ニッポンジーン CRISPR-Cas3ゲノム編集
CRISPR-Cas3技術は、東京大学医科学研究所 先進動物ゲノム研究分野の真下知士教授、大阪大学微生物病研究所の竹田潤二招へい教授らの研究成果を基に開発された日本発のゲノム編集技術です。
CRISPR-Cas3 技術は、オフターゲット変異が少なく安全性が高いことやターゲット遺伝子とその周辺を広く削ることができるといった特長を有しており、国内発の新しいゲノム編集技術として注目されています。
ニッポンジーンは、ゲノム編集技術に必要な研究用試薬を供給することにより、わが国のゲノム編集技術の発展に貢献して参ります。
製品コード | 品名 | 備考 |
---|---|---|
- | Cascade-crRNA複合体作製サービス | Casタンパク質の複合体作成サービス |
311-09441 | Cas3 protein NLS | Escherichia coli由来のCas3タンパク質 |
312-09471 | Cascade-crRNA complex, hB2M | ヒト beta-2-microglobulin(B2M)遺伝子を標的としたCascade-crRNA複合体 |
312-09611 | Cascade-crRNA complex, EGFP | EGFP遺伝子(Mammalian codon-optimized) を標的としたCascade-crRNA複合体 |
CRISPR-Cas3システム
CRISPR-Cas3は、ガイドRNAにあたるcrRNAと5種類のタンパク質から構成されるCascade(カスケード)が複合体を形成し、標的DNA配列を認識して結合します。そこにCas3タンパク質が結合することでDNAを切断します。CRISPR-Cas3ではCas3タンパク質が標的配列の上流側を連続的に分解することで標的配列を大きく削ることができる性質を持ち、さらにcrRNAの相補配列が32塩基と長いため、従来のゲノム編集技術の課題であったオフターゲットへの影響も極めて低い特長があります。
特長
- ゲノムの大規模欠損が可能
- オフターゲット変異のリスクが低く、特異性が高い(安全性の高いゲノム編集技術)
- シンプルなライセンスのため、ゲノム編集技術の実用化にむけた戦略が立て易い
図1. CRISPR-Cas3による二本鎖DNAの切断
5種類のタンパク質から構成されるCascadeとcrRNAの複合体に、Cas3が結合することでDNAを切断。
表1. CRISPR-Cas3の特長(CRISPR-Cas9との比較)
CRISPR-Cas3 | CRISPR/Cas9 | |
---|---|---|
分類 | クラス1※(タイプI) | クラス2※※(タイプⅡ) |
構成要素 | Cas3 protein,crRNA,Cascade構成protein | Cas9 protein,gRNA |
PAM配列 | AAG(AGG,GAG,TAC,ATG,TAG) | NGG |
相補配列の長さ | 32塩基 | 約20塩基 |
オフターゲット変異2) | 極めて低い | 低い |
大規模欠損2) | ◎ | △ |
編集効率2) | ◎ | ◎ |
切断機構 | Cas3の持つヌクレアーゼドメインとヘリカーゼドメインにより一本鎖DNAの切断が繰り返され、結果的に二本鎖切断が導入される1) | Cas9の持つ2つのヌクレアーゼドメイン(RuvCとHNH)による二本鎖同時切断 |
特長 | ・crRNAの相補配列が長いため高い特異性を期待できる | ・実験系の構築が非常に簡単 |
・数百~数千塩基の大規模欠失変異が可能 | ・1~数塩基の挿入or欠失が可能 |
参考文献
- Yoshimi,K. et al.:Nature Communications, 13:4917(2022)
- Morisaka, H. et al.:Nature Communications,10:5302(2019)
※クラス1:複数のタンパク質で標的配列を切断
※※クラス2:単一のタンパク質で標的配列を切断
CRISPR-Cas3システムを用いたゲノム編集
細胞でのゲノム編集評価(データ提供:C4U株式会社)
β2-ミクログロブリンをコードするB2M遺伝子をターゲットとして実験を行った。エレクトロポレーション法でHEK293T細胞へCas3 protein NLS(Code No.311-09441)及びCascade-crRNA複合体を導入し、培養3日後にFlow CytometoryでB2M遺伝子のノックアウトをHLA-A抗体を使って確認した。また、B2M遺伝子がどの程度欠損が起きているか、クローニング及びシーケンス解析により確認した。
<実験方法>
- RNP(Cas3 ‒ Cascade-crRNA複合体) 各種を調製
- 細胞懸濁液を用意(0.3 x 106 cells/well)
- エレクトロポレーション(下記:実験条件)
- エレクトロポレーション後、3 日目にFlow CytometoryでB2M遺伝子の発現を測定
- KO率を計算
<実験条件>
【エレクトロポレーター】 4D-Nucleofector® (Lonza社)
【Pulse Code】DG150
【細胞】HEK293T細胞, 0.3 x 106 cells/well
【RNP】100 pmol each/well (6 well plate)
シーケンス解析による欠損領域の確認
B2M遺伝子がどの程度欠損が起きているか、クローニングおよびシーケンス解析により確認した。
Cascade-crRNA複合体作製サービス
本サービスはCRISPR-Cas3ゲノム編集用のcrRNA(クリスパーRNA)の設計およびcrRNAとCasタンパク質の複合体(Cas complex for antiviral defence, Cascade-crRNA複合体)を作製するサービスです。
