【テクニカルレポート】食品に残留する農薬などのHPLC分析における前処理 エビ試料中のテトラサイクリン系抗菌剤のHPLC分析
本記事は、和光純薬時報 Vol.73 No.3(2005年7月号)において、和光純薬工業 試薬研究所 久保田 守が執筆したものです。
近年、食品に残留する農薬、飼料添加物または動物用医薬品の成分が社会的に問題となっており、厚生労働省より試験方法が示されている(通知 試験法)1)。本試験法によれば、テトラサイクリン系抗菌剤(オキシテトラサイクリン:OTC、クロルテトラサイクリン:CTC、テトラサイクリン:TC、以下TC類)の分析は、抽出試料の前処理にスチレンジビニルベンゼン共重合体ミニカラムを用いた固相抽出による前処理とHPLC-蛍光検出法が採用されている。
しかし、スチレンジビニルベンゼン共重合体ミニカラムで前処理した試料液はTC類の回収は良好であるが、試料によっては不純物を十分除去できず、TC類の検出に妨害となる場合がある。
これらの不純物とTC類の分離には弱酸性カチオン交換充てん剤を充てんしたイオン交換カラムが効果的であり2)、今回、新たに開発したポリマー系イオン交換カラムPresep® CM(弱酸性カチオン交換カラム)を、公定法の前処理に追加して用い、エビを試料として残留TC類の測定を検討したので紹介する。
試料の前処理は公定法の"魚介類の場合"を参考として、固相抽出条件を図1のように設定した。分析カラムはWakopak® Navi C18-5、4.6 x 150mm(ODSカラム)を、前処理用スチレンジビニルベンゼン共重合体ミニカラム相当品はPresep®-C RPP(short)を使用した。
固相抽出カラムのTC類の回収率は混合標準液とエビ試料をホモジナイズ処理した抽出試料に標準品を添加して測定した。その結果を表1~3に示したが、いずれの場合も良好な結果であった。その時のクロマトグラムを図2(1)~(6)に示した。
エビ抽出試料をPresep®-C RPP(short)のみで前処理した場合(1)と、さらにPresep® CMで処理をした場合(3)、のクロマトグラムの比較から、Presep® CMで処理した場合は、クリーンナップ効果が顕著であった。
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Table 1. 標準液回収率:Presep®-C RPP(Short)
OTC TC CTC 1 99.6 97.2 96.2 2 102.1 100.8 98.5 3 105.2 102.3 100.0 4 100.8 99.0 97.5 x̄
SD
CV(%)101.9
2.4
2.499.8
2.2
2.298.0
1.6
1.6* 標準液試料:EDTA含有くえん酸Buffer 50 mLに標準品 各1 µgを添加
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Table 2. 標準液回収率:Presep® CM
OTC TC CTC 1 96.2 89.3 91.2 2 95.1 91.3 94.0 3 97.9 89.9 93.3 4 97.8 91.5 94.5 x̄
SD
CV(%)96.7
1.4
1.490.5
1.1
1.293.2
1.4
1.5* 標準液試料:CH3OH 5 mLに標準品各1 µgを添加
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Table 3. エビ抽出液の添加回収率
OTC TC CTC 1 96.9 86.8 86.7 2 97.1 86.9 85.7 3 94.8 89.8 88.3 4 95.7 89.9 90.7 x̄
SD
CV(%)96.1
1.1
1.288.3
1.7
2.087.9
2.2
2.5* エビ抽出試料に標準品各1 µgを添加
以上、エビ試料中のTC類の分析において固相抽出カラムの果たす役割は大きく、ODSと同様に逆相的な保持挙動を示すPresep®-C RPP(short)には、高極性不純物の除去効果はあるが、目的薬物と極性が近い不純物は除去できず、蛍光検出法でも多数の妨害ピークの溶出が認められた。
それに加えてPresep® CMの使用はスチレンジビニルベンゼン共重合体ミニカラムで除去できなかった妨害物の除去に大きな効果があり、前処理操作はone step増えるものの分析精度は大幅に改善されている。
本分析例が何かの参考になれば幸いである。
参考文献
- 「食品に残留する農薬、飼料添加物又は動物用医薬品の成分である物質の試験法について」(平成17年1月24日付け食安発第0124001号厚生労働省医薬食品局食品安全部長通知).
- 和光純薬時報, 71(1), 5(2003).