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【連載】エンドトキシン便り「第2話 Low Endotoxin Recovery(LER)について(2)」

本記事は、和光純薬工業 試薬化成品事業部開発第一本部 BMS 開発部 BMS センター 高須賀 禎浩が執筆したものです。

はじめに

前回は Low Endotoxin Recovery (LER) の現象面を中心にお話ししました。今回は、規制当局、特に FDA の動向についてお話しさせて頂きます。

LER 現象はポリソルベート等の界面活性剤とクエン酸などが共存した際に起きる特異な現象ではあります。しかし FDA は、さまざまな場所で LER 現象について関心を持っていることを表明しています1,2,3)

また、FDA は、①今までに申請された生物学製剤の中で添加物としてポリソルベートを含んでいる製剤について、LER 現象が起こっていることを確認したと報告しています1)

また、②LER 現象と直接関係があると思われる医療上の問題は確認していない2)とも述べています。以上は前回のおさらいです。

FDA が従来から主張しているエンドトキシン測定に関する要求事項

エンドトキシン測定について、FDA は 2012 年に新しいガイダンス(Guidance for Industry, Pyrogen and Endotoxins Testing)を発表しました。その中には以下のような要求事項が有ります。

Q3:サンプルの保管や取り扱いは重要ですか?

A3:重要です。(中略)測定可能なエンドトキシンの安定性データに基づいて、エンドトキシンを測定するサンプルの保存方法や、撹拌を含む取扱い方法を確立する必要があります。(以下省略)

FDA は、エンドトキシンの活性が時間や温度などのファクターによって変化すると理解しており、サンプリングから測定までのファクターに関するバリデーションを求めています。

また FDA は 2013 年以降の生物学的製剤の申請の出荷試験において、エンドトキシン試験の妥当性確認を要求しています1)。この妥当性確認の要求の中には、Q3 の保存方法を含むサンプルの取り扱い方法についても述べられています。

LER 現象に関する FDA の関心事

FDA は LER 現象を起こした検体のの全てではありませんが、"ある検体において、従来のエンドトキシン試験では検出されないが、ウサギ発熱性試験で発熱性物質が検出されること" に懸念を表明しています1)

この様な懸念の為に、FDA は LER 現象に関してケースバイケースで対処する1)と表明し、また、実際の生物学的製剤申請において、LER 現象に関する要求を行っています。

FDA の LER に関する要求事項

今までに FDA が要求している事項は1,2)

①希釈していない医薬品(Undiluted drug product)エンドトキシンを添加すること。

LER の現象に関しては、界面活性剤やクエン酸などの濃度が重要なファクターであるために、希釈した溶液では LER 現象を見逃す危険性を指摘しています。

②サンプルを保存する容器は実際の医薬品とよく似た容器を使用すること。

容器によってエンドトキシンの保存安定性が左右される危険性があり、実際に使用する容器に素材や形状が類似した保存容器の使用を求めています。

③添加エンドトキシンには RSE (Reference Standard Endotoxin) や CSE (Control Standard Endotoxin) を使用すること。

FDA も、精製を行っていない NOE (Naturally Occuring Endotoxin) の方が LER 現象を起こしにくいことは理解しています。しかし、NOE はある特定の菌株由来であるために、全ての菌を代表しているわけではありません。また、NOE を添加した方が、RSE や CSE を使用した時より添加回収率が良いことから、ワーストケースを想定して RSE 又は CSE の添加を推奨しています。

④生物学的製剤の申請時には LER 現象が起こるか確認を行い、下記の表に従ったデータ採取を要望しています。
USP
BET
ウサギ発熱性試験 Endotoxin Control Strategy
Non-Spiked 最終製品 Spiked 最終製品
No
LER
Non-pyrogenic USP LAL
LER Non-pyrogenic Pyrogenic ウサギ発熱性試験(当面の処置)
in-vitro のテストを開発
LER Non-pyrogenic Non-pyrogenic リスク評価を行う。
ポリソルベートを bulk に加える前にエンドトキシン規格を設ける。原料の EXT の管理。
in-vitro のテストを開発
LER Pyrogenic 不適

PFM Bacterial Endotoxin Summit, Philadelphia, PA, 2014 で使用した表を転記。

FDA 以外の規制当局の動向

現在のところ、日本の規制当局ならびにヨーロッパの規制当局から LER 現象に関する見解は示されていません(2015 年 6 月現在)。今後、日本の規制当局が何らかの見解を示す可能性はあり、その規制当局の動向について注視する必要があります。

我々はこの現象に対してどうするべきか

処方中にポリソルベートやクエン酸、リン酸を含む場合は、FDA ガイダンス Q3 に従いサンプル保存のバリデーションを行うべきです。その際に LER 現象が観察された場合は、ウサギ発熱性試験との相関を取り、両者を比較すべきです。もし、ライセート試験とウサギ発熱性試験に差異が認められたならば、当分はウサギ発熱性試験を行うべきです。もちろん、LER 現象を克服する測定方法の開発、LER 現象の回避方法の開発は非常に重要です。

更に、エンドトキシンの混入が無いようにするのは最も重要な事項であり、特にポリソルベートを含まない状態の原料の段階からエンドトキシン汚染の管理を行うことは、リスク管理上、重要であると考えます。

今後の動向

LER 現象は各国の規制当局、学会、製薬メーカーおよびライセート試薬メーカーの間で、ある特殊な処方中での現象であり、更に、今まで積み上げられた発熱性試験に関するデータから、「LER 現象に関する問題はライセート試薬を使用したエンドトキシン試験の根本を覆す問題ではない」との共通認識が得られているものと考えています。しかし、「このまま何もせず放置しておいて良い問題ではない」という認識もあります。

本年(2015 年)の 9 月には PMF Bacterial Endotoxin Summit (BES) が "Low Lipopolysaccharide and Endotoxin Recovery." をテーマにして開催されます。また、新しい知見や見解が発表されましたら「Letter of Endotoxin(エンドトキシン便り)」を通じて皆様方にお知らせしていきたいと思います。

参考文献

  1. Patricia, F. Endotoxin Challenge - A Regulatory Perspective. Presented at PDA 9th Annual Global Conference on Pharmaceutical Microbiology, Las Vegas, NM, 2014
  2. Robert, M. LER: An FDA Reviewer's Perspective. Presented at the PMF Bacterial Endotoxin Summit, Philadelphia, PA, 2014.
  3. Patricia, F. Low Endotoxin Recovery: An FDA Perspective. Bio Pharma Asia. 2015, 4

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