【連載】Talking of LAL「第46話 最近のカブトガニ事情」
本記事は、和光純薬時報 Vol.70 No.1(2002年1月号)において、和光純薬工業 土谷 正和が執筆したものです。
第46話 最近のカブトガニ事情
ご存じのようにリムルス試薬(LAL)は、カブトガニの血球から製造されます。カブトガニはアメリカ大陸の東側及びアジア大陸の東側に生息しており、アメリカの Limulus 属とアジアの 3 種類の Tachypleus 属の 4 種類が知られています。和光純薬の LAL 製品の原料は、アメリカカブトガニから製造されています。
今回は LAL の原料であるカブトガニのアメリカ事情をご紹介しましょう。
LAL 製造方法は、各メーカーで異なりますが、基本的には「カブトガニの血球を取り出して浸透圧差で内容物を抽出する」というものです。カブトガニからは心臓採血で血リンパ液を採取し、血球を集めます。カブトガニは開放血管系を有するため、採血された後も臓器内に血液が残るため、この採血で死ぬというわけではありません。実際、アメリカの LAL 製造業者は、採血後のカブトガニを海に返しています。
最近、アメリカの National Marine Fisheries Service (NMFS)と National Oceanic and Atomospheric Administration (NOAA)は「デラウエア湾の河口半径 30 海里の海域でカブトガニの捕獲を禁止する。」旨の規定を Federal Register に掲載しました 1)。
この目的はカブトガニの生息数を減らさないようにするためですが、なぜカブトガニの生息数が問題になっているのでしょう。その理由は、渡り鳥です。渡り鳥はデラウエア湾で休息をとるそうです。そのときの餌が、なんとカブトガニの卵だそうで、ここで十分餌を食べて休養をとった後、さらに目的地へと旅立つそうです。
さて、そのカブトガニですが、実は LAL を製造するためよりも遙かに多い数のカブトガニが捕獲され、ウナギや貝の餌として殺されているのです。カブトガニが減ると海岸の卵が減る。卵が減ると渡り鳥が困る。ということで、野鳥の保護団体等の働きもあって、このような規定ができてきたということのようです。
すでに、アメリカ東海岸の各州でも、餌のためのカブトガニの捕獲制限を始めているようで、漁師もカブトガニを捕獲する量を年々減らされているようです。1999 年には 250 万匹ものカブトガニが餌として捕獲されていたとのデータもあるようで、これを年々減らしていく計画が進行しているようです。
これらの規制に LAL 製造用のカブトガニは含まれていないようですが、LAL 用に捕獲する業者は別に捕獲に関する条件や報告義務が課せられています。「LAL は必要だからカブトガニは捕ってもよいけれど、無理な取り方をせず、ちゃんと生きたまま返しなさいよ」というところかもしれません。
カブトガニは、前述のように心臓採血でも死にませんが、弱っているときに水が汚かったりすると死んでしまいます。日本のように、水質汚染や干拓などの環境変化で生息数が激減する場合もあり、水質規制や自然保護の遅れているアジア産カブトガニも心配です。
LAL を用いたエンドトキシン試験法の国際調和も行われ、LAL の重要性はますます高まってきています。アメリカで養殖されているウナギは、主に日本向けだそうです。カブトガニの数が減らないよう、我々も何かするべきなのでしょうか。でも、ウナギはおいしいですよね。
参考文献
- Federal Register, 66, 8906-8911(2001).