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【連載】Talking of LAL「第63話 プラスチック製品とエンドトキシン試験」

本記事は、和光純薬時報 Vol.74 No.2(2006年4月号)において、和光純薬工業 土谷 正和が執筆したものです。

第63話 プラスチック製品とエンドトキシン試験

使い捨てのプラスチック製品は便利です。エンドトキシン試験でもプラスチック製品を使用することがまれではありません。このシリーズでも何度かプラスチック用具について考えてきました(Talking of LAL 第 15 話第 16 話第 55 話参照)。

今回は、もう一度プラスチック製品の使用について考えてみたいと思います。

アメリカ人の友人がこんなことを言っていました。「1990 年代の後半にプラスチック製品の添加剤に関係した規制が変わり、ポリプロピレン製の用具からそれまでと異なる物質が溶出し、これがリムルス試薬の反応を阻害した。そのため、リムルス試薬に関連したラボから、ポリプロピレン製の用具が消えた。」と。

その友人は、リムルス試薬には造詣が深く、知識と経験が豊富なので、その言葉に間違いがあるとは思えません。しかし、筆者らのラボでは、水をポリプロピレン製の遠心管に入れたり、ポリプロピレン製のピペットチップを使用したりしていますが、特に阻害を経験したことがありません。

ある種のポリプロピレン製用具がエンドトキシンを吸着することは、以前報告した通りです 1)。エンドトキシンの吸着ではないかと、その友人に尋ねましたが、リムルス試薬をその容器に入れると感度が下がったとのことなので、やはり阻害物質が出ていたのかもしれません。

筆者は、第 15 話で、リムルス試験に使用する用具に要求される条件として、「エンドトキシン(LAL 活性化物質)の汚染がないこと」、「エンドトキシンや試料を吸着しないこと」、「エンドトキシンの活性に影響を与えないこと」を挙げています。

もし、プラスチックから阻害物質が出るとすると、「リムルス試薬の活性化に影響を与える物質が溶出しないこと」も付け加える必要があるでしょう。日本薬局方には「マルチウェルプレート及びマイクロピペット用チップなどのプラスチック製品を用いる場合は、エンドトキシンが検出されないこと及びエンドトキシン試験に対する干渉作用のないことが確認されたものを用いる。」と記載されています。

「エンドトキシン試験に対する干渉作用がない」とは、筆者が考えた条件のいくつかを包括した表現で、言い得て妙と言えるでしょう。

さて、上記のようなことも考慮してプラスチック製品の「エンドトキシン試験に対する干渉作用」を調べる方法を考えてみましょう。筆者としては、まずリムルス試験に干渉を与える因子が溶出していないこと、次にエンドトキシンの汚染がないこと、最後にエンドトキシンの吸着がないことを調べる作戦を考えています。

すなわち、まず容器の水抽出液に対してエンドトキシンの添加回収試験を行い、抽出液中にリムルス試験に対する反応干渉因子が含まれないことを確認します。次に、エンドトキシン検出用抽出液(和光純薬)を用いてエンドトキシンの汚染を調べます。エンドトキシン検出用抽出液の効果に関しては、筆者らの論文 1)をご参照下さい。

最後に、エンドトキシン溶液を容器に入れ、その活性の変化を調べます。抽出液に反応干渉因子が含まれず、エンドトキシンの汚染も検出されず、入れたエンドトキシン溶液の活性が変化しなければ、その容器は使用してもよいと判断できると思うのですが、いかがでしょうか。

エンドトキシン試験で用いる器具は、高い温度で乾熱できるガラス用具が主に用いられます。いわば、エンドトキシン試験における器具のゴールドスタンダードはガラス器具です。

しかし、ガラス器具にも問題がないわけではありません。ガラスの種類によっては、微量金属の溶出によりエンドトキシン活性が低下することもあります(Talking of LAL 第 10 話参照)。

もし、ガラス器具が、単に乾熱によってエンドトキシンを不活性化できるという理由だけで選ばれてきたとすると、もう少し慎重に考える必要があるかもしれません。

筆者はなにも、ガラス用具よりプラスチック用具の方を推奨しようとしているのではありません。エンドトキシン試験に使用する用具の満たすべき条件を考え、これらを確認していく必要があるのではないかと考えているのです。

それにしても、プラスチックの微量添加物質が使用者に予告なしに変更され、溶出する主成分以外の物質が変化するというのであれば、定期的に使用するプラスチック製品の性能を確認することも考える必要があるのでしょうか。

参考文献

  1. 土谷正和 他:防菌防黴誌,24, 357 (1996).

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