【連載】Talking of LAL「第55話 エンドトキシンと添加剤」
本記事は、和光純薬時報 Vol.72 No.2(2004年4月号)において、和光純薬工業 土谷 正和が執筆したものです。
第55話 エンドトキシンと添加剤
エンドトキシン標準品にはいろいろな添加剤が使用されています。添加剤はそれぞれ目的をもって使用されていますが、時としてエンドトキシン測定に影響を与える場合があります。今回は、この添加剤について考えてみましょう。
エンドトキシンの添加剤として、日本薬局方標準エンドトキシン10000に使用されているマンニトール、米国標準エンドトキシンに使用されているラクトースとポリエチレングリコールなどの他、アルブミンやグリシンなどが使用されています。これらの添加剤は、主にエンドトキシンの分散性を向上させ、溶液中のエンドトキシン活性を一定に保つために添加されています。
エンドトキシンを扱う場合の注意点としては、エンドトキシンの分散性の他、容器への吸着、共存物質の影響、などがあります。添加剤はこれらの点でも影響を与える場合があります。例えば、アルブミンを添加剤として使用しているエンドトキシンでは、プラスチック容器への吸着が認められたり、ガラスから溶出するアルミニウムイオンや鉄イオンの影響を受けにくいなどの現象が認められます。
吸着の例について、もう少し詳しくご紹介しましょう。筆者らは、滅菌済使い捨てポリスチレン試験管をエンドトキシン溶液の希釈にしばしば使用します。ガラス製試験管とポリスチレン製試験管を用いて、米国標準エンドトキシン Lot EC-6 と牛血清アルブミン(BSA)を添加剤としたエンドトキシン(CSE)を希釈して、シングル ES タイプの LAL で活性を測定しました。
その結果、EC-6 ではトキシノメーターにおけるゲル化時間(Tg)がほとんど変わらなかったのに対し(表1)、BSA 入り CSE では Tg の延長が認められました(表2)。
表1. 米国標準エンドトキシン Lot EC-6 の活性に対する容器の材質の影響
EC-6 (EU/mL) | Tg (min) | |
---|---|---|
Glass | Polystylene | |
0.02 | 29.4 | 29.2 |
0.2 | 17.2 | 17.2 |
2 | 11.6 | 11.6 |
20 | 9.4 | 9.2 |
表2. アルブミン添加エンドトキシンの活性に対する容器の材質の影響
CSE(ng/mL) | Glass(GL) | Polystylene(PS) | |||
---|---|---|---|---|---|
Tg(min) | Endotoxin(EU/mL) | Tg(min) | Endotoxin(EU/mL) | PS/GL | |
0.005 | 26.2 | 0.0304 | 29.6 | 0.0197 | 65% |
0.05 | 15.6 | 0.313 | 17.2 | 0.187 | 60% |
0.5 | 10.6 | 4.73 | 11.4 | 2.52 | 53% |
EC-6 で得られた結果をもとに検量線を作成し CSE の濃度を計算したところ、ポリスチレン製試験管を使用して調製した希釈液では、ガラス製試験管を使用した場合に比べて約60%の活性しか示さないことがわかりました(表2)。
この原因の証明は難しいのですが、BSA がエンドトキシンとよく結合すること、また、ポリスチレンは蛋白をよく吸着することが知られており、BSA と結合したエンドトキシンが BSA と共にポリスチレン製試験管の表面に吸着したというのが、最も可能性の高い説明ではないかと思うのですがいかがでしょう。
BSA は、エンドトキシンを分散させ、活性をよく発現させます。また、金属イオンの影響も受けにくくなるため、添加剤としてはよい面も持っています。以前はよく使用された BSA ですが、最近はあまり使用されていません。その理由として、BSA 自体がエンドトキシンに汚染されていることが多く、これを取り除くことが難しいこと、吸着の問題、天然素材なのでロット管理が難しいなどが考えられます。
日本薬局方標準エンドトキシン 10000 に添加されているマンニトールについて、筆者の経験をご紹介しましょう。Westphal 法と呼ばれる熱フェノールを用いた方法で大腸菌エンドトキシンを精製した時の話です。
精製品は最終的に凍結乾燥を行います。この凍結乾燥品を水に懸濁させ、レーザー粒度分布計でその粒度分布を測定してみました。その結果、凍結乾燥品の平均粒度は得られず、分布が非常に広いことがわかりました。この懸濁液を超音波処理していくと粒度が揃ってくる様子が観察されました。最終的に 60nm 程度の粒度ピークが観察されるようになりました。
これを凍結乾燥して再度水に懸濁させ、粒度分布を測定すると、またランダムな分布が得られ、元に戻ってしまいました。超音波処理したエンドトキシンにマンニトールを添加して凍結乾燥を行うと、凍結乾燥後の水懸濁エンドトキシンに、若干平均粒度が大きくなっているものの、粒度のピークが認められました。
当時の国立衛生試験所の先生方がマンニトールを日本薬局方標準エンドトキシンの添加剤として選択されたのですが、この結果を見てなるほどと感心してしまいました。
エンドトキシンの添加剤によって、リムルス試験に及ぼす試料や容器の影響が異ることがわかります。このような現象はエンドトキシン添加剤でのみ認められるわけではなく、試料の種類によっては、エンドトキシンの挙動に影響を与える場合があります。これらのことは、エンドトキシン測定における注意点を再確認させてくれます。以下に注意点を挙げてみます。
(1)測定への影響は、リムルス試薬に対するものとエンドトキシンに対するものがあること。
(2)測定条件の決定時には、エンドトキシンに対する影響を回避した状態で行うこと。
(3)試料の影響を調べるときは、エンドトキシンへの影響が少ない適切なエンドトキシン標品を選ぶこと。
(4)測定への影響は、リムルス試薬とエンドトキシンだけではなく、容器にも注意が必要であること。
エンドトキシンはやんちゃ坊主のようなものです。ちょっと注意を怠ると、すぐにわれわれの目を盗んでいたずらをしてきます。リムルス試験が採用されて 20 年以上が過ぎていますが、未だにこのやんちゃ坊主を完全に管理することはできていないのではないでしょうか。