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キレイの現場② 各種施設の感染対策における活用例

本記事は、キッコーマンバイオケミファ株式会社 関 智章 様に執筆いただいたものです。

キッコーマンバイオケミファ(株)はATPふき取り検査試薬のメーカーとして、30年近く衛生検査事業を展開しております。ビルメンテナンス・清掃業界におけるATPふき取り検査(A3法)の活用についてご紹介いたします。

ビルメンテナンス業務の衛生管理

図1のようにビルメンテナンス業務は多岐に渡りますが、近年では特に、環境衛生管理業務に対する関心が高まっています。

図1:主なビルメンテナンス業務
図1:主なビルメンテナンス業務
※公益社団法人 全国ビルメンテナンス協会HP内容より作成

環境衛生管理業務は美観と衛生環境、快適な空間の提供が主な目的ですが、洗浄や清掃といった作業だけでなく、作業結果に対する評価 (=清掃品質)の明示が求められています。また、新型コロナウイルス (COVID-19) の世界規模での感染拡大の後は、感染リスクをできるだけ少なくするサービスの提供も求められています。

科学的根拠に基づいた清掃作業と評価を実施することが、サービス依頼主ならびに施設利用者の満足度にもつながります。

環境表面に潜むリスク

ウイルスや病原性微生物は環境表面で一定の期間生存することが知られています。実際に、多くの人が集まる場所において、ヒトが多く触る場所(高頻度接触面)からは病原性のあるウイルスや菌の検出が報告されています(図2)。

図2:環境表面に潜むリスク
図2:環境表面に潜むリスク

これらのウイルスや菌は、飛沫(唾液、鼻水)や手で運んだ汚れの中に含まれていると考えらます。そして、接触感染のリスクとなることから、徹底した清掃と消毒が不可欠です。

清掃前後の菌数とA3法の測定値の推移

病院のナースセンターにおいて、清掃前後で培養法とA3法の結果がどう変化するかを調べた結果が図3です。

図3:環境面における清拭前後の一般生菌数とRLU値の推移
図3:環境面における清拭前後の一般生菌数とRLU値の推移

デスクの表面(10 cm 四方)に対して、2本の綿棒を並べて、同時にふき取りを実施し、一方を一般生菌用のプレートによる菌検査に、もう一方をA3法で測定に用いました。

清掃前の一般生菌数は220 CFU、A3法の測定値は4,358 RLUでしたが、表面をマイクロファイバークロスで清拭した後、同様の方法で測定をすると、それぞれ0 CFU、253 RLUでした。清拭後に、菌とともにATPも減少しているのが分かります。

感染リスク低減に対するATPふき取り検査(A3法)の活用

ATPふき取り検査では、ウイルスを直接測定することはできませんが、ウイルスが付着している可能性がある汚れが清掃、洗浄で取り除けたかを確認できます。図4は清掃作業とATPふき取り検査(A3法)による品質チェックの流れになります。

図4:感染リスク低減のための環境表面の清掃手順
図4:感染リスク低減のための環境表面の清掃手順

まず清拭・洗浄により有機物汚れを除去し、ATPふき取り検査を実施します。汚れが残存していると消毒剤が浸透しない、効果が弱まるといった場合があるので、測定値が高ければ再清拭・再洗浄をします。値が下がったことを確認してから、最後に消毒をします。

なお、この手順は医療現場の内視鏡洗浄評価でも実施されています。

より高品質な清掃業務のために

きちんと清掃ができたかを目視だけで確認するのは、人によって判断基準が異なるため、清掃の品質にばらつきが生じる原因となります。

  • きちんと清掃できたかを、客観的な物差しで確認したい
  • きちんと清掃できたかを、その場ですぐに確認したい
  • 清掃の品質を記録として残し、お客様へも伝えたい

そのようなニーズから、ルミテスター SmartとルシパックA3によるATPふき取り検査(A3法)は、様々な場面で活用されています。キッコーマンバイオケミファ(株)Webサイトでは、清掃・ビルメンテナンス業界向け活用ハンドブックとして、具体的な検査ポイントや運用モデルも紹介していますので、環境衛生管理業務の見直しにお役立てください。

ビルメンテナンスのATPふき取り検査の活用に続いて、入浴施設の衛生管理におけるATP検査の活用についてご紹介いたします。

レジオネラ症とは

レジオネラ症は、レジオネラ属菌によって引き起こされる細菌性感染症で、劇症型のレジオネラ肺炎(肺炎型)と、一過性のポンティアック熱(非肺炎型)があります。重篤な場合は死に至る場合もあり、レジオネラ症の患者を診察した医師は、保健所に届出をする義務があります。

レジオネラ属菌は、もともと土壌や水環境に普通に存在する菌ですが、エアロゾルを発生させる人工環境(噴水等の水景施設、ビル屋上に立つ冷却塔、ジャグジー、加湿器等)や循環水を利用した入浴施設などが増え、感染機会が増えていると言われています。また、入浴施設を利用する高齢者の増加、レジオネラ属菌の検出技術の進化などにより、年々その報告数は増加傾向にあります(図5)。

