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【総説】免疫系におけるエクソソームの役割

本記事は、和光純薬時報 Vol.84 No.1(2016年1月号)において、金沢大学医学系免疫学 華山 力成先生に執筆いただいたものです。

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はじめに

私達の体の中では、約60兆個もの細胞が互いに連絡を取り合い、情報を交換し合うことで私達の生命活動を支えている。その中でも近年、様々な細胞がエクソソームと呼ばれる直径 30-100 nm の小型膜小胞を放出することにより、情報を伝達する可能性が注目されている。

エクソソームは脂質二重膜で囲まれた膜小胞で、多胞性エンドソームと呼ばれる細胞内小胞の中で産生され、多胞性エンドソームが細胞膜と融合することにより細胞外へと放出される(図1)。

図1.免疫系におけるエクソソームの役割

エクソソームには、エンドソーム由来の蛋白質(ESCRTsやTSG101など)や細胞内輸送に関与する蛋白質(Rab GTPaseなど)、細胞膜由来の蛋白質(CD63、CD81など)をはじめ様々な分泌細胞由来の蛋白質が含まれているとともに、分泌細胞の細胞膜やエンドソーム膜由来の脂質(コレステロールやスフィンゴミエリンなど)が含まれている1)

長年エクソソームはこれらの細胞内成分を不要物として細胞外へと放出する為の機構として考えられてきたが、近年、分泌細胞と標的細胞との間で様々な蛋白質や脂質を交換する重要な媒体であることが明らかとなっている。特に、免疫細胞由来のエクソソームには抗原ペプチド/MHC複合体や様々な抗原が含まれていることが示されており、免疫細胞間での抗原情報の交換や、免疫細胞の活性化・不活性化など様々な免疫応答を制御する可能性が示されている(図1)。

更に、エクソソーム内には、分泌細胞由来のmRNAやmiRNAが存在することが明らかとなり、細胞間における遺伝子発現情報の伝播や制御に関与する可能性が注目されている。そこで本稿では、免疫系におけるエクソソームの役割に焦点を当て、これまでの知見と今後の将来展望を説明する。

抗原提示におけるエクソソームの役割

免疫系において最も活発にエクソソームを分泌している細胞は樹状細胞である。樹状細胞は抗原提示細胞の一種で、体内に侵入してきた細菌などの異物をファゴソームに取り込み、抗原ペプチドまで断片化した後、MHCクラスⅡ分子に載せ細胞表面上に提示することでT細胞を活性化する細胞である。

一方、細胞内の抗原ペプチドはMHCクラスⅠ分子により提示されるが、樹状細胞が分泌するエクソソームにはMHCクラスⅠ、クラスⅡ双方が載っており(図2)、それぞれ抗原特異的なCD8+細胞傷害性T細胞やCD4+ヘルパーT細胞のT細胞受容体と結合することにより、樹状細胞から離れた場所においてもT細胞を活性化することが可能である。

しかし、エクソソーム表面には、T細胞の活性化に重要な共刺激分子の発現が樹状細胞表面と比べて低い為、樹状細胞が直接T細胞に接して活性化する場合に比べ、活性化能が5-10%程と低くなっている。また、エクソソームは抗原ペプチド/MHC複合体を運ぶことにより、このような直接的な抗原提示機能を担うだけではなく、他の抗原提示細胞にエクソソームが取り込まれることにより、その細胞内のMHC分子へと抗原を受け渡し、間接的に抗原提示を促進することも可能である2)

更にエクソソームは、抗原ペプチド/MHC複合体以外にも、分泌細胞由来の様々な抗原を含んでおり、抗原提示細胞へと運搬することが明らかになっている(図2)。

図2.免疫系エクソソームの構成分子

例えば、癌細胞由来エクソソームには、癌細胞由来の様々な蛋白質が含まれており、これが樹状細胞に取り込まれ、抗原蛋白質の分解とMHCクラスⅠ分子へのクロスプレゼンテーションにより、癌細胞特異的な細胞傷害性T細胞の活性化を引き起こす3)

