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Talking of LAL連載

【連載】Talking of LAL「第53話 SLP試薬の応用」

本記事は、和光純薬時報 Vol.71 No.4(2003年10月号)において、和光純薬工業 土谷 正和が執筆したものです。

第53話 SLP試薬の応用

今回は、久しぶりに SLP 試薬の登場です。

SLP 試薬は、細菌細胞壁成分の一つであるペプチドグリカンと真菌の細胞壁成分の一つである β-グルカンに反応して、フェノールオキシダーゼの活性を出現させ、最終的にメラニンを生成する試薬です。このメラニン生成を測定することによって、ペプチドグリカンや β-グルカンを定量することが可能です1)

トキシノメーターを使用すると、LAL によるエンドトキシン測定と同様の操作で、これらの物質を測定することができます。今回はこの SLP 試薬を使った研究をいくつか紹介しましょう。

第29話で抗生物質による菌体からのエンドトキシン放出についてご紹介しました2)。すなわち、グラム陰性菌にβ-ラクタム系の抗生物質を作用させると、菌体からエンドトキシンが放出されるというものです。

さて、エンドトキシンを持たないグラム陽性菌ではどのようなことがおこるのでしょう。1998 年に Langevelde らは、Staphylococcus aureus を用いて、各種抗生物質を作用させたときのリポタイコ酸とペプチドグリカンの菌体からの放出と生物活性の比較を行っています3)

その結果、イミペネム、フルクロキサシリンなどの β-ラクタム系の抗生物質は、エリスロマイシン、クリンダマイシンなどの蛋白合成を阻害するタイプの抗生物質に比べて、有意にリポタイコ酸とペプチドグリカンを多く放出させ、ヒト全血を用いた TNF-α 産生実験でも有意に多量の TNF-α を産生させました。

すなわち、グラム陰性菌におけるエンドトキシン放出と同様、グラム陽性菌でも抗生物質による細胞壁成分の放出が起り、これがヒトの免疫系に作用していることが示唆されたわけです。

彼らはこの実験で、ペプチドグリカンの定量に SLP 試薬を用いています。SLP 試薬はペプチドグリカンと β-グルカンに反応しますが、この実験のように β-グルカンの混入を制御できる場合は、ペプチドグリカン測定に SLP 試薬を使用できます。

もう一つ SLP 試薬を用いた論文を紹介します。滋賀医科大学によるアルコール急性投与下におけるバクテリアルトランスロケーション(Bacterial Translocation, BT)に関する研究です4)

本題に入る前に、BTについて少し説明しましょう5)。一般的に、正常な消化管粘膜は、細菌を通さない構造とされています。しかし、放射線照射、外傷、熱傷、エンドトキシンの投与、出血性ショックなどで、解剖学的に変化が見られない消化管において非病原性の微生物が消化管粘膜上皮層を通過し、体内に侵入することが観察されています。このような現象を「バクテリアルトランスロケーション」と呼んでいます。

実際に、マウスを用いた実験では、種々の条件でBTが起ることが報告されており、多くの研究者がヒトでも BT が起ることを支持しています。しかし、ヒトでの BT の証明は難しく、いろいろな意見があり、いまだに論争があるようです。

Tabata ら4)は、ラットにエタノールを投与し、血中の細菌数測定、エンドトキシン試験、β-グルカン試験、SLP 試験を行っています。その結果、20% エタノール投与で BT が観察され、同時に SLP 試験の測定値が上昇しました。

β-グルカンの値は上昇しなかったことから、SLP に反応した物質はペプチドグリカンである可能性が高いと考えられます。彼らは、慢性アルコール性肝臓障害の原因の一つとして、アルコールによる BT が考えられるとしています。

この研究のように、試料にペプチドグリカンと β-グルカンの両方が入ってくる可能性のある場合、β-グルカンも同時に測定することにより、試料中の物質を推定することができる場合があります。

最近、ペプチドグリカンの活性が見直されてきており、これを測定するという要望が高まっています。SLP 試薬は、β-グルカンにも反応するため、その測定結果の解釈に工夫が必要ですが、他に簡便な測定法がないことを考えると、有用なペプチドグリカン測定方法と考えることができます。ペプチドグリカン測定が必要な場合は、是非 SLP 試薬をおためし下さい。

参考文献

1) Tsuchiya, M. et al.: FEMS Immunol. Med. Microbiol., 15, 129-134(1996).
2) 土谷正和:和光純薬時報, 65(4),18(1997).
3) Langevelde, P. V. et al.: Antimicrob. Agents Chemother., 42, 3073-3078(1998).
4) Tabata, T. et al.: J. Gastroenterol., 37, 726-731(2002).
5) 谷徹編:「バクテリアルトランスロケーション」(小玉正智監修),(メジカルセンス)(1998).

第54話 リムルス試験の将来

第52話 エンドトキシンの種類

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