【クロマトQ&A】:液体クロマトグラフィーに使用する溶媒のグレードについて
本記事は、Analytical Circle No.78(2015年9月号)に掲載されたものです。
試薬には様々な規格がありますが、違いは何ですか。
皆さんもご存じの通り、現在数多くのグレードの試薬が販売されています。例えばアセトニトリルの場合、試薬特級、1級といった一般試薬のほか、高速液体クロマトグラフ(HCPLC)用、LC/MS用などの用途別試薬があります。
各グレードにはどのような違いがあるのか、アセトニトリルの当社試薬特級とHPLC用、LC/MS用の規格項目と規格値を表1に示し比較します。
まず試薬特級とHPLC用を比較すると、試薬特級では行われていない紫外線(UV)吸光度測定、蛍光試験が、HPLC用では実施されているのがわかります。HPLCでは紫外可視吸光光度検出器(UV/VIS検出器、PDA検出器)や蛍光検出器を用いることが多く、UV吸光度、蛍光強度を保証していないグレードの溶媒を使用した場合、バックグラウンドが安定せず測定が困難になったり、ノイズが大きくなり感度が低下するなどの原因になったりする場合があり、これらが重要な規格項目となっています。またHPLC用グレードでは過酸化物の含量が保証されており、分析の途中で試料が分解するのを抑えるよう配慮がなされています。
次にLC/MS用とHPLC用を比較すると、LC/MS用グレードはHPLC用の規格に加え、LC/MS分析適合性試験およびパーティクル測定が行われているのがわかります。LC/MS分析適合性試験は、質量分析計を用いて分析する際のバックグラウンドノイズが低く抑えられていることを保証するために行われています。また微粒子が測定を妨害しないようパーティクル数のチェックが行われています。
TICで検出する場合、溶媒によるバックグラウンドの影響を少なくするためLC/MS用グレードの使用が推奨されます。SIMやMS/MSで検出する場合、バックグラウンドの影響は受けにくいですが、質量分析計装置内の汚染を考慮すると、LC/MS用溶媒の使用が適しているといえます。
試薬を使用する際にはどのような規格があるのか確認し、目的にあったものを選択することをおすすめします。
表1.アセトニトリルの規格の比較
規格項目 | 試薬特級 | 高速液体クロマトグラフ用 | LC/MS用 | |
---|---|---|---|---|
含量 | (%) | 99.5以上 | 99.8以上 | 99.8以上 |
密度(20℃) | (g/mL) | 0.780~0.784 | 0.780~0.783 | 0.780~0.783 |
屈折率n20D | 1.343~1.346 | 1.343~1.346 | 1.343~1.346 | |
水分 | (%) | 0.1以下 | 0.05以下 | 0.05以下 |
不揮発物 | (%) | 0.005以下 | 0.001以下 | 0.001以下 |
酸(CH3COOHとして) | (%) | 0.01以下 | 0.001以下 | 0.001以下 |
アンモニウム(NH4) | (ppm) | ー | 0.3以下 | 0.3以下 |
過酸化物(H2O2として) | (ppm) | ー | 5以下 | 5以下 |
シアン化水素 | 適合 | ー | ー | |
過マンガン酸還元物質 | (%) | 適合 | 適合 | 適合 |
グラジエント試験 | ー | 適合 | 適合 | |
パーティクル(0.5 µm以上) | (個/mL) | ー | ー | 100以下 |
吸光度 | 200 nm | ー | 0.05以下 | 0.05以下 |
210 nm | ー | 0.03以下 | 0.03以下 | |
220 nm | ー | 0.02以下 | 0.02以下 | |
230 nm | ー | 0.01以下 | 0.01以下 | |
240 nm | ー | 0.005以下 | 0.005以下 | |
蛍光試験 | ー | 適合 | 適合 | |
LC/MS分析適合性試験 | ー | ー | 適合 |