microRNA研究試薬

microRNAとAgoサブファミリータンパク質

microRNAは約22塩基からなる小分子ノンコーディングRNAの1種で、遺伝子発現を転写後レベルで制御するガイド分子として機能し、様々な生体機能を担っていることが報告されています1)。ヒトやマウスでは1,000種類以上のmicroRNAがコードされていると考えられており、新規microRNAの機能解明や疾患に関連するmicroRNAの探索など世界中で盛んに研究が進められています。また、細胞内だけでなく血液などの体液中にmicroRNAが存在することが報告され、がんなど疾患の臨床診断マーカー分子としても注目を集めています2)

当社ではヒトとマウスの各Agoサブファミリータンパク質に対するモノクローナル抗体シリーズを取り揃えており、それらの抗体を用いた免疫沈降法キットシリーズ、microRNAや標的mRNAをクローニングするキットをラインアップしています。これらのツールを用いることにより細胞、組織などに存在するRISCに含まれているmicroRNAとmRNAを総合的に解析することができ、また、血液中に存在するAgo結合型microRNAの解析などにも利用することができます。

microRNAは細胞中で複数のステップを介して成熟化し、RNA-induced silencing complex(RISC)と呼ばれるタンパク質複合体の主要構成因子であるAgoサブファミリータンパク質と結合した後、標的mRNAと結合してmRNAを分解、あるいは翻訳を抑制することで遺伝子発現を制御しています(図1)3,4,5)。AgoサブファミリーはPAZドメインとPIWIドメインを有することを特徴とする一群のタンパク質で(図2)、ヒトでは4種類(hAgo1-hAgo4)存在し、それぞれ発現量は異なるがユビキタスに発現しています(図3)6)。その中で発現量が最も多いのはAgo2であり、おもに細胞質に局在していることが知られており(図4)、唯一標的RNAを切断するSlicer活性を有しているため、microRNAパスウェイにおいて中心的な役割を担っていると考えられています7, 8, 9,10,11,12,13)。これらのAgoタンパク質に対する抗体を用いた免疫沈降法により、RISCにトラップされているmicroRNAやmicroRNAの標的になっているmRNAを回収できることがわかり、microRNAの多彩な機能の解明に必須の方法論となりつつあります14,15,16,17,18,19, 20, 21)

図1. RNAサイレンシングの分子機構
  • 図2. PAZドメインとPIWIドメイン
  • 図3. hAgo1-hAgo4の発現比較
  • 図4. Ago2の局在

参考文献
  1. Bartel DP: MicroRNA:genomics, biogenesis, mechanism, and function. Cell, 116:281-297(2004).
  2. Cortez MA, et al.: MicroRNA identification in plasma and serum: a new tool to diagnose and monitor diseases. Expert Opin Biol Ther, 9:703-711(2009)
  3. Hammond SM, et al.: An RNA-directed nuclease mediates post-transcriptional gene silencing in Drosophila cells. Nature, 404:293-296(2000).
  4. Hammond SM, et al.: Argonaute2, a link between genetic and biochemical analyses of RNAi. Science, 293:1146-1150(2001).
  5. Gregory RI, et al.: Human RISC couples microRNA biogenesis and posttranscriptional gene silencing. Cell, 123:631-640(2005).
  6. Sasaki T, et al.: Identification of eight members of the Argonaute family in the human genome. Genomics, 82:323-330(2003).
  7. Pillai RS, et al.: Tethering of human Ago proteins to mRNA mimics the miRNA-mediated repression of protein synthesis. RNA, 10:1518-1525(2004).
  8. Meister G, et al.: Human Argonaute2 mediates RNA cleavage targeted by miRNAs and siRNAs. Mol Cell, 15:185-197(2004).
  9. Liu J, et al.: Argonaute2 is the catalytic engine of mammalian RNAi. Science, 305:1437-1441(2004).
  10. Song JJ, et al.: Crystal structure of Argonaute and its implications for RISC slicer activity. Science, 305:1434-1437(2004).
  11. Meister G, et al.: Mechanisms of gene silencing by double-stranded RNA. Nature, 431:343-349(2004).
  12. Hutvagner G, et al.: A microRNA in a multiple-turnover RNAi enzyme complex. Science, 297:2056-2060(2002).
  13. Yekta S, et al: MicroRNA-directed cleavage of HOXB8 mRNA. Science, 304:594-596(2004).
  14. Beitzinger M, et al.: Identification of human microRNA targets from isolated Argonaute protein complexes. RNA Biol, 4:76-84(2007).
  15. Karginov FV, et al.: A biochemical approach to identifying microRNA targets. Proc Natl Acad Sci USA, 104:19291-19296(2007).
  16. Easow G, et al.: Isolation of microRNA targets by miRNP immunopurification. RNA, 13:1198-1204(2007).
  17. Hendrickson DG, et al.: Systematic identification of mRNAs recruited to Argonaute2 by specific microRNAs and corresponding changes in transcript abundance. PloS ONE, 3:e2126(2008).
  18. Landthaler M, et al.: Molecular characterization of human Argonaute-containing ribonucleoprotein complexes and their bound target mRNAs. RNA, 14:2580-2596(2008).
  19. Chi SW, et al.: Argonaute HITS-CLIP decodes microRNA-mRNA interaction maps. Nature, 460:479-486(2009).
  20. Wang WX, et al.: Anti-Argonaute RIP-Chip shows that miRNA transfections alter global patterns of mRNA recruitment to microribonucleoprotein complexes. RNA, Dec.30(2009).
  21. Hayashida Y, et al.: A useful approach to total analysis of RISC associated RNA. BMC Res Notes, 2:169(2009).

