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【連載】Talking of LAL「第48話 エンドトキシン試験法再考」

本記事は、和光純薬時報 Vol.70 No.3(2002年7月号)において、和光純薬工業 土谷 正和が執筆したものです。

第48話 エンドトキシン試験法再考

今回のテーマは、国際調和案の合意をふまえ、日局エンドトキシン(ET)試験法の今後を考えることです。

14 局では、国際調和案による変更を取り入れているので、13 局と違いが出てきています。第十四改正日本薬局方解説書 1)には、主な改正点として以下の 7 点が挙げられています。

(1)「LAL 試薬」が「ライセート試薬」に変更されたこと。

これは、ライセート試薬の原料として、アメリカ産 Limulus polyphemus とアジア産 Tachypleus tridentatus の 2 種が指定されたためです。

(2)試験結果をめぐる表現で「係争が生じた場合」という文言が追加されたこと。

最終的な判定方法として、ゲル化法が取り上げられていることに変更はありません。

(3)耐熱性用具の乾熱処理条件が「通例、250℃ で少なくとも 1 時間」から「通例、少なくとも 250℃ で 30 分間」に変更されたこと。

ET 不活性化条件を統一するということと理解できます。

(4)ゲル化法の限度試験における試料溶液の希釈倍数が「最大有効希釈倍数を超えない範囲」任意に設定できるようになったこと。

13 局では希釈倍数は最大有効希釈倍数に固定されていました。少ない希釈で検査したい場合や希釈操作の簡単な倍数が好ましい場合があるので、実情に即した変更と思われます。

(5)光学的測定法の反応干渉因子試験及び定量試験における試料溶液への ET 添加濃度を、「検量線の中点または中点付近の濃度」と変更されたこと。

13 局では、検量線の中点濃度となるように ET を添加していました。希釈系列の作り方によっては、中点濃度にすることが困難な場合があったので、これも実情に即していると言えるでしょう。

(6)光学的測定法の反応干渉因子試験及び定量試験における最大有効希釈倍数を、検量線の最小 ET 濃度を定量限界として計算するように変更されたこと。

13 局では、検量線の中点濃度をライセート試薬の実質的な定量限界と見なしていました。以前からの FDA の考え方が受け入れられた形です。この方が、定量範囲が広く使え、定量法の利点が有効に使えます。

(7)光学的測定法の反応干渉因子試験における添加 ET の回収率の許容範囲が、測定法に関わらず 50% ~ 200% と規定されたこと。

13 局では、検量線が実数目盛りのときは 75% ~ 125% 、対数目盛のときは 50% ~ 200% となっていました。すべての方法をゲル化法の許容範囲に合わせたとの見方ができます。

その他の変更点で筆者が興味深いと思うのは、これまでの内径 10mm の試験管に試薬と試料を 0.1mL ずつ添加するという規定がなくなり、試験方法に自由度が出てきたことです。例えば、試験管の径を小さくすることで、同じ感度のライセート試薬でもゲル化感度が高くなると思いますし、試薬の使用量を減らすことで 1 回あたりの試験費を軽減することができるようになります。

これらの方法は、ラベル感度や操作法と関連しますからメーカーの取り組みが必須ですが、商品形態の可能性が広がったという点で興味が持たれます。

これらの変更点も考慮し、これからの ET 試験を考えてみましょう。

まず、結果について問題が起こった場合はゲル化法で最終の判定を行うという規定は、ゲル化法が他の方法に対して優位であるという印象を与えます(日局の見解は、3 法は同等とのことですが)。これ以外にも、ゲル化法には、限度試験を行ったとき最も使用試薬の量が少なく経済的であるという利点があります。

すると、今後はゲル化法が主流になっていくのでしょうか。確かに、十分な経験と検証によって製造法と試験条件が確立された品目にとって、ゲル化法は優れた方法といえるでしょう。しかし、蛋白製剤など、混入した ET が除きにくく、測定への影響が原料や製造ロットによって変わりやすいものは、工程検査の段階から ET の定量的検査が必要と思われます。

また、ゲル化法では、最大希釈倍数以下の希釈倍率で試験を行ったとき陽性結果が得られると、これが規格に適合しているかどうかがわかりません。この場合、もう一度最大希釈倍数で希釈して、試験を行う必要があります。

さらに、ゲル化法の判定は、光学的方法に比べて人為的な誤差が出やすいことや必ず測定開始 1 時間後に人による判定が必要であることも忘れてはなりません。トキシノメーターなら、測定を開始した後は、自動的に機械が ET 濃度を算出しますし、測定者の拘束時間もありません。試薬の使用量も、検量線作成用に少しよけいにかかるだけなので、それほど問題ではないでしょう。

今後の ET 試験法の方向として、工程管理を含め主な試験には定量法、一部の確立された品目の最終試験にはゲル化法という棲み分けになるのではないでしょうか。

参考文献

  1. 第十四改正日本薬局方解説書,p.B63,(廣川書店),(2001).

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