Cascadeを構成する5種のタンパク質と1種のcrRNAを共発現し、精製したCascade-crRNA複合体を納品いたします。 また、Cascadeを構成するタンパク質(Cas11, Cas7, Cas6)は、核移行シグナル(NLS)を有しています。
本サービスで作製したCascade-crRNA複合体(ガイドRNA)と、別売の切断活性をもつCas3 protein NLSを組み合わせることで、日本発の新しいゲノム編集技術「CRISPR-Cas3システム」に利用することができます。
サービスの概要
crRNA配列設計とCascade-crRNA複合体作製
- お客様から提供されたターゲット領域の配列情報をもとにC4U株式会社にてcrRNA配列を設計します。
- 株式会社ニッポンジーンよりお客様へ1遺伝子につき3箇所のcrRNA候補配列を報告します。
- お客様から指定された1種、2種または3種の配列に対して、Cascade-crRNA複合体を作製します。
- 本サービスは、 納品するCascade-crRNA複合体についてゲノム編集実験の成功を保証するものではありません。
- 配列情報提供書はこちらよりダウンロードできます。
Cascade-crRNA複合体
起 源 | 遺伝子組換え大腸菌 |
---|---|
濃 度 | 25 μg/μL Cascade-crRNA複合体 |
形 状 | 20 mM HEPES-NaOH (pH7.0), 350 mM NaCl |
納品物 (1配列あたり1箱にまとめて納品)
構成品 | 容量 | 保存 | 備考 |
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Cascade-crRNA複合体 | 10 µL x 1本~出来高分 | -80°C | 250 µg (10 μL)ずつチューブに小分けし、 製造してできた分だけ出荷いたします。目安として、1配列あたり6~15本程度を見込んでおりますが、保証はいたしかねます。 |
基質プラスミド | 1本 | -80°C | 本サービスで作製したCascade-crRNA複合体は、PAMおよび標的配列を含むPlasmidの切断実験で活性を確認します。このin vitro試験に使用したPlasmidを同梱します。 |
検査報告書(PDF) | - | - | お客様のメールアドレス宛てに送付します。 |
サービスの流れ
1. 注意事項を確認
【重要】カスケード複合体作製サービスのご利用に際して、以下の注意事項をご確認下さい。
<カスケード複合体の設計・作製について>
- 本サービスは、専門のスタッフが最善を尽くして設計・作製を行いますが、ゲノム編集実験の成功を保証するものではありません。
- 標的配列にリピート配列が含まれる場合など、標的部位やその配列によっては複合体の切断活性が著しく低くなったり、作製効率に大きく影響が出る可能性があります。
<サービスについて>
- 本サービスは研究目的でのみ利用することができます。それ以外の目的で利用することはできません。
- 納品物のカスケード複合体は、ご注文されたお客様もしくは共同研究先(特定の第三者)が使用できます。
- 実施の際は、当社 組換えDNA安全委員会の審査が必要となります。配列情報提供書に必要事項を漏れなく記入して下さい。
- 配列情報提供書の内容や記入漏れにより、組換えDNA安全委員会の承認を得られない場合は、サービスが行えませんのでご了承下さい。
- ご依頼数が多い場合、あるいはご依頼が集中している場合は、通常の納期では終了しない場合もありますのでご了承下さい。
- お客様からお預かりした遺伝子情報や設計結果は、契約書の有無に関わらず秘密保持に万全を期し、お客様の同意があった場合、また法律等によって要求された場合を除き、弊社およびC4U株式会社以外の第三者に対して情報を提供することは一切ありません。
- お客様の個人情報は、ニッポンジーン、C4U株式会社、富士フイルム和光純薬株式会社ならびに販売代理店からの事務連絡等に使用させていただく場合があります。
ライセンス
- 株式会社とのライセンス契約をもとに製造、販売を行っております。
2. 注文書と配列情報提供書を送付
「注文書」を代理店を通してお送りいただきます。
「配列情報提供書」(エクセル形式)をニッポンジーンに直接メールで送付してください。
ご注文・お見積り・お問い合わせについて
ニッポンジーンの下記メールアドレスまたは、ホームページよりご連絡願います。
メールアドレス:info@nippongene.com
お問い合わせページ:https://www.nippongene.com/siyaku/contact/contact.html
3,4. 設計及び選択
納期:1~2週間(お客様による配列確認に要する時間は含みません)
- 「配列情報提供書」の内容をニッポンジーンおよびC4U株式会社にて確認します。
- C4U株式会社にて設計した1遺伝子につき3箇所のcrRNA候補配列をニッポンジーンよりお客様のメールアドレス宛に送付します。
- お客様はどの候補配列に対して作製を依頼するか、ニッポンジーンへご返信ください。
- お客様から指定された1種、2種または3種の配列に対して、Cascade-crRNA複合体の作製を開始します。
5. 作成作業
ニッポンジーンで実施する作業は以下の通りです。
納期:3~4か月
- crRNA発現プラスミド調製
- crRNA発現プラスミド配列確認(シーケンス解析)
- Cascade-crRNA複合体を大腸菌培養(共発現)
- Cascade-crRNA複合体を精製
- 吸光度係数による濃度測定
- 小分け分注
- 基質プラスミドによるヌクレアーゼ活性確認(DNA切断試験)*
- SDS-PAGEによる純度確認
納期の目安
1配列:作成3か月
2配列:作成3か月半
3配列:作成4か月
6. 納品物送付
- 納品物(1配列につき1箱)をドライアイス梱包にて配送します。
- 検査報告書(PDF)をニッポンジーンよりお客様のメールアドレス宛に送付します。
Q&A
Q:候補領域と削りたい方向性とは何ですか?
