2型糖尿病と密接に関連し、インスリン抵抗性に関与しています。インスリンによる脂肪組織の分解を抑制する能力が損なわれることで、遊離脂肪酸 (NEFA) の肝臓への供給が増加します2)。MASLDはさらにMASHへ進行する可能性があり、MASHは組織学的に、脂肪変性、小葉性炎症、肝細胞のバルーニングを特徴とし、線維化の有無を伴います3)。これは遊離コレステロールやNEFAが肝臓に蓄積することで酸化ストレスやミトコンドリア機能障害を引き起こし、その後の炎症性サイトカインの発現によって幹細胞が損傷を受けるためと考えられています4)。MASHの治療薬としては、迅速承認経路によって承認されたRezdiffra (一般名:レスメチロム) が知られています。レスメチロムは心臓や骨に対する副作用を避けるために甲状腺ホルモン受容体β (THR-β) 特異的なアゴニストで、脂質代謝を促進させ、肝臓での脂肪酸分解を促進させる効果があります5)。他には当初糖尿病性高血糖症の治療薬として開発されたグルカゴン様ペプチド1受容体作動薬 (GLP-1RAs) やペルオキシソーム増殖因子活性化受容体 (PPARγ) アゴニストも肝臓中のトリグリセライドを減少させることが知られています。PPARγ活性化にはさらにインスリン感受性の改善6)や、抗炎症経路の促進に関与していることが分かっています7)。
Ⅲ.肝臓におけるマイクロバイオームとオートファジーの役割
肝臓は多様な代謝機能を担う重要な臓器であり、その機能は腸内環境や細胞内のクリアランス機構と密接に関連しています。近年、腸内マイクロバイオーム (腸内細菌叢) と肝臓の相互作用を示す「腸肝軸」の重要性が注目されており、また細胞内のオートファジー (自己貪食) 機構が肝臓の代謝調節や恒常性維持に不可欠であることが明らかになっています。肝胆道系は門脈を介して消化管と直接連通しており、消化管由来の異物 (栄養素、腸内細菌関連物質、サイトカインなど) に継続的に曝露されています。有害因子の体内侵入を防ぐため、肝臓はバリア機能を発揮し、免疫応答と免疫寛容のバランスを維持しています。腸内細菌は短鎖脂肪酸 (SCFA)、二次胆汁酸、リポ多糖 (LPS) など多様な代謝物を産生し、肝臓の脂質代謝、糖代謝、炎症反応を調節します。腸内細菌叢の乱れ (ディスバイオーシス) はMAFLD (Metabolic Dysfunction-Associated Fatty Liver Disease) や肝炎の発症・進展に関与します。
オートファジーは肝臓における細胞および代謝恒常性の維持に重要な役割を果たします。肝臓におけるアミノ酸、グルコース、脂質などの栄養素の変動は概日リズムによる調節を受け、基礎的な肝オートファジーは体内の栄養状態の変動と連動して周期的な挙動を示します。オートファジーがリポファジーを介して肝細胞において抗脂肪化作用を発揮することが示唆されており、リポファジーは脂質滴 (LD) の分解を制御します。LD の分解に特化したオートファジーの一形態であるリポファジーは、MASLDにも寄与する新たな経路として同定されています8)。
Ⅳ.新規肝臓代謝調節因子と治療戦略
肝臓は糖質、脂質、タンパク質の代謝を統括する中心的な臓器であり、その代謝調節機構の解明は代謝疾患の治療において極めて重要です。近年、従来のホルモンや酵素に加え、新たな肝臓代謝調節因子が次々と発見され、それらを標的とした革新的な治療戦略が注目されています。
オートタキシン (ATX)
肝臓の代謝調節に関わる新規因子として注目されているATXは、脂質代謝や肝線維化の進展に深く関与する酵素です。ATXはリゾホスファチジン酸 (LPA) を産生するリパーゼ活性を持ち、細胞増殖、移動、炎症反応を調節するシグナル分子として機能します。ATXは血漿中に存在し、主に肝臓や脂肪組織で産生されます。ATXが生成するLPAはGタンパク質共役受容体を介して多様な細胞応答を誘導し、肝細胞の増殖や線維芽細胞の活性化を促進します。これにより、肝臓の組織修復や再生に寄与する一方で、過剰なATX活性は肝線維化や炎症の悪化を招くことが知られています。慢性肝疾患、特に代謝異常関連脂肪肝炎 (MASH) や肝硬変において、ATXの発現および血中濃度が上昇することが報告されています。ATX-LPAシグナルは肝線維化の進行に寄与し、炎症性サイトカインの産生を促進することで病態の悪化を加速させます。これらの知見は、ATXが肝疾患のバイオマーカーおよび治療標的として有望であることを示しています。
線維芽細胞増殖因子21 (FGF21)
肝臓をはじめ複数の組織で産生されるストレス誘導性ホルモンです。脂肪酸酸化およびコレステロール除去に関する肝臓シグナル伝達を活性化させ、肝臓内の脂質蓄積を抑制する効果が肝臓において特異的に過剰発現させたマウスを用いた研究によって報告されています9)。
アンジオポエチン様タンパク質 (ANGPTL;angiopoietin-like protein)
血管新生や幹細胞維持に関わるアンジオポエチンと類似の構造的特徴を有する分泌タンパク質です。特にANGPTL3、4、8は脂質代謝の重要調節因子として知られ、MASHの進行評価改善の効果10)や遊離脂肪酸の貯蔵調節に関与していることが報告されています11)。
SIRTファミリー (サーチュイン)
NAD+依存性脱アセチル化酵素で、哺乳類ではSIRT1 ~7の7種類のタンパク質が存在し、エネルギー代謝やミトコンドリア機能を調節しています。SIRT1 ~ 5はミトコンドリア機能制御を通じてMAFLDの発症や進行に関与していることが分かっています12)。
