全固体電池

現在、スマートフォンやパソコンなどの二次電池には、軽量でエネルギー密度が大きいという特長をもつリチウムイオン電池が利用されています。しかしながら、リチウムイオン電池には、電解質に有機溶媒が用いられているため、可燃性や液漏れの問題点が指摘されています。またリチウムイオン電池には、電池を使用できる温度範囲の問題があり、例えば、マイナス30℃の極低温時での液体電解質の凍結や100℃の高温時の蒸発などのリスクが懸念されています。二次電池のより高い安全性、大容量化、および高エネルギー密度化が求められている中で、最近全固体電池が注目を集めています。

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全固体電池は、可燃性の有機電解液を不燃性の無機固体電解質に置き換えた電池で、薄膜型とバルク型の2つに大別することができます。薄膜型全固体電池では、気相法を用いて薄膜を積層することによって、良好な電極-電解質間の固体界面接合を実現しています。薄膜電池はすでに実用化されており、40,000サイクルの充放電を行ってもほとんど容量劣化が生じないことから、本質的に全固体電池がサイクル寿命に優れていることが実証されています。一方、微粒子を積層することによって作製されたバルク型全固体電池は、電極層に電極活物質を多量に導入することによって電池容量を大きくできる特長があります。バルク型電池では、電極層内にもイオンの伝導経路としての固体電解質を用いることから、粒子間の接触抵抗(粒界抵抗)も含めた導電率が高く、電極活物質とのあいだで界面形成が容易な固体電解質の開発が望まれます。
先ほども述べたように、全固体電池のキーテクノロジーは、固体のなかでイオンが素早く動く、導電率が高い固体電解質を開発することにあります。1960年代から銀や銅を用いた固体電解質の開発からスタートし、1970年代から1990年代にかけてリチウムを用いた固体電解質が開発されてきましたが、導電率は室温で10-3 S/cm程度とこれまでのリチウムイオン電池で用いられてきた液体の電解質よりも1桁以上低い値をもつものが最高でした。しかし、2011年に菅野ら研究グループによって世界で初めて、液体電解質並みの導電率を有する超イオン伝導体Li10GeP2S12 (LGPS)が開発されました。LGPSが高いイオン伝導度を示す理由はまだ完全に明らかになっていませんが、LGPSがリチウムイオンを三次元的に伝導させることができる特異な結晶構造をもつことが大きく寄与していると考えられています。これを契機に固体電解質の開発は飛躍的に進展し、2016年同グループからLGPSの伝導度を約2倍上回る超イオン伝導体Li9.54Si1.74P1.44S11.7Cl0.3が開発されています。

参考文献

辰巳砂昌弘、林晃敏:化学, 67(7), 19 (2012).