【連載】Talking of LAL「第64話 リムルス試薬は無菌製剤か」
本記事は、和光純薬時報 Vol.74 No.3(2006年7月号)において、和光純薬工業 土谷 正和が執筆したものです。
第64話 リムルス試薬は無菌製剤か
リムルス試薬は、エンドトキシンの測定に使用されています。特に医薬品や医療用具のエンドトキシン試験において、リムルス試薬が活躍しています。リムルス試薬を用いて試験する医薬品及び医療用具の多くは、無菌製品です。
今回は、エンドトキシンを測定するリムルス試薬が無菌製剤かどうかを考えてみたいと思います。
「無菌である」ということを証明するのが非常に難しいことは、よく知られています。
「無菌であること」が「無菌試験に合格する」ということではないことはご存知の通りです。無菌試験の検出力が非常に低いことは、微生物の性質を考えればすぐに納得されることでしょう。
まず、微生物は固体であり、試料中で不均一に存在するため、サンプリングが難しいことは想像できます。しかも、無菌的に製造された製品中にはもともと微生物が少ないのですから、その一部をサンプリングしたからといって、サンプルの中に微生物が入ってくる可能性は非常に低いことが判ります。
しかも、もしうまく微生物をサンプリングできたとしても、無菌試験の条件がその微生物を増殖させる条件に適合しているかどうかは判りません。
微生物は条件が整えば増殖しますから、少しでも生きた微生物が混入していると、これが増えてくる可能性があります。これも微生物の困った性質で、試験で見逃した生菌が増殖して、いつの間にか製品がだめになるということにもなります。
このようなこともあって、無菌製品を造る上で重要視されているのが、工程のバリデーションです。例えば、湿熱滅菌のバリデーションでは、コールドスポットが必要な温度(例えば 121℃)に必要な時間保たれているかどうかを科学的に証明することになります。
通常、無菌性の保証レベル(SAL)が 10-6 となる条件を目標とします。このように、無菌性の保証には、無菌性を検査する方法ではなく、製造工程において製品が十分な確率で無菌になる条件を採用する方法が取られています。
さて、リムルス試薬は無菌製剤であるかどうかが、今回のテーマです。米国では以前、リムルス試薬はワクチンなどの生物製剤と同様に分類されていました。従って、リムルス試薬の品質試験のひとつとして無菌試験を行っているメーカーがほとんどです。しかし、ラベルや添付文書にはリムルス試薬が無菌製剤であるとは書いていません。
製造の観点から見るとどうでしょうか。リムルス試薬はカブトガニの血球を取るところから、溶血、精製、凍結乾燥などの工程を経て製造されます。この間、無菌的操作を駆使して製造されますが、特に滅菌工程はありません。リムルス試薬は蛋白製剤ですから、加熱はできませんし、エンドトキシンや β-グルカンの汚染の可能性を考えるとろ過などもできれば避けたい工程です。
リムルス試薬の製造方法は、カブトガニの血液が無菌であれば、原則として無菌が保たれるような方法です。しかし、まずカブトガニの血液が無菌かどうかについては、いろいろ議論があるところだと思います。また、無菌的な操作を行っているとはいえ、最終滅菌を行っておらず、検査も無菌試験のみということであれば、「リムルス試薬は無菌である」と断言するのは難しそうです。
もともとリムルス試薬は、単なる検査薬です。注射用の医薬品ではありません。従って、性能に問題がなければ、完全に無菌である必要はありません。しかし、微生物の混入のあるリムルス試薬を製品化することも難しく、グラム陰性菌や真菌の汚染があれば、リムルス試薬はゲル化し、だめになってしまうでしょう。すなわち、リムルス試薬は自己指示薬的な性質を持っており、ゲル化や濁りでエンドトキシンや β-グルカン、さらには微生物の汚染を知らせます。
これらのことを考えると、リムルス試薬は限りなく無菌に近いが、無菌であることを保証することは難しい製剤であるといえるかもしれません。
エンドトキシンや β-グルカンは、耐熱性が強く、その原因菌が死んでも残ります。このことから、エンドトキシン及び β-グルカンの汚染なく製造を行うことは、無菌製造以上に難しいと思われます。しかし、生菌が少しでもいると、増殖して思わぬ事故に遭うことがあります。
そして、生菌の検出は、エンドトキシンや β-グルカンの検出よりも難しいのではないでしょうか。いずれにしても、微生物やその成分の汚染を防ぐことは、医薬品や医療用具だけでなく、検査薬の製造においても重要な課題です。