【連載】Talking of LAL「第43話 LAL の特異性をもう一度」
本記事は、和光純薬時報 Vol.69 No.2(2001年4月号)において、和光純薬工業 土谷 正和が執筆したものです。
第43話 LAL の特異性をもう一度
今回の話題は、LAL の特異性です。このテーマについては、このシリーズでも「第 3 話 LAL の特異性」1) や「第 17 話エンドトキシン特異的試薬」2) などで取り上げてきました。
今回、2000 年に発行された米国薬局方 2nd Supplement に掲載された「Bacterial Endotoxins Test」に LAL の特異性に関する記載が追加されたので、もう一度エンドトキシン試験における LAL の特異性について考えてみたいと思います。
これまで米国の FDA は、LAL の特異性にあまり関心を示してきませんでした。1992 年に発行された Memorandum3)でも、FDA は、LAL にエンドトキシン以外の物質(LALReactive material, LAL-RM)が反応することを認めながらも、「医薬品にはこれらの物質の混入は少なく、医療用具のように混入の報告されているものでも試験結果が偽陽性となる程度と考えられるため、実際の問題ではない」との見解を示しています。
しかし、2000 年の米国薬局方 2nd Supplement では、「LAL 試薬はエンドトキシンだけでなくある種の β-グルカンに反応する。いくらかの処理された試薬は β-グルカンに反応せず、グルカンを含む試料にはこれを使用しなければならない。」との記載が見られ、FDA の姿勢に変化が見られます。
この背景には、局方の国際調和が進められているということがあると思います。エンドトキシン試験法については、日本薬局方が原案作成を担当しており、最終案の段階にきていると聞いています。
β- グルカンの影響を受けずにエンドトキシンを測定できる試薬としては、リムルス ES-II テストワコー(和光純薬)やエンドスペシー(生化学工業)などがあります。米国の BioWhittaker 社の LAL は比較的 β-グルカンに対する反応性が低かったのですが、ロットによってその強さが異なるため、エンドトキシン特異的試薬とはいえませんでした。最近では、内容や原理は明らかではありませんが、米国の各社が β-グルカンブロッカーを発売しているとのことです。
LAL の反応性に関する研究や認識は、従来より欧米と日本でギャップがありました。Kakinuma ら4)や Morita ら5)が、β-グルカンの LAL に対する反応性を報告した 1981 年頃はもとより、日本でエンドトキシン特異的試薬が広く使われだした 1980 年代後半から 1990 年代初期にかけても、前述の FDA だけでなく米国の LAL メーカーや LAL に関連した分野の研究者も、LAL が β-グルカンに反応することの重大さをあまり認識していなかったと思われます。
もちろん、FDA の Memorandum に述べられたように、β-グルカンの試料への混入のデメリットは偽陽性ですから、医薬品等の管理の面から見ると問題がないように思われます。しかし、医薬品や医療用具への β-グルカンの混入の頻度は低くなく、特に血液製剤などセルロース系のフィルターを製造時に使用する薬剤では β-グルカンの混入が高頻度に認められます。
β-グルカンの混入についてはロットや製品によって異なると考えられるため、β-グルカンにも反応する LAL を使用していると、製品の歩留まりが安定せず、製品の工程管理の面から問題が生じます。今回の米国薬局方の姿勢の変化は、医薬品や医療用具への β-グルカン混入が予想以上に多かったことも影響しているのではないでしょうか。
ともあれ、これまで日本人の研究者が主張してきたエンドトキシン特異的試薬の使用が米国でも認められたことは、喜ばしいことと思われます。今後も、適切な試薬と手法を用いて、適切なエンドトキシン試験が行えるよう、日本から情報を発信したいものです。
参考文献
- 土谷正和:Talking of LAL, Wako News No.4(1991).
- 土谷正和:Talking of LAL, 和光純薬時報 Vol. 62 No. 4 (1994).
- Statement Concerning Glucans and LAL-Reactive Material in Pharmaceuticals and Medical Devices, Food and Drug Adm. (1992).
- Kakinuma, A. et al.: Biochem. Biophys. Res. Commun., 101, 434 (1981).
- Morita, T. et al.: FEBS Lett., 129, 318(1981).