肝臓特異的転写因子 (CREBH)
サイクリックAMP応答性要素結合タンパク質Hは、肝臓及び小腸に発現する膜結合型転写因子です。CREBHはFGF21プロモーターに直接結合し、FGF21を発現上昇させる機能が知られています13,14)。PPARαもまた絶食応答においてFGF21を発現上昇させる機能があり、両因子が相乗的にFGF21の発現を活性化します。
参考文献
- DRUG DEVELOPMENT TOOL QUALIFICATION DETERMINATION [DDT-BMQ-000050] (2026年4月閲覧)
- Bugianesi, E. et al. : Hepatology., 39 (1), 179 (2004).
Relative Contribution of Iron Burden, HFE Mutations, and Insulin Resistance to Fibrosis in Nonalcoholic Fatty Liver - Tacke, F. et al. : J. Hepatol., 79 (2), 552 (2023).
An integrated view of anti-inflammatory and antifibrotic targets for the treatment of NASH - Zhu, B. et al. : Front Cardiovasc. Med., 7 (8), 742382 (2021).
Non-alcoholic Steatohepatitis Pathogenesis, Diagnosis, and Treatment - Keam, S. J. : Drugs., 84 (6), 729 (2024).
Resmetirom: First Approval - Bell, L. N. et al. : Hepatology., 56 (4), 1311 (2012).
Relationship between Adipose Tissue Insulin Resistance and Liver Histology in NASH: A PIVENS Follow-Up Study - Koppaka, S. et al. : Diabetes., 62 (6), 1843 (2013).
Reduced Adipose Tissue Macrophage Content Is Associated With Improved Insulin Sensitivity in Thiazolidinedione-Treated Diabetic Humans - Grefhorst, A. et al. : Front Endocrinol (Lausanne)., 1 (11), 601627 (2021).
The Role of Lipophagy in the Development and Treatment of Non-Alcoholic Fatty Liver Disease - Liu, C. et al. : Elife., 12, e83075 (2023).
FGF21 protects against hepatic lipotoxicity and macrophage activation to attenuate fibrogenesis in nonalcoholic steatohepatitis - Hess, A. L. et al. : Genes Nutr., 13 (7), 7 (2018).
Analysis of circulating angiopoietin-like protein 3 and genetic variants in lipid metabolism and liver health: the DiOGenes study - Altun, O. et al. : Cytokine., 111, 496 (2018).
Serum Angiopoietin-like peptide 4 levels in patients with hepatic steatosis - Zeng, C. & Chen, M. : Biomolecules., 12 (8), 1079 (2022).
Progress in Nonalcoholic Fatty Liver Disease: SIRT Family Regulates Mitochondrial Biogenesis - Nakagawa, Y. et al. : Endocrinology., 155 (12), 4706 (2014).
Hepatic CREB3L3 Controls Whole-Body Energy Homeostasis and Improves Obesity and Diabetes - Kim, H. et al. : Endocrinology., 155 (3), 769 (2014).
Liver-enriched transcription factor CREBH interacts with peroxisome proliferator-activated receptor α to regulate metabolic hormone FGF21