図5:年度別レジオネラ症例報告数
図5:年度別レジオネラ症例報告数

入浴施設におけるレジオネラ属菌の感染経路と対策

図6:浴槽配管におけるレジオネラ増殖のイメージ
図6:浴槽配管におけるレジオネラ増殖のイメージ

入浴施設では「レジオネラ属菌を含むエアロゾルが浮遊し、入浴者の体内に取り込まれる」という感染経路が考えられています。一方で、最近の入浴施設はジェットバスやジャグジーなど、様々なエアロゾルを発生させる設備が設置されているため、「レジオネラ属菌を増殖させない対策」が重要となります。

レジオネラ属菌は浴槽水や冷却塔などの閉鎖水域において、アメーバを宿主として増殖します。入浴施設では、循環式浴槽の配管内でバイオフィルムを形成する可能性も高く、その場合は塩素消毒の効果も低減します(図6)。

入浴施設の衛生管理においては、換水や洗浄のほか、適切な殺菌剤による処理等をおこない、このような細菌が増殖しない、アメーバなどが存在しない環境を維持することが必要です。

レジオネラ対策におけるATP検査の活用

レジオネラ属菌の検出には培養あるいは遺伝子検査による同定が必要ですが、コストや時間の観点から、入浴施設の現場においてリアルタイムにレジオネラ汚染を把握することは困難です。そこで、現場で簡易に実施できるレジオネラ汚染リスクの評価方法としてATP検査が活用されています。

入浴者が浴槽水に持ち込む主な汚れは、アンモニア、脂肪、皮脂、塩分、鉄分と言われています。これらの汚れが蓄積すると、細菌とそれを餌としたアメーバ、レジオネラ属菌の増殖が起きます。そこで、浴槽面や浴槽水中のATP量を測定することで、レジオネラ汚染のリスクを評価できるという報告が出ています(表1)。

表1:レジオネラ対策に関するATP検査の報告例
表1:レジオネラ対策に関するATP検査の報告例
※文献No.1-3の参考値はATP+AMP法(ルシパックPen)での測定値のため、A3法の換算値を併記

ATP検査については、綿棒で環境面の汚れをサンプリングする「ふき取り検査」と、浴槽水そのものをサンプリングする「水中法」があります。それぞれ行政から推奨基準値が示されていますが、混同しやすいので、注意が必要です。

A3法を用いた日常管理方法の例

入浴施設の衛生管理に、A3法を取り入れた活用例が図7です。浴槽水の状態把握においては、水中法で40 RLU未満を安全ゾーン、40~125 RLU未満までを要注意ゾーン、125 RLU以上を危険ゾーンと定義しています。

図7:A3法を用いた浴槽水の日常管理方法例
図7:A3法を用いた浴槽水の日常管理方法例

安全ゾーンにおいては、レジオネラ属菌の検出率は0.3%だったのに対し、危険ゾーンの検出率は22%と大きく増加しています。

要注意ゾーンは3.13%と検出率が低く、一見問題ないように見えます。しかしながら、125 RLU近辺を境に大きく検出率の上昇が見られることから、これ以上の衛生状態の悪化が起きた場合は、すみやかに危険ゾーンに移行する状態として、改善措置の必要があると考えられます。

ふきとり検査のポイントや測定例等につきましては、キッコーマンバイオケミファ(株)Webサイトにて、清掃・ビルメンテナンス業界向けの活用ハンドブックとして公開しています。また、入浴施設・給湯設備のレジオネラ対策におけるATP検査の活用事例も「製品活用事例」にて公開されていますので、ご興味がある方は是非ともご覧ください。

参考
  1. 公益社団法人 全国ビルメンテナンス協会
    https://www.j-bma.or.jp/
  2. キッコーマンバイオケミファ株式会社「ビルメンテナンス業務の衛生管理>活用ハンドブック」
    https://biochemifa.kikkoman.co.jp/kit/atpfuki/buma/
  3. 国立感染症研究所
    「感染症発生動向調査 週報(IDWR)」
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/idwr.html
    「レジオネラ症とは」
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ra/legionella/392-encyclopedia/530-legionella.html
    「ATP測定による入浴施設の衛生管理・レジオネラ汚染リスク評価」
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-sp/2252-related-articles/related-articles-400/3605-dj4008.html
  4. キッコーマンバイオケミファ株式会社「製品活用事例」
    「入浴施設・給湯設備におけるレジオネラ対策~ATP検査(水中法、ふき取り検査)を用いた清浄度評価の現場事例~」
    (株式会社関東保全サービス取締役会長/レジオネラ対策センター代表 堀井孝志氏)
    https://biochemifa.kikkoman.co.jp/support/casestudy/

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