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【連載】Talking of LAL「第52話 エンドトキシンの種類」

本記事は、和光純薬時報 Vol.71 No.3(2003年7月号)において、和光純薬工業 土谷 正和が執筆したものです。

第52話 エンドトキシンの種類

今回は、エンドトキシンの種類について、リムルス試験の観点から考えてみましょう。

エンドトキシンの研究は、臨床的に重要な細菌について進められてきました。実際、現在使用されているエンドトキシン標準品は大腸菌やサルモネラ菌由来のものです。例えば、日本薬局方では Escherichia coli UKT-B 株由来の、米国薬局方では Escherichia coli O113 株由来の、欧州薬局方では Salmonella abortusequi 由来の LPS をエンドトキシン標準品に使用しています。

しかし、医薬品や医療用具に混入するエンドトキシン汚染源としての細菌は、必ずしも臨床上重要な菌とは限らず、水棲細菌や土壌細菌が大きな比率を占めていると思われます。この観点から、医薬品等の安全性試験に使用する標準エンドトキシンは Pseudomonas のような水中によく見られる菌から取るべきではないかとの意見があるようです。

以前にもご紹介したように、種々の乾燥菌体は、様々なリムルス反応性を示します1)

図1は、筆者らが測定したグラム陰性菌乾燥菌体のリムルス試薬に対する反応性の一例です。CytophagaFlavobacteriumSphingobacteriumSphingomonas で非常に低い活性が認められます。その他の菌は、乾燥菌体 1µgあたりのエンドトキシン活性が 10 から 1000EU の範囲に入っています。すなわち、グラム陰性菌の中に2つのグループがあって、その一つは非常に低い活性を示します。

グラム陰性菌乾燥菌体のリムルス試薬に対する反応性の一例

グラム陰性菌であるにもかかわらず菌体がリムルス試薬に反応しにくい原因として、いくつかの原因が考えられます。

一つは、細胞壁成分が LPS 以外の成分で構成されている場合です。SphingobacteriumSphingomonas は、その細胞壁にスフィンゴリピドを多く含んでいることがわかっています。CytophagaFlavobacteriumSphingomonas は遺伝子的に近い菌種なので、細胞壁の成分が他のグラム陰性菌と大きく違うことがこれらのエンドトキシン活性の低さの原因かもしれません。

二つ目の原因として、菌体の構造、特に莢膜の有無です。莢膜がある菌体は、その際防壁が外界と接触しにくいため、リムルス試薬とも反応しにくい場合が考えられます。

三つ目は、エンドトキシン自体の活性が菌によって違う場合です。LPS の活性中心と考えられるリピド A の構造は菌種によって異りますから、そのエンドトキシン活性が異る場合があることは理解できます。

精製したエンドトキシンの場合、その存在状態によって大きく活性が変化します2)。以前から溶液中のエンドトキシンの分散性を高める目的で、アルブミン、トリエチルアミン、糖アルコールなどが使われてきました。

界面活性剤はエンドトキシンの分散を良くしますが、モノマー単位まで分散させたエンドトキシンの生物活性は非常に低いことが知られています。また、エンドトキシンの水懸濁液を超音波処理すると活性が変化することが知られています。実際、筆者らも超音波処理でエンドトキシン溶液の活性が 10 倍以上上昇した例を経験しています。

さて、リムルス試験で測定するエンドトキシンの活性とはどのようなものでしょう。この話題は以前にも取り上げました3, 4)、リムルス試験で検出できるエンドトキシン活性は、測定時の存在状態における活性であって、決してエンドトキシンの絶対量を測定しているわけではありません。

これは、未知の試料の場合、リムルス試験の結果からエンドトキシン量や菌体量を推測することが困難であることを示唆しています。この観点からすると、リムルス試験はある標準品に対比して試料中のエンドトキシン活性がどの程度であるかを知るための試薬と考えることができます。

筆者は、医薬品等の安全性試験の場合、ウサギ発熱試験とリムルス試験の比較データを基に基準作りが行われていることから、確立された標準品があれば(由来菌にかかわらず)特に問題はないと思います。もちろん、試料中に混入するエンドトキシンの種類や状態、菌の種類などの情報があれば、絶対量の推定も可能と思われます。その場合は、試料中に混入してくるエンドトキシンの種類や状態を常に意識し、状況に適した標準や測定条件を考える必要があると思います。

参考文献

  1. 土谷正和:和光純薬時報,66(1),16(1998).
  2. 丹羽允:「内毒素-その構造と活性-」(本間遜監修),p.124,(医歯薬出版)(1983).
  3. 土谷正和:和光純薬時報,64(1),16(1996).
  4. 土谷正和:和光純薬時報,64(2),16(1996).

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