この機構を応用することにより、癌細胞由来エクソソームを用いた抗腫瘍免疫療法の開発が期待されている。一方、マクロファージなど貪食細胞由来のエクソソームには、その細胞が貪食した細菌由来の抗原が含まれており、エクソソームを介してその抗原をより強い抗原提示能を持つ樹状細胞へと受け渡すことで、T細胞の効率的な活性化を促進することが可能である4)。この機序を用いて効果的なワクチンの開発が期待されている。

エクソソームによるRNAの伝播

エクソソームには蛋白質抗原のみならず、分泌細胞由来のmRNAやnon-coding RNA(特にmiRNA)が含まれており、その機能が注目されている5)。これらのRNAはエクソソームの脂質二重膜に守られている為、RNaseにより分解されず、血中や体液中で安定なまま存在している。エクソソームとその分泌細胞のどちらにも検出されるRNAがある一方で、どちらかのみにしか検出できないRNAも存在しており、特定のRNAをエクソソームへ選択的に取り込むメカニズムが存在すると想定されている。

標的細胞に取り込まれたエクソソームは、エンドソーム膜と融合することにより、中に抱え込んでいたRNAを標的細胞の細胞質へと放出する(図1)。放出されたmRNAは蛋白質に翻訳される一方、miRNAは標的遺伝子の翻訳を抑制することで、エクソソームは標的細胞内での遺伝子発現を制御することが示されている。

免疫系においてこの機構は、外敵に遭遇した免疫細胞が未遭遇の細胞に対して自身の活性化状態を、RNAを介して水平伝播させることにより、両者が一丸となって外敵に対抗する手段として用いられると想定されている。

エクソソームによる免疫応答の制御

エクソソームには様々な免疫関連分子が載っており、これらの分子を介して免疫応答を制御することが明らかとなっている。例えば、細胞傷害性T細胞やナチュラルキラー細胞由来のエクソソーム上には、FasリガンドやTRAIL、CD40リガンドなどのTNFファミリー蛋白質が載っており、標的細胞にアポトーシスを誘導する6)(図2)。

同様に癌細胞の中には、FasリガンドやTRAILなどを載せたエクソソームを放出するものがあり、免疫細胞にアポトーシスを誘導して、免疫からの攻撃を逃れることが報告されている7)。一般にTNFファミリー蛋白質は膜結合型として産生され、膜型メタロプロテアーゼに切断されて可溶型へと変化する。アポトーシス誘導活性は主に膜結合型が担い、可溶型の活性は弱いことが知られている8)

エクソソーム上のTNFファミリー蛋白質は、膜型メタロプロテアーゼによる切断を受けずに安定であるとともに、膜を介して三量体を形成することで、強いアポトーシス誘導活性を有している。更に、エクソソームによるTNFファミリー蛋白質の運搬は、様々な炎症疾患や自己免疫疾患の発祥にも関与していると考えられている。

例えば、間接リウマチ患者の滑膜線維芽細胞から放出されるエクソソームには、膜結合型のTNF-αが高濃度に集積しており、関節リウマチの病態を増悪させている9)

また、癌細胞由来エクソソームには、免疫細胞にアポトーシスを誘導する以外にも、様々な免疫抑制効果があることが報告されている。例えば、エクソソームがナチュラルキラー細胞に作用すると、癌細胞の認識機構を担うNKG2Dレセプターの発現を抑制して癌細胞傷害性を低下させる10)

一方、癌細胞由来エクソソームが単球に取り込まれると、エクソソーム内に含まれるTGF-βやプロスタグランジンE2などの作用により、単球を骨髄由来免疫抑制細胞へと分化誘導する11)。この細胞は、IL-10など様々な免疫抑制分子を放出し、免疫担当細胞の不活化や、制御性T細胞の誘導を促進して抗腫瘍免疫を抑制することが知られている。これらの機序を介して、癌細胞は自らを攻撃する免疫細胞の機能を抑制し、癌の進展を促進すると考えられている。

