RNA研究試薬

遺伝情報はRNA(messenger RNA/mRNA)に転写されたのちにタンパク質へと翻訳されることで発現します。1958年にクリックが提唱したこのセントラルドグマの概念は現在の生命科学研究の基盤となっています。現在もRNAが重要な因子であると位置づけられており、数多くの研究者がRNAを対象とした研究に取り組んでいます。当社はRNAに関連した一連の研究試薬を取り揃えています。

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RNAとは?

リボ核酸(Ribonucleic acid / RNA)は、五炭糖であるリボースとりん酸、塩基から構成されるリボヌクレオチドがつながった核酸であり、塩基にはプリン骨格を持つアデニン(Adenine / A)とグアニン(Guanine / G)、ピリミジン骨格を持つシトシン(Cytosine / C)とウラシル (Uracil / U)の4種類が存在します。アデニンとウラシル、グアニンとシトシンは水素結合によって相補的な塩基対を形成することができます。

RNAは主に遺伝子情報の伝達や発現に関与しており、DNA上の遺伝情報が転写されたメッセンジャーRNAを始め、メッセンジャーRNAとアミノ酸をつなぐアダプターのトランスファーRNA、翻訳に不可欠なリボソームを構成するリボソームRNAなどが存在します。

RNAは通常、一本鎖の状態で存在しており、DNAのような二重らせん構造の制約を受けません。そのため、塩基配列によっては局所的にステムループなどの二本鎖構造を形成することができ、さらに複雑な三次元構造をとるものもあります。高次構造をもつRNAには触媒活性を有するものも存在し、細胞内で酵素としてふるまうRNAはリボザイムと呼ばれています。代表的なリボザイムとして、前駆体RNAからtRNAを切り出すRNase Pなどが知られています。

DNAとRNAの違い

デオキシリボ核酸(DNA)とリボ核酸(RNA)は良く似ていますが、以下の点で異なります。

①DNAの主鎖に使用される糖は2’-デオキシリボースであるが、RNAは2’位にヒドロキシ基を含むリボースである。

2’位のヒドロキシ基の存在は、核酸の安定性に大きな影響を及ぼします。一般的にRNAはDNAより不安定とされていますが、その理由はこの2’位のヒドロキシ基にあります。2’位のヒドロキシ基にあるプロトンは塩基性物質に引き抜かれやすく、プロトンを失った酸素原子はホスホジエステル結合を形成しているりん原子を攻撃し、リボヌクレオチド同士の結合を切断してしまいます(図1)。同様のメカニズムでRNAを分解するRNA分解酵素(RNase)も存在し、弱塩基性条件下やRNaseの存在下だとRNAは容易に分解されてしまいます。
2’位のヒドロキシ基をO-メチル化(-OMe)に変えた修飾ヌクレオチドは、五員環の構造がリボヌクレオチドと同様のC3’-endo型(5′位の炭素と3′位の炭素が同じ方向に突出する)をとる上に、加水分解されにくいため、核酸医薬などの分野で良く利用されています。

図1 RNA 加水分解のメカニズム

②DNAは塩基にチミンを利用しているが、RNAはチミンの代わりにウラシルを利用している。

DNAはチミン、RNAはウラシルと利用する塩基は異なりますが、チミンとウラシルの違いは5’位のメチル基の有無のみで構造的には非常に似ており、チミンは5’-メチルウラシルと呼ぶこともできます。そのためどちらもアデニンと相補的結合を形成することができます。
DNAにウラシルが利用されなかった理由は、ウラシルがシトシンの脱アミノ反応により自然に生じる塩基であるためと考えられています。DNAの塩基としてウラシルを利用してしまうとシトシンの脱アミノ反応で生じたウラシルと本来のウラシルを識別できませんが、DNAにウラシルが含まれていなければ、DNAの修復機構はシトシンの脱アミノ反応で生じたウラシルを異常として認識でき、その部分をシトシンに修復することができます。

RNAの種類と機能

細胞内には様々な種類のRNAが存在しており、それぞれ細胞内で重要な役割を担っています。ここではRNAの種類とその機能を紹介します。

▼メッセンジャーRNA (messenger RNA / mRNA)

mRNAはRNAポリメラーゼによって遺伝子(DNA)から転写された、タンパク質の配列情報をコードするRNAです。真核生物では核内でDNAから転写されると、RNAキャップ形成やポリアデニル化、スプライシングなどのRNAプロセシングを受けます。プロセシングを受けた成熟mRNAは核外に輸送されタンパク質に翻訳されます。一般的な哺乳細胞では全RNAの1~5%がmRNAと言われています。
DNAのように細胞核へ移行させる必要がなく、ゲノムへ組み込まれる可能性も低い一方で、タンパク質に比べて生産や改変が容易であることから核酸医薬やワクチンの分野でも注目されています。生体へ投与した場合の安定性の低さや免疫原性が課題となっていましたが、修飾塩基やキャッピング(Cap1)の適用、ドラッグデリバリーシステムの発展などにより実用化されるようになりました。

▼トランスファーRNA (transfer RNA / tRNA)

tRNAはコドンとコドンが指定するアミノ酸をつなぐアダプターの役割をするRNAです。tRNAはクローバー型の構造をしており、その中にmRNAのコドンと相補的に結合するアンチコドン領域とコドンに適合するアミノ酸が結合する領域が存在します。哺乳細胞では全RNAのうち15~20%を占めています。

▼リボソームRNA (ribosomal RNA / rRNA)

rRNAはリボソームタンパク質とともに翻訳装置であるリボソームを構成するRNAです。一般的な哺乳細胞では全RNAのうち80~85%を占めており、遠心力をかけたときの沈降速度から真核生物では5S / 5.8S / 18S / 28S、原核生物では5S / 16S / 23SのrRNAが存在することが明らかになっています。 rRNAのなかには三次元構造をとり、タンパク質を翻訳する際にアミノ酸同士のペプチド結合形成を触媒するリボザイムとしてはたらくものもあります。

▼マイクロRNA (micro RNA / miRNA)

microRNAは約22塩基からなる機能性小分子RNA(small RNA)の1種で、遺伝子発現を転写後レベルで制御するガイド分子として機能し、様々な生体機能を担っていることが報告されています。ヒトやマウスでは1,000種類以上のmicroRNAがコードされていると考えられており、新規microRNAの機能解明や疾患に関連するmicroRNAの探索など世界中で盛んに研究が進められています。また、細胞内だけでなく血液などの体液中にmicroRNAが存在することが報告され、がんなど疾患の臨床診断マーカー分子としても注目を集めています。
なお機能性小分子RNAとしてmiRNAの他に内在性siRNA (endogenous small interfering RNA)やpiRNA (PIWI-interacting RNA)などがあり、それぞれ塩基数が若干異なっています。結合するAGOタンパク質も異なるため、これらの結合タンパク質を利用した免疫沈降などで単離することが可能です。

その他のRNA

その他にも核内に存在し、RNAスプライシングなどに関与する核内小分子RNA (small nuclear RNA / snRNA)や核小体に存在し、rRNAの修飾などに関与する核小体低分子RNA (small nucleolar RNA / snoRNA)が機能性小分子RNAとして古くから知られています。

参考文献

平尾一郎, 胡桃坂仁志 編:「目的別で選べる核酸実験の原理とプロトコール」 (羊土社) (2011).
塩見美喜子, 中川真一, 浅原弘嗣 編:「ノンコーディングRNAテキストブック」 (羊土社) (2015).
Watson, J. D.他著, 中村桂子 監訳:「ワトソン 遺伝子の分子生物学(第7版)」 (東京電機大学出版局) (2017).