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【連載】Talking of LAL「第44話 試料の希釈液」

本記事は、和光純薬時報 Vol.69 No.3(2001年7月号)において、和光純薬工業 土谷 正和が執筆したものです。

第44話 試料の希釈液

エンドトキシンの活性が µM オーダーの鉄・アルミニウム・ガリウムで低下することは、これまでに何度か触れてきました。エンドトキシン試験を実際に行うとき、このような金属イオンの含まれた水や試料を用いたために、見かけのエンドトキシン回収率が低くなり、反応干渉因子試験がうまくいかないことがあります。

今回は、この現象の解釈と回避方法について考えてみましょう。

まず、金属イオンによってエンドトキシン活性が低下するという現象(Talking of LAL 第 10 話1))についておさらいしてみましょう。

80µM 塩化第 2 鉄溶液を等量のエンドトキシン溶液と混合し、トキシノメーターでエンドトキシンを測定したところ(方法 1)、その回収率は 13.4% でした。ところが、リムルス試薬に 50µL の 80µM 塩化第 2 鉄溶液を添加し、直ちに 50µL のエンドトキシン溶液を添加してエンドトキシンを測定した場合は(方法 2)、その回収率は 88.9% でした。

反応液中の構成成分は両測定で同じですから、方法 2 で回収率が約 90% であったことを考えると、試料がリムルス試薬の活性化反応に影響を与えているとは考えられません。すなわち、方法 1 で回収率が低い現象は、エンドトキシンの活性が低下していると考えられるわけです。

同様の結果が塩化アルミニウム、硫酸第 1 鉄、塩化ガリウムで認められましたが、塩化カルシウム、塩化マグネシウムではこのような変化は起こりませんでした。

さて、みなさんは、反応干渉因子試験を行うための測定条件(主に試料の希釈倍率)がなかなか決まらないという経験をお持ちではないでしょうか。このとき、試料がエンドトキシンの活性を変化させている可能性も考えてみる必要があります。

方法 2 でエンドトキシンの添加回収率を調べてみると、意外と低い希釈倍率で影響がないことが確かめられる場合があります。しかし、局方に記載されている方法は「方法 1」と同じ方法なので、「方法 2」で反応干渉因子試験を行ってよいかどうかは意見の異なるところです。

そこで、何とか「方法 2」で決めた測定条件で「方法 1」による反応干渉因子試験を成功させる方法を考えてみましょう。

一つ目は、「方法 1」で試料にエンドトキシンを添加してから測定するまでの時間を規定する方法です。試料によるエンドトキシン活性の低下は経時的に起こる場合が多いので、エンドトキシン添加後素早く測定することで、回収率を規格内に納めようという試みです。

局方の規格も回収率が 50% から 200% の間と比較的広くなっていますから、この方法でも試験が可能と思われます。この方法のポイントは、「方法 2」で試料が試薬の反応に影響を与えない希釈条件を決めておくということです。

図1.金属イオンと共存した場合のエンドトキシン活性に対する各種緩衝液の影響

二つ目は、適当な緩衝液を用いて試料の希釈を行うことです。筆者らの研究室の高岡が、金属イオンの影響を回避するための緩衝液を検討しています(図1)2)

各緩衝液の濃度は、Tris 塩酸緩衝液が 25mM、その他の緩衝液は 50mMで使用しています。pH は 7.4 にあわせています。緩衝液を入れない系では、以前の結果と同じく1µM の鉄・ガリウム、10µM のアルミニウムでエンドトキシン活性は 40% 以下まで低下しました。

リン酸(Phosphate)緩衝液、Tris 塩酸緩衝液、各種グッド緩衝液の中で、どの金属イオンが共存しても 50% から 200% の回収率を示したものは、リン酸緩衝液と BES 緩衝液でした。すなわち、試料の希釈をリン酸緩衝液や BES 緩衝液で行うと金属イオンの影響なくエンドトキシン試験ができる可能性があります。

実際の試料ではエンドトキシンへの影響がこれらの金属イオンによって起こっているとは限らないので、使用する緩衝液を探し出す必要があると思いますが、リン酸緩衝液と BES 緩衝液はまず試してみる価値があると思います。

今回考えた方法は、局方の反応干渉因子試験に試料を適応させる対症療法的な対策です。試料が標準エンドトキシンの活性を低下させる性質を持つとき、その試料から検出されたエンドトキシン活性をどのように評価するかという疑問は残ります。

添加したエンドトキシン活性が、緩衝液を添加しないなら 20% まで低下するとしたら、試料中から検出されたエンドトキシン活性は 5 倍に評価するべきでしょうか。エンドトキシン活性が可逆的に変化すること、標準的なエンドトキシンの存在状態・活性が定められていないことなどを考えると、どちらが正しいかは決められないというのが現状かと思います。

私たちにできることは、測定系への影響が許容できる範囲で測定を実施するということだと思います。

参考文献

  1. 和光純薬時報 vol.61 No.1,p. 12、和光純薬(1993).
  2. 高岡 文 他:日本防菌防黴学会第 28 回年次大会要旨集,p 157 (2001).

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