【連載】Talking of LAL「第10話 薬剤の影響(3)」
本記事は、和光純薬時報 Vol.61 No.1(1993年1月号)において、和光純薬工業 土谷 正和が執筆したものです。
第10話 薬剤の影響(3)
第 8 話及び第 9 話では、実際に薬剤のエンドトキシン試験を行う場合を考えてきました。今回は、試料がリムルステストに与える影響について、少し深く考えてみたいと思います。
第 6 話で述べたとおり、試料の測定への影響の様式は以下の 3 種類に分けることができると思われます。
① リムルス試薬(LAL)の活性化に影響を与えるもの
② 試料がエンドトキシンの物性に影響を与えるもの
③ 主反応以外の測定系に影響を与えるもの
薬剤で認められる多くの影響は、薬剤が LAL の酵素系に影響を与える①と思われます。しかし、一部の薬剤は明らかにエンドトキシンの物性に影響を与えており、測定のバリデーション等で問題になることがあります。たとえば、薬剤の LAL の酵素系への影響が考えられないにもかかわらず、エンドトキシンの添加回収率がよくないという場合です。今回は、このような②の影響について考えてみましょう。
筆者らは、鉄・アルミニウム等の金属イオンで、試料がエンドトキシンの活性にのみ影響を与える例を経験しております1)。すなわち、これらの金属塩溶液は数十µM 程度の濃度でエンドトキシンの活性を低下させるが、LAL の酵素系への影響はないと考えられる結果を得たのです。その実験方法について説明しましょう。
通常のエンドトキシン添加回収試験では、試料にエンドトキシンを添加した後、LAL と混合して測定を行います。この方法で、40µM の鉄塩及び 20µM のアルミニウム塩の、エンドトキシン添加回収試験を行ったところ、いずれの回収率も 30% 以下となりました(表1)。
µM オーダーという低い濃度の金属イオンが LAL の酵素を阻害するとは考えにくかったため、次の実験を行いました。すなわち、金属塩溶液をまず LAL に添加し、その後エンドトキシン溶液を加えて測定を行ったのです。もし、エンドトキシンが LAL の酵素系に影響を与えるのであれば、どちらの試料調製方法でも影響が現れるはずです。
ところが、この時のエンドトキシン回収率は 88~114% となり、測定への影響は認められませんでした(表1)。これらの実験の違いは、エンドトキシンが試料と先に接触するか、LAL と先に接触するかです。もちろん、試料を LAL と混合することによって試料濃度が低くなり、エンドトキシンへの影響がなくなったとも考えられます。しかし、実際は数 µM の金属塩溶液でもエンドトキシン活性の低下が認められ、この考え方は支持されませんでした。
結局、「試料は、エンドトキシンに何らかの影響を与え活性を変化させるが、LAL の酵素系には影響を与えない」と考えると、この現象がうまく説明できるように思われます。この場合、エンドトキシンは金属イオンより LAL と反応しやすい必要があります。このことから、金属イオンのエンドトキシンに対する影響が蛋白によって緩和されることや、LAL 中の Factor C(エンドトキシン感受性物質)とエンドトキシンの親和力が非常に強いことなどが想像されます。
この実験方法で、試料がエンドトキシンに影響を与える物質をすべて検出できるわけではありません。しかし、試料を先にエンドトキシンと混合したときのみ影響が認められた場合は、試料が少なくともエンドトキシン自身に、何らかの影響を及ぼしていると考えることができます。
エンドトキシン標準品を扱う場合には、エンドトキシンに影響を与える物質の混入に注意が必要です。エンドトキシン標準品の活性が変わってしまっては、測定そのものが成り立ちません。筆者らも、軟質ガラスからの溶出物によると思われるエンドトキシン標準品の活性低下を経験しております。また、金属製の器具を長時間エンドトキシン溶液に漬けると、エンドトキシンの活性が低下することがあります。
一方、エンドトキシンの活性に影響を与える試料に混入した天然のエンドトキシンは、すでに影響を受けた状態で存在していると考えられます。この活性が環境の変化によって変わらなければよいのですが、精製したエンドトキシンの活性が超音波処理や凍結乾燥などの処理で容易に変わることを考えれば、条件によっては活性の変化が起こる可能性があります。
それでは、どの状態の活性を標準とするべきでしょうか。この問題は難しく、おそらく回答は得られないと思われます。とりあえず、測定の目的によって個々の基準を設定し、標準化を行う必要があるのではないでしょうか。
試料の影響の種類を知ることは、試料の測定条件のバリデーションに必須というわけではありません。試料の影響は希釈等によって除けるので、その影響がどのような種類であっても、規定された条件を満たせば、測定可能と判断されます。しかし、影響の種類を知ることで、試料の適切な測定条件の設定が容易になると思われます。
参考文献
- 土谷正和:防菌防黴, 18, 287-294 (1990).