おわりに

本稿では、免疫系におけるエクソソームの機能について焦点を当てたが、エクソソームは神経系や内分泌系など様々な種類の細胞から放出され、蛋白質や脂質、mRNA、miRNAなどを運ぶことにより、種々の生理現象や病態の発症に関与することが示唆されている。

また、エクソソームは加齢とともに顕著に増加することが知られており、加齢に伴う組織の退縮にも関与すると考えられている。本稿では免疫系での機能として、抗原提示や炎症疾患・自己免疫疾患、癌の進展におけるエクソソームの役割についてこれまでの知見を記載したが、そもそもこれらの現象の根拠となっている実験では、培養細胞上清などから精製し濃縮されたエクソソームが用いられており、このような現象が生体内で本当に起きているのかは実のところ未だに確かではない。

エクソソームの生理作用をあきらかにする唯一の方法は、エクソソームの放出機構を明かにし、それを亢進または阻害することによって、どのような生理現象が引き起こされるのかを解明することであり、更なる研究の発展が期待される。

また、これまでエクソソームを精製する方法として、PEG沈殿法を利用した市販キットや超遠心法が主に用いられてきたが、これらの方法では非常に多くの夾雑物が混入しており、実験結果が本当にエクソソームの構成分子による作用であるかどうかは確かではない。

幸いにも今回、和光純薬が開発した新たな精製キット(コードNo.293-77601)は、従来とは異なる精製機序により圧倒的に高純度なエクソソームをインタクトな状態で精製することが可能であり、エクソソーム本来の生理機能を解明するのに大きく貢献すると期待している。

最後に、免疫系におけるエクソソームの機能が明らかになるとともに、エクソソームを用いた新たな治療法の開発が期待されている。例えば、本稿で述べた癌細胞由来エクソソームの機能を阻害することにより、抗腫瘍免疫の効果を高めることが可能になるであろう。または、癌患者の血液から癌細胞由来エクソソームを取り除くことが有効な治療法になるかもしれない。

逆に、樹状細胞などの機能を操作することにより、免疫抑制性エクソソームの産生を促し、炎症患者や自己免疫疾患の治療に用いることも可能となるかもしれない。今後の研究の発展により、エクソソームの機能解明と臨床応用への適応を拡大し、様々な疾患の治療にエクソソームを用いることができると期待される。

参考文献

  1. Colombo, M. et al. : Annu. Rev. Cell Dev. Biol., 30, 255 (2014). DOI: 10.1146/annurev-cellbio-101512-122326
  2. Montecalvo, A. et al. : J, Immunol., 180, 3081 (2008). DOI: 10.4049/jimmunol.180.5.3081
  3. Wolfers, J. et al. : Nat. Med., 7, 297 (2001). DOI: 10.1038/85438
  4. Giri, P. K. and J. S. Schorey : PLoS One, 3(6), e2461 (2008). DOI: 10.1371/journal.pone.0002461
  5. Valadi, H. et al. : Nat. Cell Biol., 9, 654 (2007). DOI: 10.1038/ncb1596
  6. Monleon, I. et al. : J. Immunol., 167, 6736 (2001). DOI: 10.4049/jimmunol.167.12.6736
  7. Andreola, G. et al. : J. Exp. Med., 195, 1303 (2002). DOI: 10.1084/jem.20011624
  8. Tanaka, M. et al. : Nat. Med., 4, 31 (1998). DOI: 10.1038/nm0198-031
  9. Zhang, H. G. et al. : J. Immunol., 176, 7385 (2006). DOI: 10.4049/jimmunol.176.12.7385
  10. Taylor, D. D. et al. : Clin. Cancer Res., 9, 5113 (2003).
  11. Valenti, R. et al. : Cancer Res., 66, 9290 (2006). DOI: 10.1158/0008-5472.CAN-06-1819

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