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【連載】Talking of LAL「第50話 エンドトキシン試験のアメリカ事情」

本記事は、和光純薬時報 Vol.71 No.1(2003年1月号)において、和光純薬工業 土谷 正和が執筆したものです。

第50話 エンドトキシン試験のアメリカ事情

今、筆者はアメリカに来ています。そこで、今回はアメリカにおけるエンドトキシン試験について考えてみたいと思います。

アメリカにおけるエンドトキシン試験の手法に関する確かなデータはありませんが、最近では半分以上が比濁時間分析法や比色時間分析法といったカイネティック法になっているそうです。もちろん、ゲル化法が重要な位置を占めていることに変わりはありませんが、マイクロプレートリーダーを用いたカイネティック法が普及してきているようです。

現在、アメリカにあるLALメーカーは、Associates of Cape Cod 社、BioWhittaker 社、Endosafe 社、Haemachem 社の4社です。各社の特徴を挙げると、Associates of Cape Cod 社はゲル化法と試験管リーダーによる比濁時間分析法、BioWhittaker 社はマイクロプレートリーダーを用いた比色時間分析法、Endosafe 社はゲル化法とマイクロプレートリーダーを用いた比濁時間分析法、Haemachem 社はゲル化法ということになると思います。

Associates of Cape Cod 社、BioWhittaker 社、Endosafe 社の3社がトップシェアを競い合っており、各社とも自分たちがトップであると言っています。本当のところはわかりませんが、かなり均衡しているのかもしれません。以前 Associates of Cape Cod 社のシェアがトップでしたが、BioWhittaker 社の合成基質法や、後発の Endosafe 社に押されてきています。

アメリカの品質管理担当者の意識は、日本と少し違うように感じます。例を挙げてみましょう。LAL のゲル化感度は表示感度近くのある範囲に納まるように製造されています。日本ですと、許容範囲内のより高い感度が好まれますが、アメリカでは逆に許容範囲内のより低い感度が好まれるそうです。

これは、できるだけ感度が低いほうが、製品が合格と判定される確率が高い、言い換えれば、感度が高いと基準ぎりぎりの製品を不合格と判定しやすいからだそうです。日本では、同じ考えから、基準ぎりぎりの製品をしっかり見つけ出して、危険をより少なくするという考えが主流のような気がします。

どちらがよいかをはっきりと言うことは難しいと思いますが、アメリカ流の考え方は、「認められた許容範囲内のものは安全と考えることになっているのだから、できるだけ合格率の高いほうがよい」ということなのでしょう。責任と権限の所在がはっきりしていて、Yes と No をはっきり言うアメリカらしい考え方かもしれません。

もちろん日本流の考え方の方が安全性が高いと言えると思います。危険性を未然に発見して「KAIZEN」を行う、日本流品質管理の考え方だと思います。筆者の個人的な意見としては、工程検査は日本流、最終検査はアメリカ流にするのがよいと思うのですがいかがでしょう。

ゲル化法の操作方法でも違いがあります。日本では、ピペッターが普及していることもあり、LAL を反応試験管に分注した後、試料を加える方法が一般的と思われますが、アメリカでは、反応試験管に試料を分注した後、1mL のピペットで 0.1mL の LAL を連続的に加えるようです。この方法は、20 年前からあまり変わっていません。

この方法の利点は、反応の開始時間が試験管ごとであまり違わないため、1つの試験管立てごとに反応を開始し、時間測定を開始、60 分後にまとめて判定することができる点です。実際には、試験管立てに反応試験管を並べ、エンドトキシン希釈液、試料を分注(このとき、できるだけ底の方に液を入れます)、LAL を一気に添加して、試験管立てを横にがしゃがしゃと振って撹拌した後、インキュベーターにどぼんと放り込んで、時間の測定を始めます。アルミキャップなどはしません。60 分後にまた一気にゲル化の判定をします。

この方法は、恒温水槽とストップウォッチしかない施設では便利な方法です。問題点は、連続的に LAL を分注するときに、ピペットの先が反応試験管の中の試料に触れて汚染する危険性が高いことです。また、トキシノメーターのように定量性の高い方法には、連続分注ピペッターのように分注精度の高い器具を使う必要があります。

LAL はアメリカで発見され、実用化されてきました。日本の技術は非常に優れているのですが、世界のスタンダードとなるには至っていません。今後、世界的な標準化が進んでいくにつれて、日本の技術の良いところもどんどん取り入れられていくことと思います。

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