A:お客様よりご提供いただく標的遺伝子周辺の配列情報をもとに、C4U株式会社にて1遺伝子につき1~3箇所のcrRNAの候補配列(32塩基)を設計いたします。crRNAの候補配列を抽出できるよう、下図を参考にして「500 base前後の候補領域」のご入力と「標的DNAに対して削りたい方向性」をご選択ください。
削りたい方向性(PAMと切断の方向)
CRISPR-Cas3システムでは、設計したcrRNAの位置からPAM配列の方向にDNAを削ります。
*1)ニッポンジーン遺伝子組換え実験安全委員会への申請に必要な情報となります。
*2)削りたい方向性をプルダウンから選択して下さい。
候補領域と削りたい方向性
基本的にExonを狙うようにターゲットを選択します。Cas3の特性としてPAMから約150 base先から欠損が開始されるため、標的の周辺配列から150 baseほど空けた500 base前後が候補領域として望ましいです。
Cas3関連製品
Cas3 protein NLS
本製品は、Escherichia coli由来のCas3タンパク質です。Cas3遺伝子を有する組換えバキュロウイルスに感染した昆虫細胞を用いて発現させたタンパク質で、アフィニティ精製を経たものとなります。
核移行シグナル (NLS) を有しており、ガイドRNA (Cascade-crRNA複合体) と組み合わせることでCRISPR-Cas3ゲノム編集に利用することができます。
特長
- 15 µg/µLの高濃度品
- 核移行シグナル (NLS) を付加
- CRISPR-Cas3ゲノム編集でゲノムの大規模欠損が可能
Cascade-crRNA複合体
Cascade-crRNA複合体は、CRISPR-Cas3ゲノム編集用のCascadeタンパク質とCRISPR RNA (crRNA)の複合体で、複数の核移行シグナル(NLS)が付与されています。Cas3 protein NLSと組み合わせると、標的配列を含むDNAを切断することができます。
本製品は特定の実験系において、GFP遺伝子に対してゲノム編集効果が確認されています。CRISPR-Cas3システムの実験系を新しく立ち上げる際の予備実験に使用することができます。
Cascade-crRNA複合体は、ヒト細胞に恒常的に発現しているhB2M遺伝子を標的とした「Cascade-crRNA complex, hB2M」と、レポーター遺伝子として汎用的に使用されているEGFP遺伝子(Mammalian codon-optimized) を標的とした「Cascade-crRNA complex, EGFP」がございますので、様々な生物種の実験系で広く使用できる可能性がございます 。
特長
- CRISPR-Cas3システムの実験系立ち上げの際の予備実験に使用可能
- 本製品とCas3 protein NLSを組み合わせることで標的配列を含むDNAを切断することが可能
- 核移行シグナル(NLS)を付与
製品一覧
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CRISPR-Cas3システム
- 掲載内容は本記事掲載時点の情報です。仕様変更などにより製品内容と実際のイメージが異なる場合があります。
- 掲載されている製品について
- 【試薬】
- 試験・研究の目的のみに使用されるものであり、「医薬品」、「食品」、「家庭用品」などとしては使用できません。
- 試験研究用以外にご使用された場合、いかなる保証も致しかねます。試験研究用以外の用途や原料にご使用希望の場合、弊社営業部門にお問合せください。
- 【医薬品原料】
- 製造専用医薬品及び医薬品添加物などを医薬品等の製造原料として製造業者向けに販売しています。製造専用医薬品(製品名に製造専用の表示があるもの)のご購入には、確認書が必要です。
- 表示している希望納入価格は「本体価格のみ」で消費税等は含まれておりません。
- 表示している希望納入価格は本記事掲載時点の価格です。