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【テクニカルレポート】新規アフィニティーエクソソーム精製法とエクソソーム高感度検出への応用

本記事は、和光純薬時報 Vol.85 No.1(2017年1月号)において、和光純薬工業 ライフサイエンス研究所 今若 直子が執筆したものです。

はじめに

エクソソームとは、さまざまな細胞から放出される直径 30-100nm の膜小胞であり、エクソソームが内包する mRNA、microRNA などの核酸やタンパク質を離れた細胞に受け渡す機能を有することが明らかとなっており、細胞間情報伝達におけるコミュニケーションツールとしての役割やがんを含むさまざまな疾患におけるバイオマーカーとして関心が高まっている 1, 2)。それ故、ここ数年でさまざまな研究分野においてエクソソーム研究が広がってきているが、現状のエクソソーム実験技術は発展途上であり、改善すべき課題が多く存在する。

例えば、エクソソーム精製方法において、超遠心分離やポリマー沈殿法(市販キット)では、多くの夾雑物が混入することにより、後の実験に多大な支障を生じることが明らかとなっている。一方、抗体アフィニティーや密度勾配遠心を用いた方法では、高純度なエクソソームの精製は可能であるものの、インタクトな状態のエクソソームを精製することができず、エクソソームが持つ本来の生理機能を解析できないといった問題点があげられる。

さらに、エクソソームを検出する方法としては、ウエスタンブロットや ELISA が広く一般的に用いられるが、多量のエクソソームを必要とすることや発現量の少ないマーカータンパク質の検出が困難であるといった問題点が生じている。

そこで本稿では、これらエクソソーム実験技術におけるさまざまな課題を解決するために我々が新たに開発した新規エクソソーム解析ツールについて説明する。

ホスファチジルセリンアフィニティーを用いた新規エクソソーム精製法

エクソソーム膜は分泌細胞由来のタンパク質や脂質を含んでいるが、その中でもホスファチジルセリン(PS)は、生細胞ではフリッパーゼという酵素の働きによって細胞膜の内側に配向しているのに対して、エクソソームでは膜の外側にも露出していることが知られている 3)

また、マクロファージによるアポトーシス細胞の貪食受容体として知られる T-cell immunoglobulin domain and mucin domain-containing protein 4(Tim4)タンパク質は、細胞外領域にある IgV ドメインを介してカルシウムイオン依存的に PS と結合することがわかっている 4)

以上の知見をもとに、我々は Tim4 を固相化した磁気ビーズを用い、カルシウムイオン存在下で培養上清や血清などのサンプル中のエクソソームを捕捉し、キレート剤を添加することによってエクソソームを精製することができる、既存の手法とは一線を画す新たなエクソソーム精製法を金沢大学医学系免疫学の華山教授と共同で開発し、キット化に成功した 5)

なお、このエクソソーム精製キットである MagCapture™ Exosome Isolation Kit PS は、従来のエクソソーム精製法よりも高純度なエクソソームをインタクトな状態で簡便に精製することを実現しており、これまでゴールドスタンダードとされてきた超遠心法に置き換わる新たなエクソソーム精製法として確立されつつある(図 1)。

図1.MagCapture Exosome Isolation Kit PS と従来の精製法の比較

PS Capture™ Exosome ELISA Kitの特長と使用例

今回我々は、Tim4 タンパク質が PS を介してエクソソームとアフィニティー結合する仕組みを ELISA に応用し、PS Capture™ Exosome ELISA Kit を開発した。本キットは、エクソソーム表面マーカー抗体を固相化する従来の ELISA 法より高感度にエクソソームを検出することができる。方法としては、Tim4 タンパク質を固相化したドライプレートに培養上清や血清などのエクソソーム含有サンプルを添加し、カルシウムイオン存在下でエクソソームを捕捉させ、エクソソーム表面マーカータンパク質に対する一次抗体反応及び二次抗体によりエクソソーム検出を行う(図 2)。

図2.Exosome ELISAキット原理図

なお、キットにはマウス抗 CD63 モノクローナル抗体を一次抗体として添付しているが、それ以外のエクソソーム表面マーカーを測定するのであれば、マウス由来の一次抗体を用意することでエクソソームの検出が可能である。

本キットの最大の特長は、ウエスタンブロットや既存の Exosome ELISA 製品よりも高感度なエクソソーム検出を実現していることである。まず始めに、本キットとウエスタンブロットの検出感度を比較するために、ウエスタンブロットにおけるエクソソーム検出限界を調べた(図 3a)。

結果、ヒト結腸腺がん細胞である COLO201 細胞由来精製エクソソームをサンプルに用いて抗 CD63 モノクローナル抗体によるウエスタンブロットを行ったところ、タンパク質量で 75ng のエクソソームまで検出できた。

次に、本キットを用いて白血病由来細胞株である K562 細胞及び COLO201 細胞由来精製エクソソームの ELISA 検出限界を調べたところ、K562 細胞由来精製エクソソームの検出限界が 49.9pg、COLO201 細胞由来精製エクソソームの検出限界が 10.9pg であり、ウエスタンブロットの実に 1,000 倍以上の検出感度を有することが明らかとなった(図 3b)。

図3.ウエスタンブロットとELISAの検出感度比較

また、既存の Exosome ELISA 製品の感度が、数 ng 〜数μ g 程度(各製品マニュアルなど参照)であることからも、Tim4 タンパク質と PS を介したアフィニティー結合を利用した本キットは、従来のエクソソーム表面マーカー抗体を固相化する ELISA 法と比較して 100 倍以上高感度であることが示された。

最後に、本キットの使用例として各種細胞由来エクソソームの表面マーカータンパク質の発現プロファイリングを行った。13 種類の細胞培養上清からエクソソームを精製し、各精製エクソソーム 1ng を用いて、エクソソームマーカータンパク質である CD9、CD63、CD81 抗体による ELISA 検出を行った(図 4)。

図4.各種細胞のエクソソームマーカータンパク質発現解析

その結果、各エクソソームにおけるマーカータンパク質の存在比は由来細胞ごとに異なっていることが明らかとなった。ある種の細胞株では特定のマーカータンパク質が存在しないエクソソームを分泌しており、エクソソームの heterogeneity の高さを鮮明とするデータが、本キットを用いた ELISA により明らかにされた。

おわりに

以上のように、Tim4 タンパク質の PS アフィニティー性能を利用した MagCapture™ Exosome Isolation Kit PS は、従来法より高純度かつ簡便にエクソソーム精製を実現し、PS Capture™ Exosome ELISA Kit は、高感度なエクソソーム検出を可能とする画期的な製品である。そのため、本キットを用いることにより、従来法では不純物の混入により見逃されていたエクソソーム中のマーカータンパク質の同定や、これまでウエスタンブロットや既存の Exosome ELISA 製品では検出が困難であった微量な表面マーカーを検出できる可能性が期待される。今後も当社では Tim4 タンパク質の PS アフィニティー性能を利用したエクソソーム研究関連試薬を開発する予定であり、それら製品がエクソソーム研究の発展に貢献できることを切に願う。

参考文献

  1. Tkach, M. et al. : Cell, 164, 1226 (2016).
  2. Raimondo, F. et al . : Proteomics, 11, 709(2011).
  3. Trajkovic, K. et al. : Science, 319 (5867), 1244 (2008).
  4. Miyanishi, M. et al. : Nature, 450, 435 (2007).
  5. Nakai, W. et al. : Sci. Rep., 6, 33935 (2016).

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