【連載】Talking of LAL「第18話 リムルス試薬と SLP 試薬」
本記事は、和光純薬時報 Vol.63 No.1(1995年1月号)において、和光純薬工業 土谷 正和が執筆したものです。
第18話 リムルス試薬と SLP 試薬
リムルス試薬を活性化するエンドトキシンや(1→3)-β-D-グルカン(β-グルカン)は、それぞれグラム陰性菌及び真菌の細胞壁成分です。筆者らは、微生物細胞壁成分の検出を目的に研究を行ってまいりましたが、その指標として、エンドトキシンとβ-グルカン以外に、ペプチドグリカン(PG)に着目してきました。
PG は、細菌の細胞壁に認められる成分で、種々の生物活性を持つことが報告されています。PG は、グラム陰性菌、陽性菌の両方に存在するため、細菌全般の指標になる可能性があります。筆者らのグループは、PG とβ-グルカンを検出できる試薬(SLP試薬)を開発しました。
今回は、少し予定を変更して、この SLP 試薬について、紹介したいと思います。
SLP(Silkworm Larvae Plasma)試薬は、カイコ体液中に存在するフェノールオキシダーゼ前駆体(ProPO)カスケードを利用した試薬です。ProPO カスケードは、北海道大学の芦田正明教授の研究室で精力的に研究され、未だ明らかにされない部分があるにせよ、LAL のゲル化反応機構に匹敵する反応系であることが明らかにされてきています。
このカスケードは昆虫の生体防御において、重要な役割をしています。図1 は、LAL と SLP の反応機構を示しています。すでに、カイコ体液からβ-グルカン認識蛋白(BGRP)及び PG 認識蛋白(PGRP)が精製されており1)、これらの物質によりカスケードの引き金が引かれることが判っています。
その後の反応の詳細については判っていませんが、最終的にフェノールオキシダーゼ(PO)が活性化され、L-DOPA 等の基質を酸化してメラニン色素を生成します。
SLP 試薬を用いた PG 並びにβ-グルカンの測定法は、リムルス試験における比濁時間分析法と同様に行うことができます。すなわち、PO の基質として L-DOPA を用い、反応により生成するメラニン色素量を反応液の透過光量比としてとらえ、透過光量比が一定の値だけ減少するまでの反応時間を指標として、PG 並びにβ-グルカンを定量します。
測定機器としては、エンドトキシン測定用のトキシノメーター(和光純薬製)やマイクロプレートリーダー M-Tmax(Molecular Devices 社製)が利用できます。また、マイクロプレート上で反応を行い、メラニン色素の生成を目視で観察する「目視判定法」も簡便で応用範囲が広い方法と思われます。
PG は、グラム陽性菌では通常細胞壁の最外郭に分厚い層を形成していますが、グラム陰性菌では、外膜の内側に薄い層として存在しています。量的な問題と存在場所を考慮すると、グラム陰性菌の菌体そのものが SLP 試薬に反応しない可能性も考えられます。
筆者らは、乾燥菌体を用いて LAL 試薬及び SLP 試薬と各種細菌との反応性を調べました2)。その結果、グラム陰性菌もグラム陽性菌と同様、そのほとんどが SLP 試薬に反応しました。乾燥菌体を用いたために菌体にダメージがあり、PG が露出して SLP 試薬に反応した可能性も考えられますが、とりあえずグラム陰性菌はグラム陽性菌と同様の反応性分布を示しました。
現在の SLP 試薬は、β-グルカンにも反応しますから、PG に特異的というわけではありません。また、β-グルカンに対する反応性も LAL と全く同じというわけではないようです。
その有用性も十分に分かっていない SLP 試薬ですが、先輩格の LAL 試薬と共に利用することによって、微生物の存在に関する有用な情報を提供してくれると期待している次第です。今後、SLP 試薬の性質をさらに検討し、PG やβ-グルカンに特異的な SLP 試薬も開発したいと考えています。
参考文献
- 芦田正明:化学と生物, 26, 425 (1988).
- 小林譜紀子 他:日本農芸化学会誌(講演要旨集), 68, 422 (1994).