【連載】Talking of LAL「第45話 エンドトキシンに結合する血漿成分」
本記事は、和光純薬時報 Vol.69 No.4(2001年10月号)において、和光純薬工業 土谷 正和が執筆したものです。
第45話 エンドトキシンに結合する血漿成分
エンドトキシンの生物活性についてはこれまでもいろいろな面から取り上げてきました。エンドトキシンの生物活性を考える時、血液中の成分による修飾を考える必要があります。この修飾の一つにエンドトキシンに結合する血漿成分があり、これらの成分はリムルス試験を行う上でも重要になる場合があります。
今回は、エンドトキシンに結合する血漿成分について考えてみましょう。
エンドトキシンに結合する血漿成分としては、血清アルブミン、補体成分(C1 や C3)、血液凝固系の第XII因子(ハーゲマン因子)、リゾチーム、HDL、LDL などの正常血漿蛋白、LPS 結合蛋白(LBP)、マンノース結合蛋白、免疫グロブリンなど刺激によって産生される蛋白が挙げられます1)。
Levels ら は、4,4-dufluoro-4-bora3n,4n-diaza-S-indacene(BODIPYR6G, Molecular Probes Inc., Oreg. USA)で蛍光ラベルした E. coli O111:B4 由来 LPS や 7-nitrobenz-2-oxa-1,3 diazole fluoride (NBD-F, Molecular Probes)で蛍光ラベルした E. coli J5 (Rc)及び Salmonella servar typhimurium Re595 由来の LPS を用いて、健常人全血中における LPS の蛋白への結合状態を報告しています 2)。
その結果、10 人のボランティアの全血において、LPS は、60%(± 8%)が HDL に、25%(± 7%)が LDL に、12%(±5%)が VLDL に結合していました。分析には HPLC を用いています。
一方、Vreugdenhil らは、ビオチンでラベルした LPS 及び LBP を用いて、その血液中での分布を調べています3)。その結果、血液中の LPS 及び LBP は LDL 及 び VLDL に結合しており、HDL にはほとんど結合していませんでした。
また、apoB は LPS と LBP 両方に結合する部位を持っており、これが LDL や VLDL と LPS/LBP との結合に関係していると考察しています。LBP 濃度が上がっている敗血症患者の血清でも、LBP/LPS は LDL/VLDL に主に結合していました。分析には、主にアガロース電気泳動とウエスタンブロット法を用いています。
これら 2 つの論文の結論は乖離しているように思われます。この結果の違いはどこから来ているのでしょう。LPS のラベル方法が違うからでしょうか。LPS の種類が違うからでしょうか。分離方法や検出方法が違うからでしょうか。筆者がその答えを持っているわけでは、もちろんありません。
LPS が血流中に入ると LBP に結合し、CD14 との親和性が上昇し、白血球上の Toll Like Receptor 4 に受け渡され、細胞内へのシグナル伝達が行われることによりサイトカインなどが発現するという構図は、最近明らかにされつつある重要な成果の一つです。
しかし、このメインストリームを修飾する種々の物質が血液中にはあり、エンドトキシンの生物活性の解明にはこれらの物質の影響もさらに研究が必要でしょう。エンドトキシンが最もよく結合するリポ蛋白はどれかという話一つとっても、Levels らと Vreugdenhil らで意見が異なるようですし、ここに LBP が関わってくるとなるとますます話が複雑になってきます。
エンドトキシンに結合する物質といっても、エンドトキシンの活性に影響を与える物質と与えない物質、特異的に結合する物質と非特異的に結合する物質があります。また、エンドトキシンに特異的に結合する LBP はサイトカインの産生は促進するかもしれませんが、リムルス活性は阻害するとの報告があり、活性の種類によって影響が異なる場合も考えられます。
非特異的結合だからといって、活性の修飾を考える上で重要でないとはいえません。この怪人百面相のような多様性がエンドトキシンの魅力でもあるわけですが、エンドトキシンの生物活性を理解するためには、この複雑な構図を一つ一つ明らかにしていかなければなりません。
このエンドトキシン複雑系を解明していくために現在もいろいろな試みがなされており、今後の進展が期待されます。また、そのテーマは意外と身近なところにあるかもしれません。あなたは、Levels らの HDL 派ですか、それとも、Vreugdenhil らの LDL 派ですか。
参考文献
- 遠藤重厚、稲田捷也:「エンドトキシンと病体」、p. 60(へるす出版)(1995).
- Levels, J. H. M. et al.: Infect. Immun., 69, 2821(2001).
- Vreugdenhil, A. C. E. et al.: J. Clin. Invest., 107, 225(2001).