「キレイ」が数値化される!「ATP検査」ってなに?
本記事は、キッコーマンバイオケミファ株式会社 関 智章 様に執筆いただいたものです。
キッコーマンバイオケミファ(株)は、ATPふき取り検査試薬のメーカーとして、30年近く衛生検査事業を展開しております。
今回は微生物検査とATPふき取り検査(A3法)の違いとATP測定の原理についてご紹介いたします。
微生物検査とは
微生物検査は、原材料や製品がどれだけ細菌に汚染されているかを知ることができる検査です。一般生菌数、大腸菌群、黄色ブドウ球菌など菌の種類によって試験方法が異なり、結果が出るまでに約2~5日ほど要します。また、検査を行うためには培養技術の習得が不可欠な他、培養の為の恒温器や滅菌装置といった設備・機器も必要となります。
ATPふき取り検査(A3法)とは
A3法はATP(アデノシン3リン酸)とその分解物であるADP(アデノシン2リン酸)、AMP(アデノシン1リン酸)を汚染指標として、ふき取り面の清浄度を評価する迅速検査法です。測定試薬「ルシパック A3」の綿棒で検査対象面をふき取り、試薬と反応させた後、測定器「ルミテスター」に入れることで、誰でも簡単に約10秒で測定ができます。結果は数値で表示されるため、客観的な管理が可能です。
ATP測定の原理
ATP測定では、ホタルが光る原理(ルシフェラーゼによる発光反応)を応用しています(図1)。酵素(ルシフェラーゼ)の存在下で、ホタルが持つ基質(ルシフェリン)とATPが反応すると発光が起きます。この光の強さを測定することで、ATP量を測定することができます。
余談ですが、1980年代は、測定系に必要なルシフェラーゼはホタルから精製された物しかなく、安定性も低かったことから実用化には課題がありました。弊社では1987年にゲンジボタルのルシフェラーゼ遺伝子のクローニングに成功したことで、ルシフェラーゼの大量生産が可能となりました。その後も遺伝子改変を用いた酵素改良により、測定系に適した安定性の高いルシフェラーゼが得られ、今日の弊社の衛生検査事業に続いています。
ATPふき取り検査(A3法)と測定原理
汚染指標として用いられているATPですが、ATPは酵素や加熱、長期間の保存などの影響で、ADP(アデノシン2リン酸)やAMP(アデノシン1リン酸)に分解されます。弊社では、より高いレベルでの衛生管理を実現にするには、ATPだけではなく、その分解物であるADP、AMPも検出することが重要と考え、ATP+ADP+AMPを同時に測定可能なATPふき取り検査(A3法)のキットを開発・製造しています。(写真:測定試薬「ルシパックA3」/測定器「ルミテスターSmart」)
従来のATP測定と異なり、A3法ではADPをATPに再生する酵素(PK:ピルビン酸キナーゼ)と、AMPをATPに再生する酵素(PPDK:ピルビン酸リン酸ジキナーゼ)を測定系に加えています(図2)。ATPはルシフェラーゼと反応した際に、AMPに分解されますが、A3法ではこのAMPをPPDKにより再生することにより、より高感度に、安定した発光量を得ることに成功しました。
従来法とA3法の比較
弊社の研究では、生の食材にはADPが多く、加工食品にはAMPが多い傾向にあることが確認されています。図3はさまざまな食品を用いてルシパックA3(ATP+ADP+AMPを測定する試薬)、ルシパックPen(ATP+AMPを測定する試薬)、ルシパックⅡ(ATPのみ測定する試薬/現在は終売)の測定値を比較した結果です。
食肉や食肉加工品の測定では、生の食肉においてATP法やATP+AMP法と比べて、A3法の方が高いRLU値を示しました。一方、加工食肉について見ると、ソーセージではATP+AMP法とA3法は同程度のRLU値を、ベーコンではA3法の方がやや高いRLU値を示しました。これは、生の食肉がADPを多く含んでいるのに対し、加工食品ではそれらが調理工程などにより、AMPに変化しているためだと考えられます。
生の魚介類と加工食品についても同様の傾向が見られます。乳製品でも、加工度が低い食品においては、A3法の方が顕著に高いRLU値を示す傾向があることが認められます。
以上の結果から、食肉や魚介類、乳製品、発酵食品のいずれにおいても、原料由来から製品由来まで、食品残渣を広く検出できる方法として、A3法は有用であると考えられます。