製品シリーズの概要

当社では、ヒトとマウスの各Agoサブファミリータンパク質に対するモノクローナル抗体、それらの抗体を用いた免疫沈降法(Ago IP法)をベースにしたmicroRNA Isolation Kitシリーズ、サンプルからtotal RNAを簡単に回収するISOGEN®シリーズやmicroRNA Extractor® SP Kitをラインアップしており、目的に応じて様々なサンプルから microRNAを含む画分を精製することができます。さらに、精製したmicroRNAや標的mRNAのクローニング、マイクロアレイ受託解析なども提供しており、microRNAの単離から解析までの実験を強力にサポートしています。

Ago免疫沈降法の概要

当社では、ヒトとマウスの各Agoサブファミリータンパク質に対するモノクローナル抗体を取り揃えており、それらの抗体を用いた免疫沈降法(Ago IP法)をベースにしたキットのmicroRNA Isolation Kitシリーズを提供しています。これらのツールを用いることで、通常のtotal RNA精製では得られない下記のような3つのメリット(P6,P7,P8掲載)が得られます。

メリット1  RISCに取り込まれた成熟microRNAを濃縮できる

Ago IP法によって得られるRNA画分にはRISCに取り込まれた成熟microRNAが濃縮されるため、マイクロアレイや次世代シークエンス解析においてmicroRNAの検出感度を上げ、他のRNAの非特異検出を抑えることができます。

例:Hala細胞のAgo IP RNA画分と total RNA画分のポピュレーション比較

HeLa細胞から各Agoサブファミリータンパク質(Ago1, 2, 3, 4)を特異的に認識するモノクローナル抗体を用いて免疫沈降したRNA(Ago IP RNA画分)と、ISOGEN®(AGPC法)を用いて調製したtotal RNA画分に含まれるmicroRNAのポピュレーションをマイクロアレイ解析(東レ 3D-Gene®)により比較した(図1)。結果、多くの microRNAは、total RNA画分に比べ各Ago IP RNA画分に濃縮されており(Ago4 IP RNA画分を除く)、より強いシグナルとして検出された(図2)。また、total RNA画分には強く検出されるがAgo IP RNA画分ではほとんど検出されないmicroRNAが存在しており、total RNA画分中にはRISCに取り込まれていないmicroRNAも検出されていることが示された。

  • 図1. 実験の概略
  • 図2. 各Ago IP RNA画分とtotal RNA画分のmicroRNAのシグナル強度比較

メリット2  RISCに結合した標的mRNAを濃縮できる

Ago IP法によって得られるRNA画分には、microRNAの標的mRNAが濃縮されるため、cDNAクローニング、定量PCR、マイクロアレイ、次世代シークエンス解析などによる標的 mRNAの解析に利用することができます。

例:肝臓特異的なmicroRNA(miR-122)の標的mRNAの濃縮

miR-122低発現の肝がん細胞株であるHepG2細胞に、人工合成したmiR-122またはコントロールのルシフェラーゼsiRNA(Luc siRNA)を導入し、各細胞から抗ヒトAgo2モノクローナル抗体(4G8)により調製したAgo2 IP RNA と、ISOGENを用いて調製したtotal RNAを取得した。各細胞に含まれるAgo2 IP RNAとtotal RNA中のmiR-122 の標的mRNA(標的の1つであるAldo A mRNA量をGAPDH mRNA量で補正)量を定量PCR法で比較した(図1)。結果、miR-122導入細胞ではtotal RNA画分中のAldo A mRNA量はRISCによる分解を受けることで減少していたが、Ago2 IP RNA画分では濃縮され増加していることが示された(図2)。

図1. 実験の概略
図2. 定量PCRによるAldo A mRNA量の比較

メリット3  血液中遊離Agoタンパク質に結合したmicroRNAを濃縮できる

血液中にはエクソソーム内包型microRNA、HDL結合型microRNA、Agoタンパク質結合型 microRNAなどが存在することが知られている。Ago免疫沈降法を用いることにより、Agoタンパク質結合型microRNAを特異的に単離でき、新規バイオマーカーの探索などに利用することができます。

例1:ヒト血漿からAgo2タンパク質結合型microRNAの単離

健常人プール血漿から抗Ago2モノクローナル抗体(4G8)を用いて免疫沈降したAgo2 IP RNAとmicroRNA Extractor® SP Kitを用いて調製したtotal RNA中に含まれるmicroRNA(任意な12種類)を定量PCR法(Ct値)で比較した(図1)。結果、total RNA中に検出されたmicroRNAの多くはAgo2 IP RNA画分でも検出され、中でもmiR- 22やmiR-92aなどはAgo2 IP RNA画分に高濃縮されている(total RNAに対するAgo2 IP RNAのCt値が低い)ことが示された(図2)。

図1. 実験の概略
図2. 定量PCRによるmicroRNA量(Ct値)の比較

例2:ヒト血漿からの各Ago結合型microRNAの単離

健常人プール血漿から抗Ago1モノクローナル抗体(2A7)、抗Ago2モノクローナル抗体(4G8)、抗Ago3モノクローナル抗体(1C12)、抗Ago4モノクローナル抗体(2G7)を用いて免疫沈降した各RNA(Ago1, 2, 3, 4 IP RNA)に含まれるmicroRNA(miR-92a、miR-122)を定量PCR法(絶対定量)で比較した(図1)。結果、血漿中にはAgo2 IP RNA画分だけでなく、他のAgo IP RNA画分にもmicroRNAが存在し、肝臓特異的なmiR-122はAgo3 IP RNA画分に高濃縮されていることが示された(図2)。

図1. 実験の概略
図2. 定量PCRによる各Ago IP RNA画分中のmicroRNA量の比較