【クロマトQ&A】:生体試料中のタンパクを除くのに良い方法を教えて下さい
本記事は、Analytical Circle No.33(2004年6月号)に掲載されたものです。
生体試料をHPLCで分析しようと考えています。試料中のタンパクを除くのに良い方法を教えて下さい。
血清などのタンパク質を多量に含む生体試料中の低分子物質をHPLCで分析する場合、除タンパク操作が必要です。表1のように種々の原理を利用した方法が用いられております。ここではその中で主なものをご紹介します。
表1.種々の除タンパク方法
原理 | 方法 | 具体例 |
---|---|---|
(1)タンパク質の変性による不溶化 | 酸の添加 | 過塩素酸、トリクロロ酢酸、メタりん酸 |
有機溶媒の添加 | アセトン、アセトニトリル、メタノール、エタノール | |
加熱・冷却 | ||
(2)物理的な除去 | 限外ろ過 | メンブランフィルター(遠心ろ過デバイスなど) |
透析 | 透析チューブ | |
超遠心 | ||
(3)直接注入 | 浸透制限充てん剤の利用 | 内面逆相充てん剤、ハイブリッド型充てん剤、親水性ポリマー充てん剤 |
(1)タンパク質の変性による不溶化
タンパク質の高次構造を壊してタンパク質を変性・沈殿させる方法です。酸や有機溶媒を添加する方法が多くとられます。この方法は広く用いられていますが、思わぬ化学反応が起こる可能性があり、目的物質の濃度に影響を与えないことを事前に確認しておく必要があります。またタンパク質の沈殿後、遠心分離、上清採取など時間と労力を必要とします。
(2)物理的な除去
限外ろ過や透析は、分子サイズの違いを利用してタンパク質を目的の低分子物質と分離する方法です。条件が温和なため副反応の心配はほとんどありません。遠心式の製品は簡単な操作で限外ろ過操作を行うことができます。膜は、目的物質の非特異的吸着や、膜が流体を透過させる能力に留意し、目的に合った分画分子量のものを選択します。また膜の選択や遠心の条件は、試料の性質、濃度、pH条件などの影響を受けますので予備実験で確認が必要です。各種製品が市販されています。
(3)浸透制限充てん剤の利用
前の2つが除タンパク操作後HPLCへ注入するのに対し、この方法はタンパク質を含む試料を直接注入しオンラインで除タンパクを行う方法です。血清タンパク質などの高分子物質が変性することなくサイズ排除により溶出され、薬物などの低分子物質が疎水性相互作用や静電的相互作用で保持されるような機能を有する浸透制限充てん剤カラムを使用します。多くの場合、浸透制限充てん剤カラムで除タンパクを行い、目的成分を別のカラムで分析するカラムスイッチング法が行われています。この方法は試料を0.2μ m程度のフィルターに通すだけでHPLCに注入できる特長があります。Wakosil GP-N6(疎水性相と親水性相を有する官能基で修飾したシリカベース充てん剤)、Wakosil Pre-Clean4.0(親水性逆相ポリマー充てん剤)による血清中の薬物の分析例を示します。
以上、主な除タンパク方法を示しました。特に多検体を処理する場合、遠心式の限外ろ過や浸透制限充てん剤の利用は有効な手段と思われますので是非一度ご検討ください。