【連載】Talking of LAL「第49話 透析療法とエンドトキシン」
本記事は、和光純薬時報 Vol.70 No.4(2002年10月号)において、和光純薬工業 土谷 正和が執筆したものです。
第49話 透析療法とエンドトキシン
今回のテーマは、透析療法におけるエンドトキシン測定の重要性です。
透析医学会のデータによると、1999 年における日本国内の慢性透析患者数は 197,213 人、透析施設数は 3,220 施設、ペーシェントステーション数は 75,448 台となっています。この約 20 万人の透析患者さんたちは、腎臓移植を受ける以外、一生透析療法を受ける必要があります。
透析療法の進歩により、生存率も向上し、25 年以上透析療法を受けている患者数も 2,000 人を超えています。透析療法は長期にわたるため、その副作用も長期間の観察による考察が必要です。
注射用医薬品中のエンドトキシン濃度は 5 EU/kg 以下と定められていますが、これは一時的に投与される医薬品の急性毒性を抑えるための規格と考えることができます。大量の透析液が透析膜を介して血液と接触するにもかかわらず、透析液を血液に直接入れないことから、エンドトキシンの規格値は注射用水程度とされてきました。
ところが、透析療法の効率を上げるために、より大きい口径を持つ高性能膜が開発されると、エンドトキシンの逆ろ過の危険性が指摘されるようになり、汚染された透析液による発熱反応が報告されるようになりました 1)。
また、長期透析における副作用の一つである透析アミロイド症の原因物質、β2ミクログロブリンが、透析液のエンドトキシンフリー化で低下することも報告され 2)、透析液の清浄化への感心が高まっています。汚染透析液を使用した場合の血中エンドトキシンは証明されていないものの、透析液の清浄化、特にエンドトキシン濃度の低減の必要性は、現在広く認められてきたと考えられます。
新しく検討されている透析療法の一つに血液透析ろ過療法(HDF 療法)があります。HDF 療法では、透析液を血液に入れ、増加分をろ過で取り除くもので、従来の透析療法が膜を介した拡散を利用していたのに対し、積極的にろ過を行うことで、血液中の不要物を効率良く除去しようというものです。
HDF 用の透析液(補液)中のエンドトキシン濃度は 1 EU/L 未満という規格が、HDF 研究会から提唱されています。筆者らのグループがパイロセップ法で検討したところ、市販の補液は非常にきれいで、検量線の外挿値から、少なくとも 0.005 EU/L 以下と考えられました。さすが、医薬品会社の無エンドトキシン製品製造能力はたいしたものです。
しかし、オンライン HDF 療法などでは、通常の透析液をろ過などにより清浄化して補液として使用するため、補液の清浄化を維持することが必要となり、原料となる RO 水をはじめ、工程の管理が重要になってきます。やはり、一旦通常の環境で調液を行うと、微生物の汚染は少々の努力では避けられないようです。
さて、透析液中のエンドトキシンとペプチドグリカンの影響に関する土田らの興味深い報告があります 3)。すなわち、エンドトキシンやペプチドグリカンの最小構成単位であるムラミルジペプチド(MDP)は、ヒト末梢血単核球(PBMC)のサイトカイン産生を誘導し、PBMC による IL-1β や IL-1Ra の産生における相乗効果を示したというものです。
この相乗効果は、汚染された透析液で長期間透析を受けていた患者群では有意に低下していました。この結果は汚染された透析液からの何らかの刺激を示唆しており、やはり透析液の清浄化が必要ということなのでしょう。さらに、単独では活性の弱いペプチドグリカンもエンドトキシン活性を増強することから、ペプチドグリカンの管理も必要かもしれません。
エンドトキシンは、多量投与では急性毒性を示しますし、少量の継続的刺激でも様々な影響を与えるようです。さらに、ペプチドグリカンが相乗的に働くとなると、これらを産生する細菌の管理が重要であることはいうまでもありません。
もちろん、ペプチドグリカン以外にも生物活性を持った微生物成分があることでしょう。人は、良きにつけ悪しきにつけ、微生物と無関係には生きていけません。この分野に関して、和光の LAL/SLPシステムがお役に立てばよいのですが。よい利用方法がございましたら、是非お知らせください。
参考文献
- Steven, M. et al. : J. Am. Soc. Nephrol., 2, 1436 (1992).
- 政金生人 他:「腎と透析別冊HDF療法 ' 98」,p. 107,(東京医学社)(1998).
- 土田健司 他:防菌防黴誌,25, 405(1997).